第39回 モノクロロトリアジノ化シクロデキストリン固定化繊維における包接能力の簡便評価法
MCT-β-CDに関するこれまでのCD学会発表
- シラン反応基を有するシクロデキストリンの合成とその用途
寺尾啓二、谷昇平、国嶋崇隆、森田潤、石川正樹、橋本仁(1998) - モノクロロトリアジノ化シクロデキストリンを用いる新機能性繊維の開発と応用
寺尾啓二、久保好子、国嶋崇隆、谷昇平、三國克彦、橋本仁(1999) - ヨウ素-化学修飾シクロデキストリン包接体の消臭・抗菌活性に関する検討
寺尾啓二、中田大介、舘巌、高師勝男、国嶋崇隆、谷昇平(2002) - 水溶性シクロデキストリンポリマーの調製とその利用
桑原みな子、森田潤、寺尾啓二、中田大介、国嶋崇隆、谷昇平(2005) - モノクロロトリアジノ化シクロデキストリンの工業的製法と繊維への固着能評価
麻田佳珠、山野辺輝、中田大介、舘巌、寺尾啓二(2010)
そして、今回
モノクロロトリアジノ化シクロデキストリン固定化繊維における包接能力の簡便評価法(2011)
緒言
現在、工業生産されているMCT-β-CDのグルコース当りのモノクロロトリアジノ基(MCT基)の置換度(DS値)は0.4であり、β-CD1分子当り平均2.8個のMCT基を有する。MCT-β-CDの製造時に生じる副反応生成物、塩化ナトリウム塩(NaCl塩)の除去工程に経済的な高いコストが掛かることが製品価格に影響し、工業的な用途開発の大きな妨げとなっていた。そこで、我々は、NaCl塩除去工程を省いた約22%のNaCl塩を含有するMCT-β-CD・NaClを開発してきた。
今回、繊維分野におけるMCT-β-CDの更なる使用頻度向上を目的とし、CD包接によるフェノールフタレインの呈色阻害現象を利用したMCT-β-CD固定化繊維の簡便な包接能力評価法についての検討を行った。
また、反応基を持たないポリエステル繊維へのMCT-β-CD固定化、MCT-β-CD固定化繊維によるアンモニア消臭効果、及び機能性成分であるメントールを包接させたMCT-β-CD固定化繊維の徐放性試験なども行った。
MCT-β-CD固定化ポリエステル繊維作製時における固定化温度の比較
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固定化処理温度が130℃以上の条件下で作製したポリエステル繊維は、重量増加がみられた。これは、熱を加えることにより生成したMCT-β-CD重合物が、ポリエステル繊維に絡みあうことで固定化していると考えられる。
ポリエステル繊維に対するMCT-β-CDの固定化メカニズム
MCT-β-CD固定化ポリエステル繊維のイメージ
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MCT-β-CD重合体の生成メカニズム
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フェノールフタレインを用いたMCT-β-CDの固定化確認方法
MCT-β-CDの固定化確認手順
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MCT-β-CD固定化繊維の評価例
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アルカリ条件下で赤紫色を呈しているフェノールフタレイン溶液にMCT-β-CD固定化繊維を浸漬して熱処理を行ったところ、繊維の色が消失した。これは、繊維に固定化されたMCT-β-CDのCD包接によるフェノールフタレインの呈色阻害現象と考えられる。
MCT-β-CD固定化綿布によるアンモニア消臭試験手順
消臭試験の手順-①
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消臭試験の手順-②
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MCT-β-CD固定化綿繊維のアンモニアに対する消臭効果
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アンモニアに対する消臭効果は洗濯回数の増加と共に増大した。
水道水洗濯後に比べてNaClO水溶液洗濯後における消臭効果の方が大きいことから、当該効果は水道水中に含まれる塩素が影響しているものと考えられる。
固相マイクロ抽出法を用いたMCT-β-CD固定化繊維に包接した冷感物質の徐放性評価
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MCT-β-CD固定化繊維からの固相マイクロ抽出法によるL-メントールの徐放性評価
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L-メントールを包接させたMCT-β-CD固定化繊維を高温・高湿条件下で静置した時、24時間後でもL-メントールは徐放性を示し、冷感物質が長時間継続して保持されていることが確認できた。
メントールを包接させたMCT-β-CD固定化繊維による肌着を着用したヒトの運動前後の体表面温度変化
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メントールを包接させたMCT-β-CD固定化繊維による肌着を着用して、室温条件下で運動を行った時、終了から15分後の体表面温度は上昇が抑えられ、冷感作用が効果的に働いていることが確認できた。
メントールを包接させたMCT-β-CD固定化繊維による肌着を着用したヒトの運動前後の皮膚冷却作用
恒温室に入室して13分後に踏み台昇降(運動)をはじめ、入室16分後(運動3分後)と24分後(運動11分後)に体温測定とサーモグラフィを確認した。
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メントールを包接させたMCT-β-CD固定化繊維による肌着を着用して、恒温条件下で運動を行った時、開始から11分後の体温は低下し、冷感効果が働いていることが確認できた。
MCT-β-CD固定化繊維への包接が可能な機能性成分と期待される効果
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総括
- 反応基を持たないポリエステル繊維に綿繊維同様の固定化処理を行った時、繊維の重量増加がみられた。これは、熱を加えることにより生成したMCT-β-CD重合物が、ポリエステル繊維に絡みあうことで固定化していると考えられる。
- アルカリ条件下で赤紫色を呈しているフェノールフタレイン溶液にMCT-β-CD固定化繊維を浸漬して熱処理を行ったところ、繊維の色が消失した。これは、繊維に固定化されたMCT-β-CDのCD包接によるフェノールフタレインの呈色阻害現象と考えられる。
分析機器を必要としないことから、MCT-β-CD包接能力の簡便評価法として、繊維加工場でも有効に利用できると思われる。 - 繊維評価技術協議会の基準に従い、洗濯後のMCT-β-CD固定化繊維にアンモニア消臭試験を行ったところ、これまでCDでは困難とされてきたアンモニアの消臭効果に有意な結果が得られた。これは、洗濯時に使用する水道水に含まれる塩素がCDに包接され、その塩素のアンモニア酸化による消臭作用と思われる。
- 冷感物質のメントールを包接させたMCT-β-CD固定化繊維を着用した際、冷感作用が効果的に長時間継続することも確認できた。