R-αリポ酸の効能とS-αリポ酸の毒性に関する論文の要約と考察(3)|株式会社シクロケムバイオ
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2018.8.20 掲載

R-αリポ酸の効能とS-αリポ酸の毒性に関する論文の要約と考察(3)

このシリーズの(1)では糖尿病患者のみならず、肥満患者もS-αリポ酸を50%含むαリポ酸ラセミ体サプリメントを摂取すべきでないことを、肥満ラットを用いて明らかとした研究論文を紹介し、シリーズの(2)ではがんや慢性感染疾患のように、全身性の強い消耗を伴う慢性疾患を患う患者もS-αリポ酸を含有するαリポ酸ラセミ体サプリメントを摂取すべきでないことを、ビタミンB1(チアミン)欠損ラットを用いて明らかとした研究論文を紹介しました。

今回は脂質異常症から動脈硬化が進行した際に現れる虚血・再灌流障害に対する天然のR-αリポ酸と非天然のS-αリポ酸の影響について検討したドイツのアスタメディカ社の1995年の研究論文を紹介します。

Dose/Response Curves of Lipoic Acid R- and S-forms in the Working Rat Heart During Reoxygenation: Superiority of the R-enantiomer in Enhancement of Aortic Flow
(再酸素化中のラットの心臓におけるR体とS体のリポ酸の用量反応曲線:大動脈の血流の増加におけるR体の優位性)
G. Zimmer et. al., J. Mol. Cell. Cardiol., 27, 1895-1903(1995)

その前に脂質異常症、そして、動脈硬化症から起こる虚血・再灌流障害とはどのようなものか、説明しておきます。

脂質異常症から動脈硬化が進行すると、破壊された血管壁の破片が血流に乗って移動し、脳や心臓の微小血管に血栓を生じさせ、その結果、脳梗塞・心筋梗塞を起こしますが、そのしくみの詳細を図1に示しました。

図1. 脂質異常症⇒動脈硬化⇒心筋梗塞となる仕組み
図1. 脂質異常症⇒動脈硬化⇒心筋梗塞となる仕組み

血栓によって長時間血流が止まることを虚血といい、酸素不足となります。酸素不足になると、当然、エネルギー物質のATPは作られず、周辺の細胞は壊死してしまいます。運よく血流が再開することを再灌流といいますが、再灌流されても血流がうまく元に戻らないとその部位にROS(活性酸素)が発生し、周辺の細胞に障害を与えるのです。こういった一連の障害を虚血・再灌流障害といいます。

図2. 虚血・再灌流による活性酸素種の発生と障害
図2. 虚血・再灌流による活性酸素種の発生と障害

この研究では、虚血・再灌流障害のモデルとして、ラットの心臓において酸素正常状態から強制的に60分ほど低酸素状態とした後に再び酸素を与えた時の大動脈の血流を検討しています。最初の酸素正常状態の際の大動脈の血流を100%とし、低酸素状態の際にαリポ酸のR体とS体の各濃度で処理し、再酸素化時の血流が最初の酸素正常状態の血流にどれだけ近づくかを評価したところ、R体はコントロールに比べ、明らかに血流は改善され、もとの酸素正常状態の血流に近づいていますが、S体の場合はコントロールの血流よりも悪化していることが分かります。

図3. 再酸素化時の大動脈血流に対するαリポ酸の影響
図3. 再酸素化時の大動脈血流に対するαリポ酸の影響

再酸素化時の血流に対するαリポ酸の濃度の影響も検討しています。S体の場合、0.05μmolから5μmol/100mLまでの各濃度でαリポ酸処理をしていないコントロールの再酸素化時の血流よりも低い血流で悪影響を与え、10μmol/100mLの処理では血流は戻らなくなり毒性を示していますが、反対にR体処理の血流は0.05μmolから1μmol/100mLまでの各濃度でコントロールの血流を有意に上回りました。(P < 0.01、1μmol/100mL ではP < 0.0001)また、S体が毒性を示した10μmol/100mLの濃度でもR体は問題ありませんでした。このようにS体は虚血-再灌流障害をさらに悪化させ、R体は虚血-再灌流障害の緩和・改善することが明らかとなりました。

図4. 再酸素化時の大動脈血流に対するαリポ酸濃度の影響
図4. 再酸素化時の大動脈血流に対するαリポ酸濃度の影響

また、虚血-再灌流後のATP産生量に対するαリポ酸の影響も観ています。S体はATP産生にまったく影響しませんでしたが、R体によってATP産生量は増加することが判明しています。

図5. 虚血-再灌流後のATP産生量
図5. 虚血-再灌流後のATP産生量

さらに、diphenylhexatriene(DPH)の蛍光異方性を利用した測定法で虚血-再灌流後のミトコンドリアの膜流動性も観ています。膜流動性はミトコンドリア機能に関与し、流動性が減少するとミトコンドリア活性が低下し、結果、不良ミトコンドリアとなってしまいます。S体処理した場合、コントロールよりも測定値は高くなることから膜流動性は低下し、反対にR体処理した場合には膜の流動性が高まることが分かりました。

図6. 虚血-再灌流後のミトコンドリアの膜流動性
図6. 虚血-再灌流後のミトコンドリアの膜流動性

検討結果をまとめますと、S体は虚血-再灌流後の血流を悪化させ、ATP産生を回復できず、ミトコンドリアの膜流動性を低下させ、ミトコンドリアを劣化させる毒性の高い物質であり、R体は反対に虚血-再灌流障害を緩和・改善し、ATP産生量を増やし、ミトコンドリアの膜流動性も高める効果を持つ物質であることが示されています。

以上、脂質異常症、動脈硬化によって起こる虚血-再灌流障害に対して、S-αリポ酸はさらに障害を悪化させること、一方で、R-αリポ酸は障害を緩和・改善することを明らかとした報告です。脂質異常症とその予備軍の方々は、αリポ酸ラセミ体配合のサプリメントを避け、必ずR-αリポ酸配合のサプリメントを選ぶようにしましょう。