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今、シクロケムが注目していること
R-αリポ酸の効能とS-αリポ酸の毒性に関する論文の要約と考察

その3

このシリーズの(その1)では糖尿病患者のみならず、肥満患者もS-αリポ酸を50%含むαリポ酸ラセミ体サプリメントを摂取すべきでないことを、肥満ラットを用いて明らかとした研究論文を紹介し、シリーズの(その2)ではがんや慢性感染疾患のように、全身性の強い消耗を伴う慢性疾患を患う患者もS-αリポ酸を含有するαリポ酸ラセミ体サプリメントを摂取すべきでないことを、ビタミンB1(チアミン)欠損ラットを用いて明らかとした研究論文を紹介しました。

今回は脂質異常症から動脈硬化が進行した際に現れる虚血・再灌流障害に対する天然のR-αリポ酸と非天然のS-αリポ酸の影響について検討したドイツのアスタメディカ社の1995年の研究論文を紹介します。

Dose/Response Curves of Lipoic Acid R- and S-forms in the Working Rat Heart During Reoxygenation: Superiority of the R-enantiomer in Enhancement of Aortic Flow  (再酸素化中のラットの心臓におけるR体とS体のリポ酸の用量反応曲線:大動脈の血流の増加におけるR体の優位性) G. Zimmer et. al., J. Mol. Cell. Cardiol., 27, 1895-1903(1995)

その前に脂質異常症、そして、動脈硬化症から起こる虚血・再灌流障害とはどのようなものか、説明しておきます。

脂質異常症から動脈硬化が進行すると、破壊された血管壁の破片が血流に乗って移動し、脳や心臓の微小血管に血栓を生じさせ、その結果、脳梗塞・心筋梗塞を起こしますが、そのしくみの詳細を図1に示しました。

図1. 脂質異常症⇒動脈硬化⇒心筋梗塞となる仕組み

血栓によって長時間血流が止まることを虚血といい、酸素不足となります。酸素不足になると、当然、エネルギー物質のATPは作られず、周辺の細胞は壊死してしまいます。運よく血流が再開することを再灌流といいますが、再灌流されても血流がうまく元に戻らないとその部位にROS(活性酸素)が発生し、周辺の細胞に障害を与えるのです。こういった一連の障害を虚血・再灌流障害といいます。

図2. 虚血・再灌流による活性酸素種の発生と障害

この研究では、虚血・再灌流障害のモデルとして、ラットの心臓において酸素正常状態から強制的に60分ほど低酸素状態とした後に再び酸素を与えた時の大動脈の血流を検討しています。最初の酸素正常状態の際の大動脈の血流を100%とし、低酸素状態の際にαリポ酸のR体とS体の各濃度で処理し、再酸素化時の血流が最初の酸素正常状態の血流にどれだけ近づくかを評価したところ、R体はコントロールに比べ、明らかに血流は改善され、もとの酸素正常状態の血流に近づいていますが、S体の場合はコントロールの血流よりも悪化していることが分かります。

図3. 再酸素化時の大動脈血流に対するαリポ酸の影響

再酸素化時の血流に対するαリポ酸の濃度の影響も検討しています。S体の場合、0.05μmolから5μmol/100mLまでの各濃度でαリポ酸処理をしていないコントロールの再酸素化時の血流よりも低い血流で悪影響を与え、10μmol/100mLの処理では血流は戻らなくなり毒性を示していますが、反対にR体処理の血流は0.05μmolから1μmol/100mLまでの各濃度でコントロールの血流を有意に上回りました。(p<0.01、1μmol/100mL ではp<0.0001)また、S体が毒性を示した10μmol/100mLの濃度でもR体は問題ありませんでした。このようにS体は虚血-再灌流障害をさらに悪化させ、R体は虚血-再灌流障害の緩和・改善することが明らかとなりました。

