第37回 害虫忌避機能を有するシクロデキストリン含有生分解性フィルムの製造評価
サリチルアルデヒド
サリチルアルデヒド(SA)はオサムシなどの徘徊性捕食昆虫が自己防衛のために放出する物質である。
SAは微量で複数の鱗翅目害虫(ウワバ類・ヨトウガ類・コナガ等)に対して、遺伝子レベルでの強い忌避作用を示すことが分かっており、農薬として野菜栽培等に応用した場合、人畜に安全且つ、環境負荷が少ない薬剤として利用できる1)。
しかしながら、SAは液体で且つ、揮発性があるために取り扱いが困難であり、また、酸化や重合を受けやすく化学的に不安定といった問題がある。そこで、我々はSAをCD包接粉末化し、安定性の向上や徐放特性に関する検討を行ってきた2)。
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1) 島田順、鱗翅目害虫の防除剤、特開2006-206519.
2) 大西麻由、四日洋和、上梶友記子、中田大介、寺尾啓二、島田順、第27回シクロデキストリンシンポジウム講演要旨集, p154-155, 2010.
検討内容
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3) B. MARTEL, M. MORCELLET, D. RUFFIN, F. VINET and M. WELTROWSKI, Capture and Controlled Release of Fragrances by CD Finished Textiles, Journal of Inclusion Phenomena and Macrocyclic Chemistry, 44: 439-442, 2002.
生分解性マルチフィルム
マルチフィルムとは、乾燥防止・雑草抑制・温度調整などのために畑に張る農業用フィルムである。
生分解性マルチは、使用後、微生物によって水と二酸化炭素に分解されて自然に還る。
メリット
手間いらず 安定品質 生産性向上 環境にやさしい 廃棄物削減
![生分解性マルチの分解メカニズム](img/research_037_03.png)
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写真:MKVドリーム株式会社ホームページ出典
微粉砕処理した各種CDの粒度
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微粉砕処理したCDを用いることで、膜厚の薄い均一なフィルム形成が確認された。
生分解性フィルムの電子顕微鏡写真
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SA吸着法
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SA抽出法
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各種CDフィルムへのSA吸着量
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フィルム重量当たりの風乾1日のSA吸着量
フィルムのSA吸着量
γ-CD含有フィルム > α-CD含有フィルム > β-CD含有フィルム
各種CDフィルムからのSA徐放性
![](img/research_037_11.png)
風乾1日のSA吸着量を100とした時の所定時間ごとのフィルム中SA残存率
風乾28日目のフィルム中SA残存率
α-CD含有フィルム > β-CD含有フィルム > γ-CD含有フィルム
SA-CD包接体入りフィルムの害虫防御効果試験
SA-CD包接体入り生分解性マルチフィルムのブロッコリー栽培における害虫防除効果の検証
用いたフィルム
- α-CDフィルム(対照区)
- SA-α-CDフィルム
- SA-HPα-CDフィルム
- SA-TAβ-CDフィルム
![フィルム中のSA含有率(%)](img/research_037_12.png)
方法
各フィルム(約45×150cm)を圃場に被覆
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ブロッコリーの苗を各3本定植
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40日後における害虫の幼虫および蛹を計数
圃場試験
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SA-CD包接体入りフィルムの害虫防御効果 -結果-
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![](img/research_037_16.png)
モンシロチョウとタマナギンウワバに対して、SA-HPα-CDフィルムで産卵抑制が認められた。
↓
『第28回 各種化学修飾シクロデキストリンによるサリチルアルデヒドの徐放特性』で報告している通り、各種包接体からのSA放出の最も速かったHP-α-CDで、害虫防御効果が高いことが示された。
考察
CDを微粒子化することで、膜厚の薄い均一なフィルムが形成された。
- SAの吸着は、単にフィルム原料に吸着したのではなく、フィルム表面に存在するCDに包接された可能性があることが示唆された。
- SAの吸着能力は、γ-CD含有フィルムで最も高かった。
- SAの保持能力は、α-CD含有フィルムで最も高く、γ-CD含有フィルムでSAの徐放性が認められた。
- フィルムからのSA放出による害虫防除効果が実証された。