第85回 α-シクロデキストリン摂取による盲腸内の各種短鎖脂肪酸の増加
概要
ヒトの腸内で、腸内細菌は食物繊維や難消化性オリゴ糖を分解し、短鎖脂肪酸(SCFAs)を産生することが知られています。さらにこの腸内細菌由来のSCFAsは宿主に様々な健康増進効果をもたらすことが明らかにされています(図1)1)。
α-シクロデキストリン(α-CD)は難消化性かつ腸内細菌のエサとなる性質を持っています。実際に、当社ではこれまでに高脂肪食を摂取させたマウスにおいて、α-CDの摂取が盲腸内のSCFAs量を増加させ、体重増加を抑制することを報告しています2)。
今回、本研究では普通食を摂取させたラットにおけるα‐CD摂取による腸内細菌叢や盲腸内SCFAsの量について、ラクトスクロース(LS)3)を比較対照として検討を行いました。
実験
4週齢の雄性SDラットを無繊維食(NF)群、5.5%α‐CD(α‐CD)群、5.5%ラクトスクロース(LS)群、2.75%α‐CD+2.75%LS(Com)群の4群に分け、8週間飼育した。飼育中は体重、摂餌量を計測した。飼育終了後、イソフルラン麻酔下で解剖を行い、精巣周囲脂肪及び盲腸内容物を採取した。採取した精巣周囲脂肪は重量を測定した。盲腸内容物は重量を測定後、pHを測定し、細菌叢をT-RFLP法を用いて解析した。盲腸内SCFAs量(コハク酸、乳酸、酢酸、プロピオン酸、n-酪酸)はLC分析で検討した。
結果・考察
試験8週間後の体重は各群で差はなかった。一方で、内臓脂肪重量はNF群と比較してすべての群で有意な低値を示した。
盲腸内容物重量はNF群と比較してα-CD群及びCom群で有意に増加し、盲腸内容物中のpHはα-CD群が最も低値であった。さらに盲腸内容物中のtotal SCFAs量は、NF群では5.03mgであったのに対し、α-CD群は41.31mg、LS群は10.6mg、Com群は23.71mgとなりα-CD群で特に高値を示した(図2)。またコハク酸、乳酸、酢酸、プロピオン酸、n-酪酸のすべてにおいてNF群と比較してα-CD群で有意な高値を示した。T-RFLP法による盲腸内細菌叢の解析では、ラクトバチルス目の割合がNF群では1.7%であったのに対し、α-CD群は25%、LS群は2.6%、Com群は6.5%となりα-CD群で特に高値を示した(図3)。
まとめ
本研究から、α-CDの摂取により腸内細菌由来の短鎖脂肪酸の増加に伴った様々な健康増進効果が期待できます。加えてこれまでにもα-CDの摂取による血中中性脂肪の低減や血糖値上昇抑制効果などが知られていることから※、α-CDは新たな健康食品の開発において非常に有用な素材であることが示されました。
※詳しくは、当社ホームページの最新研究成果「第6回および第42回」を参照して下さい。
参考文献
1) Koh A., et al., Cell, 165:1332-1345 (2016).
2) Nihei N., et al., BioFactors, 44:336-347 (2018).
3) 米山ら日本栄養・食糧学会誌, 45:109-115 (1992).