第84回 モノクロロトリアジノ化β-シクロデキストリンを用いた自己修復ゲルの簡便な合成
概要
近年、自己修復ゲルは、省資源化・省エネルギー化を促進するものとして注目されており、幅広い分野での応用が期待されています。非共有結合であるホスト-ゲスト相互作用により形成されたゲル中の架橋結合は可逆的であるため、自己修復能に加え、高靭性や高い内部粘性による衝撃吸収性も併せ持つことが期待され、中でもシクロデキストリン(CD)をホスト分子に用いた自己修復ゲルは近年盛んに研究されています1,2)。しかし、これまで報告されている自己修復ゲルの合成には多段階の反応が必要となっています。そこで我々は、ホスト分子であるCDの導入にモノクロロトリアジノ化-β-シクロデキストリン(MCT-β-CD)を、ゲスト分子であるadamantane(Ad)の導入に1-adamantanecarboxylic acid(Ad-COOH)を用いて、これらをpoly(allylamine) (PAA) に結合させることで、全て市販の試薬を順次混合するのみの簡便な自己修復ハイドロゲルの合成法を見出しました。
実験
MCT-β-CD水溶液にAd-COOHを溶解させた。この溶液を別容器に採取した15% PAA(平均分子量15,000)に滴下し、4-(4,6-dimethoxy-1,3,5-triazin-2-yl)-4-methylmorpholinium chloride(DMT-MM)をAd-COOHに対し2モル当量となるように添加した。得られた反応液を室温で一晩静置し、ハイドロゲルを得た(図1)。また、コントロールとして、MCT-β-CD、Ad-COOHおよびPAA、または、Ad-COOH、DMT-MMおよびPAAの2種類でも同様の手順で混合してゲル形成の有無を確認した。
次に、得られたハイドロゲルの自己修復能について検討するために、ゲルを切断した後、切断面を浸し接着させる際に、水を用いた再接着試験およびAd-COOHまたはβ-CDといった競合分子を含む水溶液を用いた再接着阻害試験により評価した。
結果・考察
MCT-β-CD、Ad-COOH、PAAおよびDMT-MMを順次混合することで、簡便にゲルを得ることができた。このゲルを用いた再接着試験では自己修復能を示したが、再接着阻害試験においては、Ad-COOHまたはβ-CD水溶液で切断面を浸した場合、共に自己修復能は示さなかった(図2)。また、2種のコントロールでは、DMT-MMなしのMCT-β-CD、Ad-COOHおよびPAAを混合したもののみゲル化したが、再接着試験において自己修復能は示さなかった。これらのことから、MCT-β-CD、Ad-COOHおよびPAAから成るゲルの自己修復能は、MCT-β-CDとAdの包接現象によるものと考えられる。
まとめ
MCT-β-CD、Ad-COOHおよびPAAといった市販の試薬を混合するだけで自己修復能を示すハイドロゲルを非常に簡単に作成できることが示されました。本手法は今後の新たな工業製品の開発に応用されることが期待できます。
参考文献
1) Akira Harada et al., Macromolecular., 37, 86-92 (2015).
2) Seunho Jung et al., Carbohydrate Polymer, 198, 563-574 (2018).