コエンザイムQ10による心肺機能の強化
コエンザイムQ10(CoQ10)は1974年に日本において心筋代謝改善薬(代謝性強心剤)として承認され販売されました。医薬品として販売されるようになった後には、心不全などのさまざまな病態に対してCoQ10の有効性を示す多くの臨床応用に関する研究が報告されています。
その主な例を挙げますと、CoQ10 の第1回国際シンポジウム(1976年)では、左心室不全症患者197名にCoQ10を30mg/日、2~4週間経口投与し、軽度疾患患者に症状全般、特に、狭心症状や肝腫脹に改善効果の認められたことが報告されています。
1991年には、CoQ10を含有する製剤(CoQ10と酢酸α-トコフェロールを含有する製剤、1日の所用量3錠中にそれぞれ30mgと10mgを含有)が処方箋なしに購入できるOTC医薬品として日本ではじめて販売されるようになりました。その効果・効能には『軽度な心疾患により日常生活の身体活動を少し越えた時に起こる動悸、息切れ、むくみの緩和に有効』との記載があります。
このように、日本においてCoQ10は心疾患に対する医薬品として利用されてきましたが、2001年3月に厚労省医薬局長の通知『医薬品の範囲に関する基準の改正について』によって、『医薬品的効果効能を標榜しない限り食品と認められる成分本質(原材料)』リストに収録され、CoQ10を含有したサプリメントが製造販売できるようになりました。したがって、CoQ10サプリメントは効能効果を表示できませんが、吸収性の高い製剤であれば心肺機能の改善に有効であることは明らかなのです。
心臓は一生拍動し続けて全身に血液を循環させ、私たちの体全体に酸素と栄養を送り続けています。心臓は筋肉(心筋)で出来たポンプで、これを動かしているのは電気信号“活動電位”と心筋細胞内の“カルシウムイオン”なのです。心臓のペースメーカーから発した活動電位が1回/秒で心臓全体に伝わり、心筋細胞中のカルシウムイオン濃度が高まり、心筋細胞が収縮します。これが心臓全体の心筋細胞でほぼ同時に起こることで心臓が拍動し、血液が送り出されているのです。心臓の拍動が乱れる病気が”不整脈”です。この原因は心臓の電気信号の乱れで、カルシウムイオンの動きに異常が起きることによります。
1993年に紀氏らはマウス胎児心室筋由来の培養心筋細胞を用いてCoQ10の拍動増強作用を確認しています。心筋細胞にCoQ10を1μM添加後の活動電位変化を添加前(A)、添加10分後(B)、添加60分後(C)に調べたところ、CoQ10は心筋細胞の拍動を増強させ、拍動リズムを安定化することが判明しています。呼吸酵素系に作用して細胞内ATP量を高めたため拍動が増強したものと結論付けています。
また、呼吸器疾患においては、呼吸困難の原因として呼吸筋不全が重視されています。CoQ10は低酸素下でも心筋のエネルギー代謝面で、酸素利用効率を改善する作用のあることが知られていますので、呼吸筋に対しても同様にCoQ10はエネルギーチャージを高めて筋収縮力を向上させる可能性のあることから、1985年にはヒト臨床試験として呼吸器疾患におけるCoQ10の効果を近畿の31施設の共同研究によって検証しています。被験者は患者266名、投与量は60mg/日、投与期間は6ヶ月間でした。
検討結果を要約しますと、
①最大吸気圧の改善が観られ、呼吸筋の筋力向上が確認されました。
②医師診察による自他覚所見・検査所見で改善率は49.2%でした。
③心電図上右心負荷の軽減が確認されました。これは、肺血栓塞栓症リスク低減につながります。肺血栓塞栓症とは下肢の静脈に形成された血栓が肺に運ばれ、肺の血流が落ちて酸素が肺から供給されなくなる症状のことです。
このようにCoQ10は心臓と肺のホメオスタシス(恒常性)を維持するために必要な成分であり、エネルギー代謝を促すことで心不全や呼吸器疾患を患っている患者の心筋と呼吸筋の双方の筋収縮力を高める働きがあります。