第83回 γ-シクロデキストリンによるアマニ油の安定性と溶解度の向上|株式会社シクロケムバイオ
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研究情報
研究成果

第83回 γ-シクロデキストリンによるアマニ油の安定性と溶解度の向上

概要

アマニ油は亜麻の種子から得られる植物性油脂であり、エゴマ油と同様にω-3系多価不飽和脂肪酸であるα-リノレン酸を多く含んでいることから(図1)、近年健康食品として非常に注目されています1)

図1. 植物油脂の脂肪酸組成
図1. 植物油脂の脂肪酸組成

また、脂溶性物質のγ-シクロデキストリン(γ-CD)包接体を摂取すると、胆汁酸との相互作用により脂溶性物質が効率よく胆汁酸ミセルに取り込まれ、吸収効率が高まることが知られています2)。一例として食用油脂では、エゴマ油-γ-CD包接体をラットに投与することで、エゴマ油と比較して血中α-リノレン酸量が増加することが報告されています3)
そこで本研究では、エゴマ油と同様の脂肪酸組成を持つアマニ油を用いてアマニ油CD粉末(FO-CDs)を調製し、酸化安定性および吸収性の指標となる人工腸液への溶解度について評価しました。

実験

FO-CDsの調製

アマニ油、CDおよび水を所定の量はかり取り、窒素雰囲気下、で30分間撹拌後、容器を密封し室温、遮光条件下で30分間静置した。得られた懸濁液を凍結乾燥しFO-CDを得た。

FO-CDsの酸化安定性評価

ランシマット法を用いてインダクションタイムを測定した。(120℃、20L/hr、乾燥空気)

FO-CDsの食後人工腸液(FeSSIF)への溶解度の評価

リパーゼ含有FeSSIFにサンプル(100mg)を添加し、37℃、160rpmで振盪した。反応後に遠心分離した試験液をフィルターろ過し、HPLCをもちいてα-リノレン酸を分析した。

結果と考察

FO-β-CDでは、アマニ油、β-CD、水での撹拌時に均一な混合液が得られず表面に油膜が見られたが、α-CD、γ-CDを用いた場合は油の分離は見られず、乾燥後に均一な粉末が得られた。ランシマット法を用いた酸化安定性の評価では、FO-CDsはアマニ油と比較してインダクションタイムが延長し、酸化安定性の向上が確認された(図2)。

図2. ランシマット法による安定性評価
図2. ランシマット法による安定性評価

リパーゼによるアマニ油からα-リノレン酸への変換およびα-リノレン酸のFeSSIFへの溶解度評価について、アマニ油ではリパーゼによる酵素反応開始5分後のα-リノレン酸濃度が0.03mg/mlであった。その後時間とともに緩やかにα-リノレン酸の濃度が上昇し、120分後では0.46mg/mlとなった。一方、FO-CDsではアマニ油に比べて速やかに濃度が上昇し、反応5分後でいずれも0.25mg/mL以上の値を示した。また、120分後ではFO-CDsいずれにおいてもアマニ油よりも溶解度が高く、FO-CDsの中ではγ-CDを用いたサンプルが最も高い溶解度を示した(図3)。
以上より、γ-CDを用いてアマニ油を粉末化することでα-リノレン酸の吸収効率が向上することが示唆された。

図3. 食後人工腸液に対するα-リノレン酸の溶解度
図3. 食後人工腸液に対するα-リノレン酸の溶解度

まとめ

アマニ油-γ-CD粉末は、1)酸化しにくく2)高い吸収効率が期待できるα-リノレン酸含有素材として、新たな健康食品・飲料の開発にご利用いただけます。

参考文献

1) 日本食品標準成分表2015年版 文部科学省
2) Uekaji. Y., et al., Bio-Nanotechnology: A Revolution in Food, Biomedical and Health Sciences. U. K., Wiley & Sons, 179-211 (2013).
3) Yoshikiyo. K., et al., Food Chemistry, 294:56-59(2019).