R-αリポ酸の効能とS-αリポ酸の毒性に関する論文の要約と考察(14)
R-αリポ酸の効能について紹介しています。今回は、R-αリポ酸による糖代謝の要の反応に関与しているピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体(PDC)の活性化作用について二つの論文を紹介します。
では、論文紹介の前にまずPDCとR-αリポ酸の関係について説明をしておきます。
細胞内に取り込まれたグルコースは先ず解糖系でピルビン酸に変換されます。ピルビン酸はPDCの働きによってアセチルCoAに誘導されたのち、TCAサイクル、電子伝達系により酸化されてエネルギーが生産されています。このPDCの働きを支える必須の物質がR-αリポ酸であり、糖代謝のために必要不可欠なのです。血糖が高値を維持し続けると体内の様々な場所でタンパクなどに結合し不可逆的に最終糖化生成物(AGEs)を発生させ、これが糖尿病合併症や老化の原因になっています。糖を効率よくエネルギーへ変換する働きを持つR-αリポ酸は、抗糖化素材として現在非常に注目されている物質なのです。
尚、現在市販されている一般的なαリポ酸サプリメントの多くはR-αリポ酸ではなく、R-αリポ酸と非天然体であるS-αリポ酸の50%ずつのラセミ体という成分が含まれています。ところが、図1にも示しますように、S-αリポ酸はPDCの働きを阻害することからR-αリポ酸のPDC活性化作用を打ち消します。そこで、αリポ酸のサプリメントを購入するときはR-αリポ酸のみが処方されているかどうかを確認しましょう。
今回取り上げる論文の一つ目はラットの肝細胞を用いてピルビン酸の代謝と脂肪酸酸化に対するR-αリポ酸の影響を観たものです。(Effect of R(+)α-Lipoic acid on Pyruvate Metabolism and Fatty Acid Oxidation in Rat Hepatocytes, Jennie L. Walgrenら、Metabolism, 53(2)165-173 (2004))
24時間絶食したラットの肝細胞を単離し、R-αリポ酸を0から200μmol/Lの濃度で添加しています。3時間後、酵素をKFで不活性化してC14ラベル化した二酸化炭素の発生量をPDC活性のパーセンテージで表現しています。その結果、PDC活性はR-αリポ酸の濃度依存的に上昇しました。(n = 4-5/それぞれの処理群、P < 0.05)
次に取り上げる論文はS-αリポ酸ではなくR-αリポ酸が血管性認知症患者のPDC活性を向上するという論文です。(R-, but not S-alpha lipoic acid stimulates deficient brain pyruvate dehydrogenase complex in vascular dementia, but not in Alzheimer dementia, L. Froelich et al, J. Neural Transm 111, 295-310 (2004))
血管性認知症とアルツハイマー型認知症の認知症患者のPDC活性は健常人(正常な脳の人)に比べて低下していることが知られています。そこで、認知症を発症した人から剖検で脳組織をサンプリングし、脳組織にR-αリポ酸とS-αリポ酸を添加し、PDC活性を評価しています。
まず、健常人(正常脳)のR-αリポ酸は健常人のPDC活性を向上させることがわかりました。(P < 0.05)その一方で、S-αリポ酸はPDC活性を抑制する傾向にあることも確認されています。
アルツハイマー型認知症患者の場合はR-αリポ酸によっても、残念ながら、有意にPDC活性を向上させることは出来ていません。
次に、脳血管性認知症患者の場合はR-αリポ酸の処置でPDC 活性は向上することがわかりました。(P < 0.05)
尚、健常人(正常脳)、アルツハイマー型認知症患者、血管性認知症患者のすべての検討において、S-αリポ酸はPDC活性を阻害するか、影響を与えないという結果となっています。繰り返しになりますが、くれぐれも、αリポ酸サプリメントを購入する際はR-αリポ酸の表示のあるものを選びましょう。