ヒトケミカルで競走馬のパフォーマンスは向上する!|株式会社シクロケムバイオ
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2020.2.4 掲載

ヒトケミカルで競走馬のパフォーマンスは向上する!

以前、「筋肉の増強維持にはヒトケミカル高含有の馬肉が一番!」というタイトルで各食肉の三大ヒトケミカルであるコエンザイムQ10、R-αリポ酸、そして、L-カルニチンの含有量について学術論文からまとめて紹介しています。なぜ、羊肉よりも馬肉の方がL-カルニチンのみならず、コエンザイムQ10とR-αリポ酸の含有量も圧倒的に多いのか?それは、羊、牛、鶏、豚よりも筋肉を必要としているからということは容易に分かっていただけると思います。

そこで、ここでは、馬にヒトケミカルであるコエンザイムQ10やαリポ酸を摂取させた際の影響を調べた二つの論文を紹介します。

その前に、この二つの論文に共通するキーワード、クエン酸シンターゼ(クエン酸合成酵素)の説明です。このクエン酸シンターゼはミトコンドリアのバイオマーカー(ミトコンドリアが元気に機能しているかどうか判断できるマーカー)であり、全ての生物中に存在し、アセチルCoAおよびオキサロ酢酸のクエン酸への変換を触媒する重要な酵素です。

図1. ミトコンドリアのバイオマーカーであるクエン酸シンターゼ(合成酵素)
図1. ミトコンドリアのバイオマーカーであるクエン酸シンターゼ(合成酵素)

『ミトコンドリアにおけるヒトケミカルのエネルギー産生のための役割』についてもおさらいしておきます。(図2)に示すように、L-カルニチンは脂質代謝に関与し、脂質をアセチルCoAに変換し、R-αリポ酸は糖質(ブドウ糖)を同じ変換物質であるアセチルCoAに変換し、クエン酸回路を通じて、電子伝達系でコエンザイムQ10(CoQ10)が働いてATPというエネルギー物質に変換されるというものでした。

図2. ミトコンドリアにおけるヒトケミカルのエネルギー産生のための役割
図2. ミトコンドリアにおけるヒトケミカルのエネルギー産生のための役割

R-αリポ酸とコエンザイムQ10はミトコンドリアのバイオマーカーであるクエン酸シンターゼの活性を高め、競走馬のパフォーマンスを向上させる働きがあるようです。

先ず一つ目の論文は2019年の英国の研究報告です。(Effect of daily supplementation with ubiquinol on muscle coenzyme Q10 concentrations in Thoroughbred racehorses, E.Thueson, D.P.Leadon, R.Heaton, I.P.Hargreaves, W.M.Bayly, Comparative Exercise Physiology, 15 (3): 219-226 (2019))

サラブレッド競走馬の筋肉コエンザイムQ10濃度におけるユビキノール配合サプリメント摂取の影響を調べています。コエンザイムQ10(CoQ10)は酸化的リン酸化を介したATPのミトコンドリア好気性産生に不可欠なのですが、馬ではほとんど研究されていません。そこで、この研究ではサラブレッドの臀筋におけるCoQ10濃度に対するユビキノールの摂取効果とクエン酸合成酵素(CS)を評価しています。

被験馬は14週間の集中的なトレーニングを受け、定期的に中程度のトレッドミル運動を行った7頭のサラブレッド競走馬(5~9歳、461~542kg)です。試験デザインは無作為化対照クロスオーバー試験で、グループA(N = 3)は、1gのユビキノールを3週間摂取した後、サプリメント摂取なしの期間を3週間設けています。グループB(N = 3)はサプリメント摂取なしの期間を3週間設けた後、1gのユビキノールを3週間摂取しています。ネガティブコントロール(N = 1)としてユビキノールの摂取なしで、それ以外は同じ食事を摂取しています。中臀筋の生検は、摂取前の0日目(ベースライン)、摂取10日後および21日後にバーグストローム生検針を使用して採取しています。そして、筋肉コエンザイムQ10濃度は、HPLC-UV検出器(275nm)にて測定し、クエン酸合成酵素活性は、37℃で分光光度計にて測定しています。では、まず中臀筋のコエンザイムQ10濃度の変化です。結果です。コエンザイムQ10を摂取するとコエンザイムQ10濃度は上昇し、摂取を中止すると筋肉のコエンザイムQ10濃度は低下し、有意な傾向が認められています(P = 0.06)。

図3. 中臀筋CoQ10濃度の変化
図3. 中臀筋CoQ10濃度の変化

中臀筋の筋肉のCoQ10濃度は(図4)に示しますようにクエン酸合成酵素活性と有意に相関していることが分かりました(P = 0.002:r2 = 0.53)。

図4. 中臀筋CoQ10濃度とクエン酸合成酵素活性の相関
図4. 中臀筋CoQ10濃度とクエン酸合成酵素活性の相関

クエン酸合成酵素(CS)活性はCoQ10濃度と共に増加し、大変興味深いことに筋肉CoQ10濃度とCS活性の比率は、CoQ10濃度の増加に関わらず、ほぼ一定であり、CoQ10濃度が高ければ高いほど、CS活性が高まることが分かりました。CoQ10を摂取することでCS活性が高まり、有酸素代謝能力が高まる、つまり、競走馬としてのパフォーマンスが強化されることが分かったのでした。

表1. 摂取21日後の中臀筋CoQ10濃度、クエン酸合成酵素(CS)活性
表1. 摂取21日後の中臀筋CoQ10濃度、クエン酸合成酵素(CS)活性

二つ目の論文はフィンランドの研究グループの2009年の研究報告です。(α-Lipoic acid supplementation enhances heat shock protein production and decreases post exercise lactic acid concentrations in exercised standardbred trotters, S. Kinnunen, S, Hyyppa, N. Oksala, D. E. Laaksonen, M.-L. Hannila, C.K. Sen, M, Atalay, Research in Veterinary Science, 87, 462-467 (2009))

この研究報告はαリポ酸のサプリメント摂取が運動した競走馬のヒートショックプロテインの産生を高め、乳酸濃度を低下させることを明らかとしたものですが、検討項目にαリポ酸によるクエン酸合成酵素(CS)活性の上昇を確認していましたので、そのCS活性の部分のみを紹介します。

尚、この論文で注目しているヒートショックプロテインの発現は、運動における細胞恒常性の破壊に対する適応メカニズムとされており、組織の保護を強化するために、αリポ酸などの抗酸化剤のサプリメントが摂取されています。ヒートショックプロテインとは、細胞が熱等のストレスにさらされた際に発現が上昇して細胞を保護するタンパク質です。ここでは、このヒートショックプロテインについては取り上げません。

この研究では、5~13歳で体重が400~508kgの、6頭の競走馬を臨床的に調査しています。競走馬にはαリポ酸を摂取しない5週間のコントロール期間を経て、αリポ酸を25㎎/kg/日の量を糖蜜に混ぜて与えています。

その結果、αリポ酸の摂取は安静時の骨格筋クエン酸合成酵素(CS)活性を増加させ、心拍数は変化させることなく、運動後の血中乳酸濃度を低下させることが分かりました。

図5. 運動中の筋肉CS活性、血中乳酸濃度、心拍数に対するαリポ酸摂取の効果
図5. 運動中の筋肉CS活性、血中乳酸濃度、心拍数に対するαリポ酸摂取の効果

以上をまとめますと、ヒトケミカルであるコエンザイムQ10とR-αリポ酸は何れも競走馬のミトコンドリアにおけるクエン酸合成酵素を活性化し、運動能力を高める働きのあることが分かりました。