マヌカハニーの病原体感染予防に対する有効成分はMGOだけではない|株式会社シクロケムバイオ
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2020.10.09 掲載

マヌカハニーの病原体感染予防に対する有効成分はMGOだけではない

マヌカハニーはハチミツの中でも特にメチルグリオキサール(MGO)という抗菌物質が含まれていて様々な健康増進効果を有していることで“蜂蜜の王様”と呼ばれていますが、実は、この病原体の感染予防に関する有効成分はMGOだけではなく、マヌカハニーに含まれるオリゴ糖にもよるものであることが分かってきました。MGOが病原性細菌やウイルスに対する抗菌・抗ウイルス作用を示すと同時に、マヌカハニーオリゴ糖も病原性細菌の腸管細胞への付着を抑えて、感染を防いでいるようです。

ここでは、アイルランドのLaneらのグループの2019年の報告を紹介します。ヒト結腸腺癌由来細胞を用いて、その細胞に病原性細菌が感染する際にマヌカハニーのオリゴ糖を加えると、細菌の細胞への付着が抑制されたというものです。

Oligosaccharides Isolated from MGO™ Manuka Honey Inhibit the Adhesion of Pseudomonas aeruginosa, Escherichia Coli O157:H7 and Staphylococcus Aureus to Human HT-29 Cells
J. A. Lane et al., Foods 2019, 8. 446; doi:10.3390/foods8100446

ハチミツに含まれるオリゴ糖はプレバイオティックスの可能性が示されています(Sanz et al., 2005)ビフィズス菌や乳酸菌を選択的に増殖し、腸管上皮細胞から侵入する病原体を遮断することで感染症の発症を抑えることができるとしています。

これまでのこの分野の研究では主にウシとヒトのミルクオリゴ糖の抗付着(抗感染)作用に焦点が当てられてきました。そこで、まず、ヒトミルクオリゴ糖(HMO)による病原性細菌の感染予防機構について説明しておきます。ほとんどの病原体は腸管上皮細胞の細胞表面の複合糖質であるグリカンに結合できるグリカン結合タンパク質であるレクチンを持つが、①そのレクチンは表面のグリカンに付着して、②上皮細胞内に侵入することが分かっています。(図1の左側の図)しかし、HMOは構造的に細胞表面のグリカンに似ていますので、レクチン結合類似体として働き、病原体の付着を防ぐことができます。(図1の中央の図)また、HMOは腸管上皮細胞表面のグリカンのグリコシル化の機構を変更させ、糖質を変えることもあり、その結果、病原体のレクチンはグリカンに結合できず、病原体の付着、増殖、コロニー形成に影響を与えています。(図1の右側の図)

図1. ヒトミルクオリゴ糖(HMO)の病原性細菌の感染防御機構
図1. ヒトミルクオリゴ糖(HMO)の病原性細菌の感染防御機構

では、マヌカハニーのオリゴ糖(MHO)による病原体の腸管上皮細胞への付着防止作用に関する報告を紹介します。

マヌカハニーは80%以上が単糖を含む糖類ですが、この内、最大25%がオリゴ糖で構成されています。そこで、この研究では、活性炭を用いて単糖のブドウ糖や果糖を除去してMHOを抽出しています。(ここでは、その抽出の詳細は省きます。)

次に、病原体としてこの検討に使用した細菌と感染症について(表)に示しています。これらの細菌は食中毒や髄膜炎、敗血症などを引き起こすことが知られています。

表. 検討に使用した病原体とその感染による病態

上段:病原体 下段:病態
黄色ブドウ球菌 ATCC 29213 表皮感染症や食中毒、肺炎、髄膜炎、敗血症など
大腸菌 DPC P1432 胃腸炎、尿路感染症、出血性大腸、クローン病など
サルモネラ・ネズミチフス菌 ATCC BAA-185 非チフス型サルモネラ菌。感染型食中毒を起こす
クロノバクター・サカザキ NCTC 08155 新生児や乳児に菌血症や髄膜炎のリスクが高い
リステリア・モノサイトゲネス NCTC 5348 リステリア症(髄膜炎、敗血症、髄膜脳炎など)
シュードモナス エルギノーザ ATCC 33354(緑膿菌) 日和見感染菌。敗血症などを引き起こす

まず、病原体である細菌をヒト結腸腺癌由来細胞(HT-29 細胞)に接種して培養(細菌の種類によって1時間、あるいは、2時間、37℃、5%CO2)し、PBSで洗浄後、付着した細菌を回収してその生菌数を求めています。その結果、試験に用いた細菌はすべて細胞へ付着することを確認しました。

図2. 病原性細菌のHT-29細胞への付着性
図2. 病原性細菌のHT-29細胞への付着性

細菌をMHOで1時間、プレ培養しHT-29 細胞に接種して1時間、あるいは、2時間、培養してPBSで洗浄後、生菌数を求めたところ、特に、黄色ブドウ球菌と緑膿菌において付着を抑制できること、つまり、感染を予防できることが明らかとなりました。

図3. MHOでHT-29細胞への付着が低減された病原性細菌
図3. MHOでHT-29細胞への付着が低減された病原性細菌

黄色ブドウ球菌の場合は、プレ培養なしで付着抑制が増大することが分かりました。このことはオリゴ糖が腸管上皮細胞へ相互作用することで黄色ブドウ球菌の付着が抑制できるので、マヌカハニーのオリゴ糖(MHO)で黄色ブドウ球菌の感染は防ぐことができる可能性が高いと考えられます。

図4. MHOによる黄色ブドウ球菌のHT-29細胞への付着抑制
図4. MHOによる黄色ブドウ球菌のHT-29細胞への付着抑制

このようにMHOは、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌のヒト結腸上皮細胞への付着を有意に抑制することが示されています。特に、黄色ブドウ球菌については、食品に含まれるオリゴ糖との相互作用についてこれまでほとんど報告されていないようです。なので、マヌカハニーを摂取すると黄色ブドウ球菌が関連する関連胃腸炎を予防できる可能性もあると考えられます。