第35回 緑イ貝オイルの酸化安定性改善に及ぼすα-シクロデキストリンの効果
緒言
緑イ貝(Perna canaliculus)はニュージーランド沿岸の自然豊かな海に生息するムール貝の一種である。その栄養成分にはグリコーゲンやミネラル、アミノ酸、多価不飽和脂肪酸などが豊富に含まれており、先住民のマオリ族からは、「奇跡の貝」と呼ばれ、栄養価の高い食べ物として長年珍重されている。その中で、この貝の抽出油である緑イ貝オイル(GLMオイル)にはエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)といったω3系不飽和脂肪酸が多量に含まれており1)、このオイルを摂取することで関節炎の症状改善の他、動脈硬化の低減やアルツハイマー型認知症の改善効果が期待できる。よって、1970年初頭からサプリメントの素材として世界中で利用されている。しかしながら、これら不飽和脂肪酸は熱・酸素・光に対して非常に不安定な物質であるため、サプリメントとして応用する場合は有効成分の安定化が課題となる。
一方、GLMオイル中にはミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸といった飽和脂肪酸も多く含まれる1)。これに対して、α-シクロデキストリン(α-CD)は不飽和脂肪酸の吸収性に影響を及ぼさず、飽和脂肪酸のみ選択的に吸収阻害をするといった効果が知られている2)。そのため、α-CDを用いて包接化をすることにより、本来不必要な脂肪酸の摂取を効率的に抑制できることが期待できる。
そこで本研究では、α-CDによるGLMオイル中の不飽和脂肪酸の酸化安定化を目的として検討を行なった。
1) K. J. Murphy et. al., Asia Pacific J. Clin. Nutr., 12(1); 50-60(2003)
2) Gallaher DD. et. al., FASEB Journal, 21; A730(2007)
目的
- GLMオイルの酸化安定性に及ぼすα-CDおよびマルトデキストリンの効果
- GLMオイルの酸化安定性に及ぼす加熱温度・GLMオイル含量の影響
- 凍結乾燥および噴霧乾燥で調製したGLMオイル / α-CD包接体の酸化安定性の比較
GLMオイル / α-CD包接体の調製手順
Rancimat法による酸化安定性の評価手順
Rancimat法によるGLMオイル / α-CD包接体の酸化安定性の評価
GLMオイルのEPAおよびDHA残存率に関するRancimat法とGC法による分析相関性
Rancimat法とGC法との分析相関性
Rancimat法において脂肪酸の酸化指標として用いられている電気伝導度変化には、DHAやEPAの減少とも相関性があることが確認されている。
α-CDまたはマルトデキストリンによるGLMオイルの粉末化
α-CDによるGLMオイルの粉末化は可能であったが、Maltodextrinではできなかった。
GLMオイルの酸化安定化に及ぼすα-CDまたはマルトデキストリンの影響
α-CDで包接化することにより、GLMオイルの酸化安定性は顕著に向上した。100℃, 6hの加熱においても、GLMオイルの酸化は殆ど確認されなかった。
GLM oil / α-CD包接体の酸化安定性に及ぼす加熱温度の影響
100℃以下では72hの加熱においても安定であったが、120℃以上で加熱すると酸化安定性は著しく低下した。
GLM oil / α-CD包接体の酸化安定性に及ぼすGLMオイル含量の影響
GLMオイルの酸化安定化に及ぼす包接体中のオイル含量の影響として、20wt%以下での安定性は概ね一定であったが、25wt%以上の場合ではオイル含量の増加に伴い、安定性が減少した。
GLMオイル / α-CD包接体の酸化安定性に及ぼす乾燥方法(噴霧乾燥・凍結乾燥)の影響
GLMオイルの酸化安定化に及ぼす粉末調製時の乾燥方法の影響として、凍結乾燥および噴霧乾燥での安定性は概ね同じであった。
Conclusion
- α-CDによるGLMオイルの酸化安定化効果はマルトデキストリンと比べて顕著に高かった。
- 100℃以下では72hの加熱においても安定であったが、120℃以上で加熱すると酸化安定性は著しく低下した。
- GLMオイルの酸化安定化に及ぼす包接粉末中のオイル含量の影響として、20wt%以下での安定性は概ね一定であったが、25wt%以上の場合ではオイル含量の増加に伴い、安定性が減少した。
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α-CDはGLMオイルの酸化安定化に対して極めて有効であることが示された。このGLMオイル / α-CD包接体を用いることで、膝間接の改善向け等、種々のサプリメントへの応用が期待される。