R-αリポ酸は小型LDL低減作用で肥満による心血管疾患リスクを減少させる
今回はPCSK9というタンパク質についてご紹介いたします。
以前、SGLT2というタンパク質が腎臓でブドウ糖を尿に排出するのを防いで血液中に戻す役目をしていて血中のブドウ糖濃度を維持する役目をになっている物質であり、SGLT2を阻害するとブドウ糖の血中濃度を下げることができるとの話をしました。
小型LDLコレステロールについて(5)医薬品による小型LDLの減少
PCSK9は肝臓のLDL受容体を減らして血中のLDLコレステロール濃度を高めるというもので、PCSK9を阻害する(減らす)とLDLコレステロールの血中濃度を下げることができるという話でこの内容全体が分かります。
肥満は健康に対する最も重大な脅威であり、インスリン抵抗性、脂質異常症、脂肪肝など肥満関連の代謝異常は、心血管疾患および糖尿病のリスク上昇に大きく寄与しています。肥満の方が高脂肪・高カロリーの食事を続けるとそれらのリスクはさらに高まるのですが、高脂肪・高カロリーの食事をする際にR-αリポ酸を一緒に摂取しておくと真の悪玉コレステロールである小型LDLコレステロールが低減して心血管疾患や糖尿病のリスクが減少する可能性のあることが肥満モデルラットを使った実験で明らかとなり、論文発表されています。
今回紹介する論文はプロスワンという学術誌に2014年に投稿されたものです。
Alpha-Lipoic Acid Reduces LDL-Particle Number and PCSK9 Concentrations in High-Fat Fed Obese Zucker Rats(αリポ酸は高脂肪食摂取の肥満ZuckerラットのLDL粒子数とPCSK9濃度を低下させる)B. Carrier et. al., PLOS ONE, March 2014, Vol. 9, Issue 3, e90863
まず、このタイトルに出てくるPCSK9を分りやすく説明しておきます。
PCSK9はプロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型の略でLDLコレステロールを維持するために働くタンパク質です。LDLコレステロールはこれまで悪玉コレステロールと言われてきましたが、そもそもLDLコレステロールは全身の細胞の細胞膜の形成やホルモンや胆汁酸の原料として必要なコレステロールを全身に運ぶ重要な役割があります。PCSK9は肝細胞の表面に発現したLDL受容体と結合後、複合体を形成し、LDL受容体の分解を促進することでLDL受容体数を減少させ、LDL受容体数の減少により血中LDLコレステロール濃度を上昇させます。したがって、PCSK9が減少すれば、血中LDLコレステロールも低減することになります。
では、論文の内容です。肥満モデルラット(16匹)を12時間の明暗サイクルで温度管理されたケージ(20℃)に個別収容し、水は自由摂取させています。試験開始時に、高脂肪食(HF)群(N = 8)と0.25%のR-αリポ酸(LA)を添加した高脂肪食(HF-LA)群にランダムに割り当てられ、R-αリポ酸は食欲抑制作用を有しているため、HF群とHF-LA群間で同様のカロリー摂取を確保するためにペアフィードを行っています。
R-αリポ酸摂取(HF-LA)群では、高脂肪食(HF)群と比較して最終週(22、25、30日目)に大幅に体重が減少しています。給餌試験期間中の摂餌量と総カロリー量は2群間で差がなかったので、食欲抑制とは無関係に体重増加に対するR-αリポ酸の抑制効果があったと考えられます。
LA-HF群はHF群と比較して小型LDL粒子数は81%大きく減少していました。
R-αリポ酸の摂取は、血漿グルコース濃度を変えることなく(P > 0.05)、血漿インスリンを減少させ(P < 0.05)、インスリン感受性のマーカーであるグルコース/インスリン比を6倍に増加させています。これは、インスリン抵抗性の改善でもあります。
それでは、冒頭で説明したPCSK9についての評価です。LDL粒子数、特に、小型LDL粒子数の低減作用はPCSK9濃度に関与していると考えられます。実際に、R-αリポ酸摂取群(LA-HF群)はHF群と比較して、血清PCSK9濃度は70%も低下していることが明かとなりました。
以上をまとめます。肥満モデルラットに対してR-αリポ酸の摂取はインスリン抵抗性の改善とともにPCSK9の血中濃度を低下させることでLDL受容体の減少を抑え、その結果、真の悪玉コレステロールである小型LDLコレステロールは減少し、心血管疾患や糖尿病のリスクが減少できる可能性が示されました。