CD特異な機能でフィールド拡大

α、γも低廉化で普及

サイクロデキストリン(CD)は、環状オリゴ糖とも呼称され、環状の分子構造内にさまざまな物質を包み込んだり、逆に放出したりする特異な機能を持つ。これにより、可溶化、安定化、マスキングといったさまざまな機能を発揮し、飲料や健康食品などの食品類や医薬品、化粧品などの商品設計に、いまや欠かせない素材。緩やかながらも年々応用領域を広げつつ、着実に市場を拡大している。最近では、現在国内市場で主流のベータ・サイクロデキストリン(β-CD)に加えて、かつては高価だったため用途が限られていたアルファ・サイクロデキストリン(α-CD)やガンマ・サイクロデキストリン(γ-CD)が、コスト低廉効果により食品分野を中心に市場を形成しつつありこれが刺激となってCD市場全体の拡大につながることも期待されている。

多様な成分を包接

サイクロデキストリンは、原料でん粉にCD生成酵素を働かせてつくる環状オリゴ糖で、機能性糖質の一種。環状分子内が疎水性で外側が親水性であることから、内部空洞にさまざまな分子を取り込み、安定化させる特異な包接機能がある。α、β、γの環状分子内径は、順に四・五―五・三オングストローム(Å)、六―六・五Å、七・五―八・三Åとなっており、β-CDの内径が、ちょうどベンゼン核一個が収まる大きさだ。
サイクロデキストリンが自然界で発見されてからすでに一世紀を経ているが、工業的には現在、環状分子を形成するブドウ糖の数が六個のα-CD、七個のβ-CD、八個のγ-CDが生産されている。このCDをもとに、マルトースを付加した分岐タイプCDやメチル化あるいはヒドロキシプロピル化した化学修飾CDなどの誘導品が市場に供給されている。また、さまざまな有効成分を包接するかたちで応用製品が市場に送り出されている。
サイクロデキストリンのサプライヤーは、日本食品化工、横浜国際バイオ研究所(製造は塩水港精糖)、メルシャン(塩水港精糖に生産委託)、ならびに独ワッカー・ケミーの米国法人で、サイクロデキストリンでは世界最大手のワッカーケミカル(旧ワッカーバイオケム)製品の総代理店となっているシクロケムなどだ。

食品特性改善で一大市場

サイクロデキストリンの市場は、食品をはじめ化粧品、医薬、農薬、樹脂、繊維など多様な分野に及ぶ。海外ではどちらかというと、「CDは化学素材としての認知度が高い」(大手CDメーカー)が、国内では全体で二十三億‐二十四億円とされるCD市場のうち、食品分野が約七割と圧倒的に大きな市場となっている。
食品分野におけるCDの応用は、有効成分の酸化・光分解・熱分解・揮散の防止、異味・異臭の除去、吸湿性・乳化性・溶解性付与など、食品の特性改善が主目的。食品の香気成分の安定化、苦味や辛味、特異臭のマスキング効果を狙ったものが多い。練りわさび、練り辛子、粉末茶や抹茶パウダーなどの応用がその典型。卵白の起泡性向上効果を狙った用途もある。

健食向け活況

また最近は、風味の維持改善効果と合わせ、健康志向に乗った健康食品、健康飲料、サプリメントなどへの応用が顕著だ。アミノ酸や各種酵素、ビタミン類、あるいは血糖値抑制効果を持つ有効成分の安定化、溶解性向上などが目的だ。
これら食品分野において、これまでCDの市場形成を牽引してきたのが、日本食品化工、塩水港精糖の関連会社でCDの応用開発・製造・販売を担う横浜国際バイオ研究所の両社だ。
日本食品化工は、水あめやブドウ糖の製造と同様の無溶媒法により製造した高純度のα、β、γ-CDを「セルデックス」のブランドで供給するほか、そのミックス品およびCDとシラップを混合した製品を送り出している。同社のCDは食品分野でも比較的飲料向けのウエートが高く、ホットベンダーで飲料中の香気成分が喪失するのを防止する目的などにも多くの実績を持つ。
最近の同社の応用例は、花王のカテキン飲料「ヘルシア」。カテキンは緑茶成分で、制がん作用や抗酸化作用、抗菌作用など近年注目されているが、渋みがある。これをCDによりマスキングすることで緩和し、カテキン含有量を増量させることが目的。
また、同社は昨年、江崎グリコの基本技術をもとに、ブドウ糖が九百個連なった高度分岐環状デキストリン(CCD)を共同開発、栄養補給目的のスポーツドリンクに応用されている。今後、クエン酸、乳酸などのマスキング用途にも展開を広げていく方針。