図4. 再酸素化時の大動脈血流に対するαリポ酸濃度の影響

また、虚血-再灌流後のATP産生量に対するαリポ酸の影響も観ています。S体はATP産生にまったく影響しませんでしたが、R体によってATP産生量は増加することが判明しています。

図5. 虚血-再灌流後のATP産生量

さらに、diphenylhexatriene(DPH)の蛍光異方性を利用した測定法で虚血-再灌流後のミトコンドリアの膜流動性も観ています。膜流動性はミトコンドリア機能に関与し、流動性が減少するとミトコンドリア活性が低下し、結果、不良ミトコンドリアとなってしまいます。S体処理した場合、コントロールよりも測定値は高くなることから膜流動性は低下し、反対にR体処理した場合には膜の流動性が高まることが分かりました。

図6. 虚血-再灌流後のミトコンドリアの膜流動性

検討結果をまとめますと、S体は虚血-再灌流後の血流を悪化させ、ATP産生を回復できず、ミトコンドリアの膜流動性を低下させ、ミトコンドリアを劣化させる毒性の高い物質であり、R体は反対に虚血-再灌流障害を緩和・改善し、ATP産生量を増やし、ミトコンドリアの膜流動性も高める効果を持つ物質であることが示されています。

以上、脂質異常症、動脈硬化によって起こる虚血-再灌流障害に対して、S-αリポ酸はさらに障害を悪化させること、一方で、R-αリポ酸は障害を緩和・改善することを明らかとした報告です。脂質異常症とその予備軍の方々は、αリポ酸ラセミ体配合のサプリメントを避け、必ずR-αリポ酸配合のサプリメントを選ぶようにしましょう。

その4

その1)では肥満患者はS-αリポ酸を50%含むαリポ酸ラセミ体サプリメントを摂取すべきでないことを、肥満ラットを用いて明らかとした論文を紹介し、(その2)ではがんや慢性感染疾患のように、全身性の強い消耗を伴う慢性疾患を患う患者もS-αリポ酸を含有するαリポ酸ラセミ体サプリメントを摂取すべきでないことを、ビタミンB1(チアミン)欠損ラットを用いて明らかとした論文を紹介し、そして、(その3)では脂質異常症から動脈硬化が進行した際に現れる虚血・再灌流障害に対するS-αリポ酸による障害の更なる悪化とR-αリポ酸による障害の緩和と改善を明らかとした論文を紹介しました。

今回は、糖尿病患者にとってS-αリポ酸を50%含むαリポ酸ラセミ体サプリメントを摂取すべきでないこと、そして、R-αリポ酸を摂取すべきであることを、糖尿病モデルマウスを用いて明らかとした研究内容(特許)を紹介します。この研究は2001年9月4日にドイツのアスタメディカ社のWesselらによって特許化(US6,284,787 B1)されたもので、その題目は『 Use of R-(+)-α-lipoic acid, R-(+)-dihydro lipoic acid and metabolites in the free acid or as salts or esters or amides for the preparation of drugs for the treatment of diabetes as well as its sequelae』(糖尿病と糖尿病後遺症の治療薬としてのR-(+)-αリポ酸、R-(+)-ジヒドロリポ酸、それらの代謝物のフリー酸、塩、エステル、アミドの利用)です。

では研究内容の紹介の前に、現在の日本の糖尿病の状況を把握しておきましょう。厚労省の国民健康・栄養調査によりますと、成人の糖尿病患者は2016年時点で1000万人を超えました。予備軍の1000万人を加えると2000万人を超えていて国民の2割が今や糖尿病あるいはその予備軍ということになります。病気になる確率の高い高齢者人口が増え、運動不足や食生活の乱れなどによる肥満人口の増加が原因となり、高齢化の加速によって糖尿病患者数は高い水準で推移するとみられています。

