小型LDLコレステロールについて(7)ヒトケミカルによる小型LDLの減少
このシリーズでは、小型LDLコレステロールとは、いったいどのようなものか、そのリスクマーカーとしての鋭敏さはこれまでの研究からどこまで分かっているのか、小型LDLコレステロールが多いとどれほど危険なのか、小型LDLコレステロールが多いために冠動脈疾患(CHD)を患った際の医薬品による対処法にはどのようなものがあるか、そして、小型LDLコレステロールが多いことが健康診断で判明した際の未病患者に対する機能性食品による対処方法にはどのようなものがあるかなどについて、医師や薬剤師等の専門家に向けてではなく一般の方々に分かりやすく概説しています。
(6)では、機能性食品の中で亜麻仁油とαオリゴ糖による小型LDLの減少作用に関する知見を紹介しました。ここでは、小型LDL低減効果の期待できる機能性食品成分としてヒトケミカルを取り上げます。三大ヒトケミカルとは、人の全身の60兆個の細胞の中に数百個から3000個存在する小器官のミトコンドリアで働く機能性成分で、コエンザイムQ10、R-αリポ酸、そして、L-カルニチンのことです。ミトコンドリアは細胞内のエネルギー産生工場と呼ばれており、三大栄養素である脂質、タンパク質、糖質を代謝してエネルギーに変換しているのですが、そのエネルギー変換工程で必要な成分がこの三大ヒトケミカルなのです。L-カルニチンは脂質の脂肪酸をミトコンドリア内に運ぶ役目、R-αリポ酸はミトコンドリア内で糖質のブドウ糖を代謝する役目、そして、コエンザイムQ10は三大栄養素が代謝されて得られたエネルギーの前駆物質を最終工程の電子伝達系においてエネルギー物質であるATPに変換する補酵素としての役目を担っています。つまり、これらの3大ヒトケミカルが一つでも欠けると脂肪酸もブドウ糖も代謝されずエネルギー生産は出来ないわけです。
峰村らのグループは2003年にヒトケミカルのコエンザイムQ10とL-カルニチン摂取による体脂肪率の変化をBMI値と体脂肪率の近い成人女性60名に摂取してもらって検討しています。その結果、コエンザイムQ10とL-カルニチンに体脂肪低減に対する相乗効果を確認しています。
このように、ヒトケミカルのコエンザイムQ10とL-カルニチンの摂取による脂質代謝作用は小型LDLの低減効果が期待できますが、その一方で、コエンザイムQ10とR-αリポ酸の摂取による糖代謝促進作用もインスリン抵抗性を改善し、小型LDLの低減効果が期待できます。
脂肪細胞はアディポネクチンの分泌を介して糖・脂質代謝に関与しています。脂肪細胞から分泌される善玉のアディポサイトカインであるアディポネクチンは、“やせホルモン”とも呼ばれ、インスリン抵抗性を改善し、糖や脂質代謝を促進させる働きがあります。そして、このアディポネクチンと小型LDLコレステロール値には負の相関があることが知られています。つまり、アディポネクチンを増やすことが出来れば小型LDLコレステロールを減らすことが出来るわけです。
ヒトケミカルのコエンザイムQ10とR-αリポ酸にはいずれにもアディポネクチンを増やす作用が知られています。ラットの内臓脂肪細胞を培養し、コエンザイムQ10のγ-CD包接体を添加したところ、無添加のコントロール群に比べ、8日後のアディポネクチン量は有意(P < 0.05)に増加することが確認されています。
また、KKAy糖尿病モデルマウスへの高脂肪食に各種αリポ酸を添加し6群(1.αリポ酸無添加の高脂肪食群、2.γ-CD投与群、3.αリポ酸ラセミ体(天然のR体と非天然のS体を50%ずつ)投与群、4.αリポ酸ラセミ体のγ-CD包接体群、5.R-αリポ酸γ-CD包接体群、6.S-αリポ酸γ-CD包接体)に分けて、1ヶ月間投与した際の血漿中アディポネクチン濃度を比較したところ、αリポ酸無添加の高脂肪食群に比べ、天然のR-αリポ酸γ-CD包接体を添加した群が最も高いアディポネクチン濃度を示しました。
このように、コエンザイムQ10とR-αリポ酸のいずれのヒトケミカルも生体内アディポネクチンの分泌量を増加させる効果があり、アディポネクチン増加による小型LDLの低減を期待できることが分かりました。
さらに、ヒトケミカルのR-αリポ酸には糖代謝によるエネルギー産生作用が知られていますので、抗糖尿病効果を期待して血漿中のヘモグロビンA1c(HbA1c)濃度も比較したところ、やはり、αリポ酸無添加の高脂肪食群に比べ、天然のR-αリポ酸γ-CD包接体を添加した群の方が有意(P < 0.05)にHbA1c濃度は低下していることを確かめています。
この結果から、R-αリポ酸はインスリン抵抗性を改善できるものと考えられます。インスリン抵抗性と小型LDLコレステロールは正の相関があることが知られています。
ペルオキシソーム増殖剤活性化レセプターガンマ(PPARγ)は、核内受容体スーパーファミリーに属する転写因子であり、肥満や2型糖尿病との関連で注目されていて、アディポネクチンと同様にインスリン抵抗性に関与しています。そして、PPARγの発現量が増すとインスリン抵抗性は改善することが知られています。そこで、KKAy糖尿病モデルマウスを3群(Group 1:高脂肪食群、Group 2:高脂肪食+天然型R-αリポ酸γ-CD包接体投与群、Group 3:高脂肪食+非天然型S-αリポ酸γ-CD包接体投与群)に分け、1ヶ月間投与後のPPARγの発現量を比較しています。その結果、天然型のR-αリポ酸の投与群にPPARγの発現量の増加が観られ、インスリン抵抗性を改善できることが判りました。
同実験において、天然型のR-αリポ酸の投与群でアディポネクチンも増加することが確認され、PPARγとアディポネクチンの双方からR-αリポ酸のインスリン抵抗性の改善効果のあることが明かとなっています。
3大ヒトケミカルが減少するとエネルギー生産量が減少するので、当然、中性脂肪値や血糖値は高くなってきます。そして、それは、小型LDLコレストロールが増えることも意味します。そこで、小型LDLコレステロールを低減させるためにも3大ヒトケミカルの摂取は重要となります。
(5)で脂質異常症治療薬であるスタチン系薬剤を摂取すれば小型LDLは低減することを説明しました。しかし、スタチン系薬剤にはヒトケミカルのコエンザイムQ10の体内生産量を減少させる副作用があります。コレステロール合成系とCoQ10合成系には共通部分があり、スタチン系薬剤はコレステロールと共にCoQ10合成も阻害するからです。
そこで、小型LDLコレステロールを低減するためにアトルバスタチンやメバロチンを摂取している脂質異常症患者はコエンザイムQ10の積極的な摂取を心掛けましょう。