第61回 MCT-β-CD固定化布のアンモニア消臭効果のメカニズム
背景
近年、インナー用途を中心に付加価値のある機能性衣類の需要が伸びており、それに伴い冷・温感性、消臭性、吸水速乾性、抗菌性および制電性など快適性を訴求する機能性繊維の開発が活発になされています。
モノクロロトリアジノ化-β-シクロデキストリン(MCT-β-CD)は反応性のCDであり、セルロースなどの求核性官能基を有する繊維と反応することで、その繊維にCDによる包接能を付与することができます。さらにMCT-β-CD固定化繊維はCDに包接させるゲストにより様々な機能を示すことができます。
これまでに我々はMCT-β-CDを固定化させた綿布が非固定化綿布と比較してアンモニアの消臭能が高く、それには固定化処理の後の綿布の洗濯が重要であることを報告しています。そこで本研究では、MCT-β-CDの酸性度に着目し、洗濯によるMCT-β-CD固定化布のアンモニア消臭効果のメカニズムについて検討しました。
綿布へのMCT-β-CDの固定化
Fig. 1. アンモニア消臭における洗濯の効果
MCT-β-CD固定化布において、洗濯によるアンモニア消臭率の増加が観測された。
一般的にシクロデキストリンはアンモニアを包接できないことが知られています。
↓
MCT-β-CDによるアンモニア消臭効果にはMCT基が関与していると考えられたので、以下のような検証を行いました。
実験
布に固定化されたMCT-β-CDの酸性度を検討しました。
完全に失活し-Cl基が-OH基となったMCT-β-CDを用い、その吸収スペクトルのpH依存性を調べることで、MCT-β-CDの酸解離平衡定数(pKa)を求めました。
[失活MCT-β-CD] = 0.006% in 100 mM NaClaq at r.t..
溶液のpHはHClおよびNaOHで調整した。
結果
失活MCT-β-CDはpKa=5.5の酸であることが確かめられました。
結果
- MCT-β-CD固定化布は、洗濯によりアンモニア消臭率が増加する。
- 布に固定化されたMCT-β-CDのトリアジン部位の-OHは酸性を示し、中和によりアンモニア消臭効果を示す。
MCT-β-CD固定化布のアンモニア消臭における洗濯の効果
洗濯により―O-Na+→―OHが増加し、それに伴いアンモニア消臭率が高まる。