酸化コレステロールと動脈硬化について|株式会社シクロケムバイオ
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2020.06.08 掲載

酸化コレステロールと動脈硬化について

2020年6月12日に宝島社から『動脈硬化と突然死の知られざる原因!「小型LDLコレステロール」の怖い話』という本が出ます。この本の目的は、動脈硬化の原因は真の悪玉コレステロールである小型LDLコレステロールであること、そして、その小型LDLコレステロールを低減させて動脈硬化と突然死のリスクを減らすためにはαオリゴ糖の摂取が有効であることを知ってもらうことです。

αオリゴ糖の摂取が動脈硬化リスクを下げるために有効であるその主な理由は、この本を読んでいただくと理解していただけるのですが、①中性脂肪低減、②血糖値上昇抑制(インスリン抵抗性改善)、③飽和脂肪酸選択的排泄、の3つを挙げています。

動脈硬化症を発症するメカニズムは、(図1)のように、まず、小型LDLコレステロールが血管内皮に侵入すると、活性酸素によって酸化LDLコレステロールとなり、それをマクロファージが貧食して泡沫細胞に変化します。そして、その泡沫細胞が固まり、アテロームとなり、動脈硬化を引き起こすのです。よって、この酸化LDLコレステロールの形成も動脈硬化の大きな要因なのです。

図1. 小型LDLコレステロールから動脈硬化を引き起こすアテローム生成のメカニズム
図1. 小型LDLコレステロールから動脈硬化を引き起こすアテローム生成のメカニズム

これまでの研究から食事中に含まれる酸化コレステロールが体内の酸化LDLコレステロールを増やす原因であることが判ってきています。ここで、“酸化コレステロール”と“酸化LDLコレステロール”という紛らわしい2つの似た言葉が出てきていますので、これらの言葉を説明しておきます。これらの言葉は似ていますが、全く別物なのです。

まず、酸化コレステロールとはコレステロールそのものが食品加工中に加熱処理やUV照射を受けて酸化したもので、食品中に含まれる酸化コレステロールのことを外因性の酸化コレステロールと呼んでいます。実際には、焼き鳥の皮の部分、インスタントラーメン、レトルト、加工肉食品、2度揚げした天ぷらなどの揚げ物の中に含まれています。生体内でもコレステロールは酸化を受けて内因性の酸化コレステロールとなりますが、生体内の酸化コレステロールの大部分は外因性に由来していることが明かとなっています。

一方、酸化LDLコレステロールとはコレステロールではなくLDLコレステロールというリポタンパクに含まれる脂質が活性酸素などによって酸化を受けたものです。もう少し具体的に説明すると、リポタンパクには、コレステロールの他に中性脂肪やリン脂質などの脂肪類が存在しているのですが、これらは酸化を受けやすい不飽和脂肪酸が含まれていて、この不飽和脂肪酸が酸化されて酸化LDLコレステロールとなります。

このように“酸化コレステロール“と“酸化LDLコレステロール”は別物なのですが、酸化コレステロールを含む食事をすることによって、血清中には酸化LDLコレステロールなどの脂質が酸化されたリポタンパクが増加するという研究報告があります。(D.F. Vine et al., Journal of Lipid Research, 39, 1995(1998))

酸化コレステロールを1%含有する食餌を14日間ラビットに与えた酸化コレステロール群(n = 7)と精製コレステロールを1%含有する食餌を14日間与えたコントロール群(n = 8)に分け、AAPHを用いたラジカル測定によって脂質酸化度を評価したところ、酸化コレステロールを摂取するとリポタンパクの脂質の酸化度が顕著に増加することが明かとなっています。(P < 0.05)

図2. 酸化コレステロール摂取によるTRL中過酸化脂質の増加
図2. 酸化コレステロール摂取によるTRL中過酸化脂質の増加

そして、食事から摂取した酸化コレステロールが原因でアテローム性動脈硬化が促進することを示した報告もあります。(L. Staprans et al., Artrioscler Thromb Vasc Biol., 20(3), 708-714(2000))

リポタンパクの脂質酸化は心血管疾患のリスク因子であることは明らかですが、脂質酸化の起源が内因性の酸化コレステロールであるか外因性の酸化コレステロールであるかについては知られていないため、この報告では、アテローム性動脈硬化が進行してしまうモデルマウスのLDL受容体欠損マウスやApoE欠損マウスを用いて、食事に含まれる酸化コレステロールのアテローム性動脈硬化に対する影響を調べています。

酸化されていないコレステロール1%を含む食餌をLDL受容体欠損マウスに与えた群(n = 11)、酸化コレステロール1%を含む食餌をLDL受容体欠損マウスに与えた群(n = 11)、酸化されていないコレステロール0.15%を含む食餌をApoE欠損マウスに与えた群(n = 13)、酸化コレステロール0.15%を含む食餌をApoE欠損マウスに与えた群(n = 17)の4群に分けて、12週間に渡って、1日に120mg~240mgのコレステロールを摂取させています。

その結果、酸化コレステロールを含む食餌を摂り続けると動脈硬化の初期病変である脂肪線条(Fatty streak)部位が増加することがLDL受容体欠損マウスでもApoE欠損マウスでも確認されました。

図3. 酸化コレステロール摂取による動脈硬化の初期病変の部位の増加
図3. 酸化コレステロール摂取による動脈硬化の初期病変の部位の増加

このように、インスタントラーメンや焼き鳥の皮などの酸化コレステロールを多く含む食事を摂り続けると、酸化LDLコレステロール量が増加し、アテローム性動脈硬化症を患う危険性のあることが明かとなっています。