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青学大の箱根駅伝優勝には難消化性αオリゴ糖が関わっていないだろうか?

2020年1月2日と3日に行われた第96回箱根駅伝は往路優勝の青学大がリードを守って2年ぶり5度目の総合優勝だったことは記憶に新しいと思います。この優勝はもちろん原監督をはじめ、選手たちの日頃の努力が実っての優勝に間違いないのですが、その陰に、難消化性αオリゴ糖摂取の効果もあったとは言えないでしょうか?

当社では毎週、シクロデキストリンに関係する注目すべき学術論文を各研究員が持ち寄って話し合う場を設けているのですが、今週、大変興味深い内容のα-シクロデキストリン(難消化性αオリゴ糖)のスポーツパフォーマンスの向上に関する“査読前のプレプリント”がある研究員によって紹介されました。

その内容を紹介する前に簡単に“査読前のプレプリント”について説明しておきます。学術雑誌に投稿すると、編集者が、論文を評価し、その仮定、方法、結論の弱点を特定できる「レフェリー」と呼ばれるさまざまな専門家からアドバイスを受け、著者がレフェリーの懸念に対処したことを編集者が確認して、その雑誌に正式に発表されることになります。しかしながら、このプロセスは時間がかかるため、著者はbioRxivサービスを使用して、査読とその結果の認証を完了する前に原稿を「プレプリント」として利用でき、他の科学者は調査結果をすぐに確認、議論、コメントできるようになります。したがってbioRxivの記事はまだ承認されていないことを知っておく必要があるものです。

では、その「プレプリント」を紹介します。『Bacteroides uniformis enhances endurance exercise performance through gluconeogenesis(バクテロイデスユニフォーミスは糖新生によって持久力運動パフォーマンスを向上させる)』という題目で、アサヒクオリティーアンドイノベーション(株)、慶応大学、青山学院大学、神奈川県立産業技術総合研研究所、筑波大学の共同研究であり、共著者の1人には箱根駅伝でも有名な青山学院大学の陸上部の原晋監督の名前も入っています。

今回は、結論から先にお伝えします。難消化性αオリゴ糖を8週間摂取するとスポーツパフォーマンスが向上することが分かり、そのメカニズムには、(図1)のように腸内にBacteroides uniformis(バクテロイデスユニフォーミス)の増加と酢酸とプロピオン酸の短鎖脂肪酸の増加が関与していると考えられています。尚、私たちはこれまでこのバクテロイデス菌を体重が減少する作用を持っているので“ヤセ菌”と名付けていますので、ここでは、以下、ヤセ菌と言います。

図1. ヤセ菌の短鎖脂肪酸産生と胆汁酸合成による運動能力向上機構
図1. ヤセ菌の短鎖脂肪酸産生と胆汁酸合成による運動能力向上機構

まず、筆者らはアスリート48名(18歳~22歳)とノンアスリート10名(22歳~24歳)の糞便から腸内細菌叢を解析し、アスリートの細菌叢ではヤセ菌が多いことを確認しています。

図2. ノンアスリートとアスリートの腸内細菌叢の違い
図2. ノンアスリートとアスリートの腸内細菌叢の違い

そこで、マウスに4週間に渡ってヤセ菌(200ul(2億CFU)/日)を経口投与した群とリン酸緩衝液(200ul/日)投与群の遊泳時間の比較を行ったところ、ヤセ菌投与群において疲労困憊までの遊泳時間は顕著に増加していることが明らかとなっています。

図3. ヤセ菌投与による遊泳時間の延長
図3. ヤセ菌投与による遊泳時間の延長

また、腸内細菌を無くした無菌マウスを用いてヤセ菌のみを投与した際に発生する短鎖脂肪酸産生量を確認したところ、ヤセ菌投与によって酢酸とプロピオン酸はしっかりと産生されますが、酪酸は産生されていないことも確認しています。

図4. 無菌マウスにヤセ菌を投与した際の短鎖脂肪酸産生量
図4. 無菌マウスにヤセ菌を投与した際の短鎖脂肪酸産生量

ということは、ヤセ菌が腸内で増加し、酢酸やプロピオン酸を産生するような機能性成分によっても遊泳時間は延長すると考えられます。

そこで、ヤセ菌の増加を期待し、筆者らはアマニリグナンを検討しています。しかしながら、このアマニリグナンは日本製粉の製品で難消化性αオリゴ糖が40%含まれていますので、難消化性αオリゴ糖にも効果があるか、7週間に渡ってアマニリグナンを投与した群と難消化性αオリゴ糖を投与した群の比較を行っています。その結果、双方でヤセ菌の増加と遊泳時間の延長が確認されました。

