ラクダのミルク(1)糖尿病改善効果を検証した論文のシステマティック・レビュー
最近、世界的にラクダのミルクの需要が高まってきていることをご存知でしょうか?それにともなって、現在では、アメリカやオーストラリアでもラクダの飼育が行われるようになっています。その理由は、2018年にドバイでラクダミルクの粉ミルクが開発され、糖尿病改善効果があるとして中国の富裕層に人気が出てきているからなのです。
ラクダには西アジア原産のヒトコブラクダと中央アジア原産のフタコブラクダの2種類が存在します。近年まで、ラクダは砂漠における唯一の移動手段として利用されてきました。ラクダの背中のこぶには脂肪が蓄積されており、エネルギーを蓄えるだけでなく断熱材としての役割もあるため、砂漠のような酷暑に耐える力を持っています。また、ラクダは乾燥した環境に適しており、砂塵を避けるため鼻を閉じることができ、目は長いまつげで保護されています。哺乳類の中でも唯一水分を血液中に蓄えることができ、また、塩分濃度の濃い水でも摂取することもできます。
寿命は約30年と長いのですが、繁殖が遅く、年一回の発情期に加え、12ヶ月の妊娠期間が必要なのです。ラクダの授乳期間は13ヶ月であり、1日に5リッターを搾乳できますが、これは牛の1日当たりの搾乳量である20-40リッターに比べると少なく、ラクダの個体数が牛に比べてはるかに少ないことから非常に希少性があります。
では、なぜラクダのミルクに糖尿病改善効果が期待できるのか、その効能効果を支持するためにどのような学術論文が出されているのか、について、調査した結果を紹介します。
2006年のSinghらのラクダと牛のミルクの成分を比較した調査報告によりますと、脂肪は牛が4%に対してラクダは半分の2%と低く、インスリン量は逆に牛が16.3μU/mlに対してラクダは40.5μU/mlと3倍近く高いこと、そして、ビタミンC量も牛が10mg/mlに対してラクダは35mg/mlと同様に3倍高いことが分かっています。また、牛乳に含まれている主要アレルゲンの一つであるβ-ラクトグロブリンがラクダのミルクには全く含まれていないのでアレルギーを引き起こしにくいことも一つの特徴となっています。
先に、2017年の糖尿病改善効果に関するシステマティック・レビューを紹介し、次に、糖尿病改善効果に対する作用機序解明に関する報告を紹介します。
では、まず、システマティック・レビューです。
Camel Milk Has Beneficial Effects on Diabetes Mellitus: A Systematic Review
P. Mirmiran et. al., Int J Endocrinol Metab. 2017 April; 15(2):e42150
このレビューには、これまでに糖尿病改善効果を検証した動物実験、1型糖尿病患者によるヒト臨床試験、そして、2型糖尿病患者によるヒト臨床試験に関する報告がまとめられています。
動物試験による検証に関しては、ラットと犬を用いた7報がレビューされていますが、正常ラットを用いた場合に変化がない論文1報を除くと、何れも、ラクダミルクによる血糖値、コレステロール値、中性脂肪値の低下が確認されています。Sbouiらの報告で、牛乳を飲んだ群では逆に血糖値とコレステロール値が上昇することも確認されています。また、1型糖尿病モデルラットを用いた論文が多い中、Wangらは、2型糖尿病モデルラットを用いてラクダミルクによる血糖値、インスリン値、コレステロール値、中性脂肪値の低減効果をみており、ラクダミルクが1型糖尿病だけでなく、2型糖尿病にも効果のあることが明かとなっています。
次に、ラクダのミルクによる1型糖尿病患者に対するヒト臨床試験の報告は8報あります。すべての論文で通常のケアのコントロール群と比較しており、ラクダのミルクを毎日飲む群はInsulin doseの低減、HbA1c低下、空腹時血糖値の低下、血中インスリン上昇、中性脂肪の低減といった効果が確認されています。尚、Insulin doseとは1型糖尿病では血糖値改善のためにインスリンを注射する必要がある。その際に血糖値を下げるのに必要なインスリンの量を意味しています。
さらに、ラクダのミルクによる2型糖尿病患者に対するヒト臨床試験の報告も3報あります。この検討では牛乳を飲む群と比較しており、ラクダのミルクを飲む群で空腹時の血糖値、HbA1cは低下し、空腹時の血中インスリン濃度が上昇することが確認されています。
このように、ラクダのミルクが糖尿病改善に効果のあることは動物試験とヒト臨床試験を通じて明らかとなっています。そこで、次回は、なぜ、ラクダのミルクにそのような効果があるのか、その作用機序を解明している論文を紹介します。