第96回 口腔ケア素材としてのマヌカハニー-α-シクロデキストリン粉末(MAP)の有用性に関する検討|株式会社シクロケムバイオ
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研究情報
研究成果

第96回 口腔ケア素材としてのマヌカハニー-α-シクロデキストリン粉末(MAP)の有用性に関する検討

概要

マヌカハニー(MH)は抗菌物質メチルグリオキサールが高濃度で含有されていることから、他の蜂蜜にはない強い抗菌活性を示すことが報告されています1)。MHは口腔細菌に対しても優れた抗菌活性を示すことから、当社においてMH摂取による口臭低減効果を検討したところ、アカシア蜂蜜と比較してMHでより口臭が低減されるという結果が得られています(※詳しくは、当社ホームページの研究成果「第11回」を参照して下さい)。
また、MHとα-シクロデキストリン(CD)を組み合わせた粉末(MAP)は、それぞれ単独の場合よりも高い抗菌活性を示すことを報告しています(図1)2)
そこで本研究では、口腔ケア素材としてのMAPの有用性の評価を目的として、MAP摂取による口臭低減効果、口腔細菌によるバイオフィルム形成やメチルメルカプタン産生におけるMAPの抑制について検討を行いました。

図1. 黄色ブドウ球菌に対するMAPの抗菌効果
図1. 黄色ブドウ球菌に対するMAPの抗菌効果2)

実験

MAPの調製

MH、α-CD、および水を所定の量はかり取り混合した後、噴霧乾燥により粉末を得た。なお、粉末中のMHとα-CDが45:55(固形分)となるように設定した。

口臭低減効果

口腔治療中でない健康な男女7名の被験者について、試験当日は口腔清掃と食事を禁止し、試験2時間前からは水分摂取も禁止することで、口腔内細菌由来の口臭を発生しやすい状態とした。試験は口臭測定器を用いて被験者の口臭を測定した後、サンプルを口内に保持し、3分後に吐き出してから再度口臭を測定した。なお、ウォッシュアウト期間は3日以上とした。

サンプル

  • 水 2g
  • MAP 300mg + 水 2g
  • MH 169mg + 水 2g
  • α-CD 183mg + 水 2g

MH、α-CDはいずれもMAP 300mg中の配合量に相当

口臭測定器
揮発性硫黄化合物(VSC)を測定するハリメーター(RH17K、株式会社タイヨウ)と、口臭原因物質を産生する細菌数(活動性)を測定するアテイン(mBA-400、株式会社タイヨウ)を用いて評価した。

口臭低減の評価
VSCの残存率(%)= サンプル摂取後の値/サンプル摂取前の値×100
細菌数の相対値(%)= サンプル摂取による残存率/水摂取による残存率×100

抗菌効果

液体培地希釈法により、歯周病原因細菌Porphyromonas gingivalis 381に対するMAPの最小発育阻止濃度(MIC)および最小殺菌濃度(MBC)を求めた。

バイオフィルムの形成抑制効果

96穴マイクロプレート(PVC製)に歯周病原因細菌P. gingivalisの前培養液と培地に溶解したサンプルを混合し、37℃の嫌気下で24時間培養した。浮遊菌を取り除き、クリスタルバイオレットにより染色することで、バイオフィルム形成量を求めた。

メチルメルカプタンの産生抑制効果

培地に溶解したサンプルにP. gingivalisの前培養液を接種し、37℃の嫌気下で46時間培養した。この培養液とメチオニンをサンプリングバッグ(3L)に入れて密栓し、37℃で90分間反応させた後、メチオニンから変換されたメチルメルカプタンを検知管により測定した。

結果と考察

3-1. 口臭低減効果

口臭原因物質として硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルスルフィドといったVSCについて、被験者の口腔内の量を検討した結果、MHの摂取によりVSCが有意に減少し(P < 0.05)、MAPの摂取でさらに減少した(P < 0.01)。また、口腔内の細菌数においてもMAPの摂取により有意に減少(P < 0.05、図2)したことから、MAPが口腔内の細菌を減少または不活性化したことでVSCが減少したと推察される。

図2. MAP摂取による口腔内VSCと細菌数への効果
図2. MAP摂取による口腔内VSCと細菌数への効果

3-2. 抗菌効果

歯周病原因細菌であるP. gingivalisに対してα-CDが高い抗菌効果を示した(表1)。

表1. P. gingivalisに対するMAPの抗菌効果

  MIC MBC
MAP 3.5%
(内α-CD 1.9%)
4.0%
(内α-CD 2.2%)
マヌカハニー 3.9% 8.0%
α-CD 2.2% 2.2%

3-3. バイオフィルムの形成抑制効果

バイオフィルムは細菌の凝集塊であり、口腔内ではデンタルプラーク(歯垢)などとして知られている。実験の結果、MH単独では高濃度にでのみバイオフィルムの形成を抑制する傾向がみられた。一方で、MAPおよびα-CDは濃度依存的にバイオフィルムの形成を抑制することが示された(図3)。

図3. P. gingivalisのバイオフィルム形成に対するMAPの効果
図3. P. gingivalisのバイオフィルム形成に対するMAPの効果

3-4. メチルメルカプタンの産生抑制効果

歯周病原因菌は、タンパク分解により得られたメチオニンを代謝することでメチルメルカプタンといった口臭成分(VSC)を産生する。本実験では、P. gingivalisによるメチルメルカプタン産生に対するMAPの抑制効果について検討した。その結果、P. gingivalisからのメチルメルカプタン産生がMAP(4.3%)の添加したサンプルではメチルメルカプタンは検出限界以下となったことから、MAPによるP. gingivalisからのメチルメルカプタン産生抑制が示唆された(図4)。

図4. P. gingivalisのメチルメルカプタン産生に対するMAPの効果
図4. P. gingivalisのメチルメルカプタン産生に対するMAPの効果

まとめ

本研究から、MAP摂取による口臭低減効果や、口腔細菌の抗菌効果、さらに口腔細菌によるバイオフィルム形成やメチルメルカプタン産生に対しMAPによる抑制効果が示されました。これらの結果から、マヌカハニー-α-CD粉末は、新たな口腔ケア製品の開発に非常に有用な素材であることが示されました。

参考文献

1) E Marvic, et al., Mol Nutr Food Res, 52 (4), 483-489 (2008).
2) 城文子ら, 第26回シクロデキストリンシンポジウム講演要旨集, 140-141 (2009).