図5. アマニリグナンと難消化性αオリゴ糖によるヤセ菌増加と遊泳時間の延長効果
図5. アマニリグナンと難消化性αオリゴ糖によるヤセ菌増加と遊泳時間の延長効果

では、なぜヤセ菌の増加によって遊泳時間は延長した、つまり、スポーツパフォーマンスは向上したのでしょうか?

再び、(図1)をご参照ください。筆者らはヤセ菌が生産する酢酸やプロピオン酸などの短鎖脂肪酸がβ酸化関連遺伝子であるCpt1aと糖新生関連遺伝子であるPCK1の遺伝子発現を増加させ、糖新生によってブドウ糖を作り、その結果、スポーツパフォーマンスを向上させたと考えられます。実際に、マウスにリン酸緩衝液を投与して運動無しの群、有りの群、ヤセ菌を投与して運動無しの群、有りの群を比較したところ、ヤセ菌を投与して運動すると、β酸化と糖新生の遺伝子は顕著に増加することが確認されています。

図6. ヤセ菌投与群の運動後のβ酸化と糖新生の関連遺伝子の増加
図6. ヤセ菌投与群の運動後のβ酸化と糖新生の関連遺伝子の増加

これらの結果を踏まえ、筆者らは最後にヒト試験を行っています。8週間の難消化性αオリゴ糖を40%含有するアマニリグナンを1日に200mg摂取した群(n = 10)、難消化性αオリゴ糖を1日に200mg摂取した群(n = 10)、そして、アマニリグナンも難消化性αオリゴ糖も摂取していないプラセボ群(n = 11)のそれぞれのヤセ菌の変化、そして、疲労の軽減、及び、10km自転車の所要時間を比較しています。

アマニリグナン摂取群と難消化性αオリゴ糖摂取群で顕著なヤセ菌の増加が確認できています。

図7. アマニリグナンと難消化性αオリゴ糖の摂取によるヤセ菌の増加
図7. アマニリグナンと難消化性αオリゴ糖の摂取によるヤセ菌の増加

また、VASアンケートによって50分間のエアロバイク後の疲労感を調べていますが、運動直後、30分後、60分後、何れにおいても、難消化性αオリゴ糖摂取群で、摂取8週間目でベースラインよりも疲労が軽減しています。

図8. 難消化性αオリゴ糖によるエアロバイク後の疲労感の緩和
図8. 難消化性αオリゴ糖によるエアロバイク後の疲労感の緩和

さらに、エアロバイクで10km走るのにかかった時間を比較しています。難消化性αオリゴ糖群ではベースラインと比較して10km走行時間が摂取4週目及び摂取8週目に顕著に減少しています。また摂取8週目には難消化性αオリゴ糖群はプラセボ群よりも10km走行時間が顕著に減少することが確認されました。

図9. 難消化性αオリゴ糖によるエアロバイク10km走行時間の短縮
図9. 難消化性αオリゴ糖によるエアロバイク10km走行時間の短縮

このように、ヤセ菌が運動パフォーマンスに関連する菌であることとのアマニリグナンではなく難消化性αオリゴ糖摂取が腸内細菌叢の調整を介してヒトとマウスにおいてスポーツパフォーマンスを向上できることが明らかとしています。

当社では2018年に難消化性αオリゴ糖を摂取すると今回取り上げているバクテロイデス菌が増加し、腸内で酢酸やプロピオン酸の産生量が増加し、高脂肪食を食べても体重増加を抑制できることを明らかとし、論文発表しています。そして、このバクテロイデス菌が体重増加抑制に関与していますのでヤセ菌と呼んでいます。
プロピオン酸がスポーツパフォーマンスを向上する

今回、難消化性αオリゴ糖を摂取して、このヤセ菌を増やすと、アスリートのスポーツパフォーマンスを向上させることも明らかとなったわけです。

もう一度、質問です。今回のタイトルのように青学大の今年の箱根駅伝優勝には難消化性αオリゴ糖が関わっていないのでしょうか?