エキセントリック運動による筋肉損傷をクルクミンが抑える|株式会社シクロケムバイオ
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研究情報
今、注目していること
2019.9.2 掲載

エキセントリック運動による筋肉損傷をクルクミンが抑える

エキセントリック運動をご存知でしょうか?エキセントリック運動とは重力に逆らって重いウェイトを持ち上げるいわゆるコンセントリック運動の逆の運動です。持ち上げるのではなくて、ゆっくりと下す運動です。すなわち、コンセントリック運動は筋肉の短縮性収縮の運動でエキセントリック運動は筋肉の伸張性運動のことを意味しています。

筋力トレーニングとしては、通常に皆さんが行っているコンセントリック運動よりも、むしろ、エキセントリック運動の方がトレーニング方法としては効率がいいことが分っています。しかしながら、このエキセントリック運動はコンセントリック運動よりも筋肉にダメージを引き起こす可能性が高いのです。ただ、筋肉を強くするためには『一度筋肉が傷つけられ、その修復過程で以前より強い状態になる』という過程が必要になります。アスリート達にはこのエキセントリック運動は必須のトレーニングなのです。

運動が引き起こす炎症反応や活性酸素は、筋肉の修復、再生、酸化還元シグナル経路の促進に必須ですが、もしそれがコントロールできなければ、第二の筋肉ダメージを引き起こしてしまいます。損傷とそれに続く炎症反応によって引き起こされる筋肉機能障害は、短期的には運動能力に影響を与える可能性があります。そのため、筋肉の損傷を適切に制御する、または、最小限に抑えて、運動後の回復を促進することが重要となります。

クルクミンは、NF-kB(エヌエフカッパービー)活性を抑制することで、抗炎症作用や抗酸化効果を示すことが知られています。NF-kBについては、この『今、注目していること』でもR-αリポ酸の美肌効果などで、何度か取り上げられていますがサイトカインやシクロオキシゲナーゼ(COX)の調節因子であり、炎症反応や細胞増殖、アポトーシスなどの数多くの生理現象に関与している体内で作られているタンパク複合体です。

そこで、エキセントリック運動による炎症と筋肉損傷に対する運動前、または、運動後のクルクミン摂取の効果についての検証が国立スポーツ科学センターによって行われ、2015年に論文発表されています。(Attenuation of indirect markers of eccentric-induced muscle damage by curcumin, Yoko Tanabe et al, Eur J Appl Physiol (2015) 115: 1949 - 1957)

それでは、この論文について紹介していきます。この研究では、試験デザインとして健康な男性20名をクルクミン(180mg/日、朝夕食時にクルクミンとして90mgずつ服用)を運動7日前に摂取するグループと7日後に摂取するグループにわけて、それぞれの効果を調べています。仮説として、運動前に摂取することで筋保護によるダメージの予防効果があり、運動後に摂取することで、炎症の低下、ダメージからの回復促進があるのではないかと考え、その考えを検証しています。尚、検討に使用したクルクミンは吸収性を高めたセラクルミンという製剤で検討されています。

図1. 試験デザイン
図1. 試験デザイン

筋肉損傷マーカーの測定項目

  1. 最大随意収縮(MVCトルク)…人が意識的に発する最大の力
  2. 可動域(ROM):エルゴメーターで測定
  3. 筋肉痛:Visual analogue scale(VAS)で評価
  4. 横緩和時間(T2):筋損傷で延長。MRIで測定。
  5. 血液サンプルでの測定
    血清から:CK活性、d-ROM(活性酸素代謝物)、BAP(抗酸化ポテンシャル)
    血漿から:IL-8、TNF-α

ここでは、理解しやすくするためにすべての結果を紹介するのではなく、これらの測定項目において有意差(顕著な差)があった項目のみを以下に紹介しておきます。

まず、人が意識的に発する最大の力である最大随時収縮(MVCトルク)に対するクルクミン摂取の効果です。運動前に摂取しても有意差はありませんが、運動後に摂取した場合には、 3-7日後にクルクミン摂取群で有意に上昇することが分りました。

図2. 最大随時収縮(MVCトルク)に対するクルクミン摂取の効果
図2. 最大随時収縮(MVCトルク)に対するクルクミン摂取の効果

可動域(ROM)に対するクルクミン摂取の効果は、MVCトルクと同様に、運動前に摂取しても有意差はありませんが、運動後に摂取した場合には、3-7日後にクルクミン摂取群で有意に上昇することがわかりました。

図3. 可動域(ROM)に対するクルクミン摂取の効果
図3. 可動域(ROM)に対するクルクミン摂取の効果

筋肉痛に対するクルクミン摂取の効果は、運動前に摂取しても有意差はありませんが、運動後に摂取した場合には、3-6日後にクルクミン摂取群で有意に低下することが分りました。

図4. 筋肉痛に対するクルクミン摂取の効果
図4. 筋肉痛に対するクルクミン摂取の効果

血清中のクレアチンキナーゼ(CK)活性は筋肉細胞の損傷が起こると上昇するものですが、CK活性に対するクルクミン摂取の効果は、運動前に摂取しても有意差はありませんが、運動後に摂取した場合には、5-7日後にクルクミン摂取群で有意に低下することが分りました。

図5. クレアチンキナーゼ(CK)活性に対するクルクミン摂取の効果
図5. クレアチンキナーゼ(CK)活性に対するクルクミン摂取の効果

尚、エキセントリック運動中に発生する炎症マーカーのIL-8とTNF-αもクルクミン摂取によって減少し、抗酸化活性も増強すると考えていましたが、検討結果、クルクミン摂取群とプラセボ群に有意差(顕著な差)は観られていませんでしたので、この筋肉損傷の低減メカニズムは抗炎症や抗酸化によるものではないと考えられます。

以上、まとめますと、運動前のクルクミンの摂取の効果は観られていませんが、運動後にクルクミンを摂取することで筋肉損傷は軽減されることが明かとなっていて、クルクミンはエキセントリック運動後の早急な回復に貢献することが分りました。