血糖値を抑制

一方、横浜国際バイオ研究所も、高純度CD「デキシーパール」や溶解性を向上させた分岐CDの「イソエリート」などを中心に食品分野での展開を強化している。同社が最近力を注いでいるのが、血糖値を下げる効果で著名なコタラヒム抽出成分をCDで包接・粉末化した「コタラヒムエキス末」。コタラヒムは、スリランカ原産のトチノキ科の植物で、長らく輸出が禁止されていたが、このほど特別に輸入が許可され、昨年製品化された。コタラヒムエキスは抽出品であるため独特の癖があるが、CDで緩和すると同時に透明感のあるワインレッド色にできる。同社は糖尿病予防の健康食品として、原体供給と合わせ一般食品としての用途開発も進める意向。
このほか同社は、ラズベリーケトンを包接したダイエットサプリメントや口臭除去用キャンディ向けなど、食品分野での展開を強化している。
これら国内メーカーに対しシクロケムは、米ワッカーケミカルのα-CD、γ-CDをベースに関連メーカーとの共同開発も含め、食品分野で積極的に市場開拓を進めている。αおよびγ-CDは、かつては高価で医薬などに用途が限定されていたが、ワッカー法により現在では一キログラム当たり二千-三千円と、β-CDと遜色ないレベルにまでコストを低減した。このため食品分野での応用に拍車がかかり、β-CD中心の国内市場でα、γ-CDが市場を形成しつつある。
これまでにα-CD自体に血糖値上昇抑制効果のあることを確認、水溶性難消化性デキストリンとして、糖尿病予防用素材で米飯、うどんなどへの応用開発を検討している。また同じα-CDに二酸化炭素を包接した製品を三共ライフテックが今年六月にも製品化し、カステラなどの起泡剤として販売開始する。また、整腸作用で知られる酪酸の包接製品を昨年発売、飼料添加剤、機能性食品素材として開拓中だ。

CoQ10安定

またγ-CDではワッカー社と共同で、驚異の若返りサプリメントとして知られながら光や熱に不安定な補酵素コエンザイムQ10(CoQ10)の安定化にγ-CDが有効であり、吸収率を飛躍的に高めることを突き止め、事業化を推進している。
このほかキッコーマンと共同で、トマトの皮含有の有効成分ナリンゲルカルコンの安定化、また八州水産とはマグロの頭をペースト化してγ-CDで包接、DHA・EPAを安定化させた製品を送り出している。さらに近日中に、健康食品メーカーのケンテック社と共同開発したコレステロール、中性脂肪減少効果のある熊笹エキスパウダーも市場に出る予定だ。

化粧品、医薬品、トイレタリー 非食品向け開発も活発

一方、非食品分野でもCDは活躍の場を広げている。日本食品化工はヒドロキシプロピルによる化学修飾CDを化粧水、コロンなどの香気成分安定化、保湿性向上用に展開している。また横浜国際バイオ研究所は、スクワランやラズベリーケトンを表面コーティングした機能性繊維の成分安定化を目的に、特殊化学修飾CDを素材供給している。
ヨウ素、臭素、シアン・ニトリルを中心にファインケミカルメーカーとしての基盤強化を推進中の日宝化学は、ヨウ素応用開発の一環でγ-CDを利用したヨウ素包接体(CDI)をシクロケムと共同開発し、市場開拓中。塩素の三倍とされるヨウ素の殺菌力を生かし、サニタリー・トイレタリー分野などに展開を図る。またシクロケムは日宝化学からCDIの供給を受け、さらにα-CDで包接することによりヨウ素の安定度を向上させた製品をSARS(重症急性呼吸器症候群)や鳥インフルエンザ対策に売り込む意向だ。
サイクロデキストリンの国内市場は、食品分野を中心としながらも、非食品分野への展開も徐々に進行しつつある。また海外に目を転じると、ワッカー社が最近、P&Gの消臭剤ファブリーズ向けに十年間の独占供給契約を結んだことから、米ワッカーケミカルが今年末にCD生産能力を現在の二倍の一万トンに倍増する予定。これにより、シクロケムの市場展開もさらに積極さを増すだろう。これが国内メーカーへのいい意味での刺激となり、CDの開発研究と市場開拓は今後さらに熱を帯びてきそうだ。