第101回 クルクミンのTie2活性化効果による血管の安定化
概要
Tie2とは、血管やリンパ管等を構成する内皮細胞に存在する受容体型チロシンキナーゼの一種であり、壁細胞から分泌されるアンジオポエチン-1との結合により活性型となります。その結果、内皮細胞と壁細胞の結びつきが強固となり、血管やリンパ管の漏れにくい構造(血管やリンパ管の安定化)を導きます1)。加齢などによりTie2活性が弱まると、内皮細胞と壁細胞の結びつきが弱まり血管が脆くなり、ゴースト化とも呼ばれる血管透過性が亢進し、栄養分や老廃物が正常に輸送されにくくなり、しわやたるみの原因となります。さらに血管透過性が重症化すると、動脈硬化、脳卒中または認知症などのリスクファクターになる可能性もあると言われています2)。近年、Tie2を活性化させる成分が食品中から発見されています。そこで本研究では表1に示す12種の機能性食品成分を用い、Tie2の活性化作用をin vitroおよびin vivoで検討しました。
コエンザイムQ10(CoQ10) |
R-αリポ酸Na塩(RALA) |
クルクミン(Cur) |
トコトリエノール(TCT) |
レスベラトロール(RSV) |
ウルソール酸(UA) |
フェルラ酸(FA) |
ジヒドロケルセチン(DHQ) |
カフェ酸フェネチルエステル(CAPE) |
シリング酸メチル(MSYR) |
アリルイソチオシアネート(AITC) |
4-メチルチオ-3-ブテニルイソチオシアネート(MTBI) |
実験
Human Tie2を過剰発現させたマウスpro-B細胞(Ba/F3-human Tie2)を用いて、コントロール(DMSO)および12種の化合物(表1)を加えた後のTie2の活性化についてウエスタン・ブロッティング法により算出した。
次に、CurのTie2活性化作用による血管透過性亢進の抑制効果を調べるため、Balb/cマウスに対してエバンスブルーを尾静脈投与し、15分後に背部の皮下に、血管透過性を亢進させる血管内皮増殖因子(VEGF:Vascular Endothelial Growth Factor)およびCurを注入した。30分後、サンプルを注入した皮膚を切除し、ホルムアミドを用いて溶出した色素量を測定し、VEGFによる血管透過性の亢進を評価した。
結果と考察
12種類の化合物の中でCurのみ、コントロールであるDMSOのTie2活性化率よりも高い活性化率が示された(図1)。これまでにもTie2活性化作用を示す成分が見出されてきたが、殆どの場合同様の実験で100~500μg/mLの濃度が必要だが、Curは僅か5μg/mLの濃度でTie2活性化作用を示すことが分かった。
次に、マウスを用いたCurのTie2活性化作用による血管透過性亢進の抑制効果については、血管から漏出した色素の様子を図2-aに、漏出した色素量を図2-bに示した。その結果、VEGFによる血管透過性亢進作用がCurの濃度依存的に有意に抑制されたことから、in vivo試験からもCurによるTie2の活性化を介した血管安定化効果が示された。
まとめ
クルクミンはウコンに含まれる機能性成分であり、抗酸化、抗炎症、抗がん、抗メタボリックシンドローム、筋肉疲労改善、脳機能改善効果といった様々な生理活性作用を示すことが知られています3, 4)。これらの効果に加えて、本研究から新たにクルクミンのTie2活性化作用による血管透過性の抑制効果(血管の安定化効果)を見出しました。またクルクミンは低い吸収性が課題となっていますが、当社ではγ-シクロデキストリン(γ-CD)を用い、クルクミンの吸収性を改善させることに成功しており(詳しくは、当社ホームページの最新研究成果「第25回」を参照して下さい)、クルクミン-γ-CDを配合した美容・健康をサポートする新たな製品開発への応用が期待されます。
参考文献
1) 高倉伸幸, 炎症・再生, 21(6), 615-623 (2001).
2) J. H. Chung et al., J. Dermatol. Sci., 61, 206-217 (2011).
3) R. A. Sharma, A. J. Gescher, W. P. Steward, Eur. J. Cancer, 41(13), 1955-1968 (2005).
4) J. R. Barrio et al., Am. J. Geriatr. Psychiatry, 26(3), 266-277 (2018).