この研究では、糖尿病モデルマウスを用いてグルコーストランスポーター(GLUT)の膜移動と合成量に関するR-αリポ酸とS-αリポ酸の影響をみています。

まず、この研究を理解していただくためのGLUTの説明です。グルコース(ブドウ糖)は、ほとんどの細胞の代謝に不可欠な物質ですが、分子が極性を持っているため、生体の膜を通過するためには特別な膜輸送のためのタンパク質が必要となります。そのタンパク質がGLUTなのです。これまでにGLUTは14種類が同定されていますが、この研究ではGLUT1とGLUT4の膜移動と合成量について調べています。血中のグルコースを脳内に取り込むGLUT1はインスリンでも反応しますが、インスリンの有無に関わらずGLUT1は細胞膜上に存在してグルコースを取り込むことができます。赤血球で最も高頻度に発現しており、すべての細胞で、呼吸を維持していくのに必要な最低限のグルコース取り込みに深く関わっています。一方、GLUT4は主に脂肪細胞、骨格筋、心筋に認められ、インスリンがないとき細胞内に沈んでいますが、インスリンにより細胞膜上へと浮上してグルコースを取り込みます。

では、L6筋管細胞内のGLUT1の細胞膜への移動におけるα-リポ酸(2.5mM)の効果です。R-αリポ酸はインスリンと同様にGLUT1の細胞膜への移動をサポートしており、その効果はインスリンよりも高い傾向になることが分かりました。

図1. L6筋管細胞内のGLUT1の細胞膜への移動におけるαリポ酸(2.5mM)の効果

また、GLUT4の場合も同様にR-αリポ酸はGLUT4の細胞膜への移動を促進しています。一方でS-αリポ酸はGLUT4の膜移動を阻害する傾向がみられています。

図2. L6筋管細胞内のGLUT4の細胞膜への移動におけるαリポ酸(2.5mM)の効果

次に、L6筋管細胞内のGLUT1とGLUT4の合成量に対するαリポ酸の効果を確認しています。図3に示しますように、R-αリポ酸はGLUT1とGLUT4の合成を促進する働きがありますが、S-αリポ酸はGLUT4の合成を阻害する傾向にありました。

図3. L6筋管細胞内のGLUT1とGLUT4の合成におけるαリポ酸(2.5mM)の効果

糖尿病患者は酸化ストレスが亢進していることが知られています。酸化ストレスとは、「生体の酸化反応と抗酸化反応のバランスが崩れ、前者に傾いた状態」と定義されています。酸化ストレスは、タンパク質、脂質、DNA障害を介して、老化やがん、生活習慣病の病態に関与していると考えられています。そこで、この研究では糖尿病モデルマウスを用いて酸化ストレスマーカーであるカルボニル化タンパク質のαリポ酸の効果を検討しています。検討の結果、眼の水晶体においてR-αリポ酸投与群ではコントロール群に比べてカルボニル化タンパク質の量は減少しましたが、S-αリポ酸投与群で明らかな増加傾向にありました。肝臓においてもR-αリポ酸の抗酸化ストレス作用が示されています。

図4. αリポ酸によるカルボニル化タンパク質の変化

また、糖化ヘモグロビンの評価においてもR-αリポ酸投与群はコントロール群に比べ明らかに減少しており、R-αリポ酸の糖尿病の治癒効果が観られましたが、反対に、S-αリポ酸投与群はコントロール群より増加傾向にあり、糖尿病を悪化させる可能性が示唆されました。

図5. αリポ酸によるグリコシル化ヘモグロビン量の変化

最後に、糖尿病モデルマウスを用いて死亡率に対するαリポ酸の効果を検証しています。R-αリポ酸投与群ではマウスの死亡率は33%から8%まで低下しましたが、S-αリポ酸投与群では反対に死亡率は50%に上昇しています。

図6. S-αリポ酸による糖尿病モデルマウスの死亡率の上昇

このように、R-αリポ酸は医薬品としても効果があり、一方で、明らかにS-αリポ酸は毒物であることがここに示されています。これでも、日本ではαリポ酸(ラセミ体)サプリメントの販売を問題としないのでしょうか?

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