第98回 歯周病原因菌のバイオフィルムに対するα-シクロデキストリンの剥離効果
概要
バイオフィルムは菌などの微生物とその代謝物からなり、口腔内では主にP. gingivalisなどの病原性細菌などから形成されプラーク、歯垢と呼ばれています。口腔内のバイオフィルムは菌の定着・増殖する場となり、う蝕(虫歯)、歯周病、歯石、口臭の原因となることから、除去する必要があります。
α-シクロデキストリン(α-CD)は芽胞を形成するBacillus属またはPaenibacillus属に対して溶菌作用を示すことが報告されています1)。これまでに、当社では歯周病原因菌の一つであるPorphyromonas gingivalisに対して各種CDの抗菌効果を検討したところ、α-CDが効果的に増殖を阻害することが観測されました(※詳しくは、当社ホームページの研究成果「第45回」を参照して下さい)。
そこで、本研究ではP. gingivalisからなるバイオフィルムに対して、α-CDによる剥離効果を検討しました。
実験
96穴マイクロプレート(PVC製)にP .gingivalis 381の前培養液(107CFU/mL)を入れて37℃の嫌気下で24時間培養してバイオフィルムを形成させた。バイオフィルムを生理食塩水で洗浄した後、生理食塩水(コントロール)または生理食塩水で溶解したα-CD溶液を添加し、37℃の嫌気下で30分間処理した。再度生理食塩水で洗浄して剥離したバイオフィルムを取り除いた後、クリスタルバイオレットで染色してマイクロプレートに残ったバイオフィルム量を求めた(図1)。
結果と考察
α-CD濃度に依存したP. gingivalisのバイオフィルムの剥離が示された(図2)。バイオフィルムは主に細菌とその代謝物である多糖類(EPS, extracellular polysaccharide)で構成されていることから、α-CDが細菌表面のリポタンパク質やリポ多糖、リン脂質およびEPSと相互作用することにより、バイオフィルムの剥離効果を示したと考えられる。
まとめ
本研究から、α-CDが歯周病原因菌であるP. gingivalisのバイオフィルムを剥離することが示されました。さらにP. gingivalis以外にも、Streptococcus mutansやPrevotella intermedia、Actinomyces actinomycetemcoitansなどといった菌種が形成する様々なバイオフィルム2)に対してもα-CDによる同様の効果が期待できることから、α-CDが新たな口腔ケア製品の開発に有用な素材であることが示されました。
参考文献
1) Hui-Min Zhang, et al., Arch Microbiol, 190, 605-609 (2008).
2) 奥田克爾著、最新口腔微生物学、一世出版、p.373、2002.