第82回 モノクロロトリアジノ化β-シクロデキストリンとN-メチルモルホリンを組み合わせた新規脱水縮合剤の開発検討
概要
アミド結合は生体分子や医薬品、合成樹脂など様々な有機化合物中に存在する結合であり、有機合成においてアミド化合物はとても頻繁に合成されます。アミド化合物の合成には縮合剤を用いることが多く、中でもDMT-MMは、2-chloro-4,6-dimethoxy-1,3,5-triazine(CDMT)とN-methylmorpholine(NMM)から合成され、カルボジイミド系等の縮合剤と比較してよりマイルドな条件で反応が進行することや水中でも利用できることから、より優れた縮合剤として知られています1,2)。一方で、モノクロロトリアジノ化β-シクロデキストリン(MCT-β-CD)は工業生産できる反応性のCDとして、これまで繊維の機能化などに用いられており3)、また、MCT-β-CDのクロロトリアジン基にNMMを反応させることで得られるCDT-MMはDMT-MMを有するCDとして見なすことができることから、本研究ではCDT-MMの縮合剤としての利用について検討を行いました(図1)。
実験
CDT-MMの調製
MCT-β-CDを水に溶解させた後5モル当量のNMMを添加し、遮光、室温で46時間攪拌し、CDT-MM水溶液を得た。
CDT-MMの縮合反応への利用
- 芳香族カルボン酸とアミンの縮合反応
CDT-MM水溶液にトルイル酸(TA)、ベンジルアミン(BA)の順に適宜添加し、室温、pH = 8の条件にて攪拌した。コントロールとして、CDT-MM水溶液の代わりに、MCT-β-CD、NMMまたはジヒドロキシトリアジノ化β-CD(DHT-β-CD)とNMMの混合水溶液を用いて、同様の手順でそれぞれ縮合反応を行った。 - 直鎖脂肪酸とアミンの縮合反応
CDT-MMを用いて、種々の直鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、オクタン酸)とBAとの縮合反応を上記と同様に検討した。
結果と考察
CDT-MM水溶液を縮合剤として用いてTAとBAを2時間反応させた場合、目的のアミドのスポットが観測されたが、コントロールとして、CDT-MMの代わりにMCT-β-CD、NMMまたはDHT-β-CDとNMMの混合水溶液を用いた場合、いずれもアミドのスポットは見られなかった。このことから、CDT-MMはアミドの合成において縮合剤として利用できることが示された(スキーム1)。次に、4種の直鎖脂肪酸とBAを反応させた場合、ヘキサン酸でのみ対応するアミドが生成した。CDT-MMは、直鎖脂肪酸を基質とした場合に鎖長選択性があることが示され、CDT-MMのCDによる包接の影響が示唆された。また、CDT-MMは水溶液から粉末化しても機能を維持していることが確認できた。
まとめ
本研究でCDT-MMを用いて縮合反応が進行することが明らかとなりました。今後、CDT-MMはCDの包接能を有する新たな縮合剤として、様々なアミド化合物の合成への応用が期待できます。
参考文献
1) Munetaka Kunishima, Keiji Terao et al., Tetrahedron Letters, 40, 5327-5330 (1999).
2) Munetaka Kunishima, Keiji Terao et al., Tetrahedron, 57, 1551-1558 (2001).
3) 秋田知己ら, 科学と工業, 71(5), 124 (2018).