食品添加物であるソルビン酸のヒトの健康に対する本当の影響とは|株式会社シクロケムバイオ
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2020.11.05 掲載

食品添加物であるソルビン酸のヒトの健康に対する本当の影響とは

日本プロポリス協議会の会報No.42は作成されたものの配布はされませんでした。その理由は『寄生虫博士』として知られる東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎先生の演題「自然の恵みで免疫力アップ―『やっぱりプロポリスだ!』と思える理由―」の講演内容の一部を厚生労働省と日本食品添加物協会が問題視したためでした。

その問題視された箇所の内容を以下に忠実にその会報から記載しておきます。

「私たちが作った文明社会に一つに抗生物質があります。抗生物質は腸内細菌を減少させてしまっております。また、0.3%のソルビン酸は食品添加物として何にでも入っております。ソルビン酸は厚生労働省が安全だとして使用が許可されておりますが、安全であり人間が死ぬことはありませんが腸内細菌は死んでしまいます。安全なものではありますが、私は、腸内細菌が死滅してしまうような保存剤や食品添加物の入った食品は食べないようにしましょう…と柔らかく控えめに新聞に書きました。そうしたら添加物協会からすごい抗議がありまして、『科学的な根拠があるのか』と言われましたが、科学的な根拠どころか実際に腸内細菌が減ってしまうのは明白な事実です。腸内細菌が免疫を作っているのも事実です。安全であるとは言っても、人が生きるか死ぬかを言っているのではなく、腸内細菌が死んでしまうことを言っているのです。ですから、添加物が含まれたものではなく手作りのものを食べるようにし、自然の治癒力を伸ばすようにしましょう、と言っているわけです。」

そこで、腸内環境の研究に対してすばらしい功績をお持ちの藤田先生のソルビン酸に対するコメントには何らかの根拠となる研究報告があるはず、と考え、当社にて調べてみました。

まず、ソルビン酸のカリウム塩の安全性を評価している論文がありました。

Pharmacokinetic and toxicological aspects of potassium sorbate food additive and its constituents
P. Dehghan et. al., Trends in Food Science & Technology, 80, 123-130 (2018)

ソルビン酸カリウムの代謝試験の結果、経口投与後に腸でほとんど吸収され、その後、体内に分配されることが示されています。人体ではヘキサン酸と同様に代謝され、二酸化炭素と水に酸化されます。そして、80~86%は二酸化炭素として肺から排出され、2~10%は尿の中のムコン酸(ソルビン酸酸化物)やソルビン酸として排泄されるようです。

図1. 人の体内におけるソルビン酸カリウムの吸収、分布、排泄
図1. 人の体内におけるソルビン酸カリウムの吸収、分布、排泄

よって、ヒトがソルビン酸を摂取してもそのほとんどが代謝、排泄されることは明らかなようです。

では、腸内環境についてはどうでしょうか?

2019年の論文で食品添加物がヒトの腸内細菌に与える影響について検討している論文がありました。

Human gut microbes are susceptible to antimicrobial food additives in vitro
L. Hrncirova et. al., Folia Microbiologica 64: 497-508 (2019)

この論文の内容は、ソルビン酸や安息香酸などの抗菌性食品添加物が、感受性の高い腸内微生物の増殖を選択的に抑制することで、ヒトの腸内細菌叢の組成を変化させる可能性があるという仮説を検証することにあります。抗菌性食品添加物がヒトの腸内細菌叢の組成に及ぼす影響を調べるために、好気性および嫌気性腸内細菌の安息香酸ナトリウム(保存料)、亜硝酸ナトリウム(発色剤、漂白剤)、ソルビン酸カリウム(保存料)、およびそれらの組み合わせについて検討しています。しかし、今回はソルビン酸についてのお話ですので、ソルビン酸カリウムの結果のみを示しておきますが、ソルビン酸カリウムは明らかに善玉菌のビフィズス菌やバクテロイデス菌(ヤセ菌)に感受性が強く、ソルビン酸を摂取するとソルビン酸濃度が高まるにしたがって善玉菌から順番に死滅していくことが分かります。つまり、藤田先生はこのことを言いたかったのではないでしょうか?

図2. ソルビン酸カリウムの腸内細菌に対する影響
図2. ソルビン酸カリウムの腸内細菌に対する影響

ソルビン酸は、ナナカマドの果実に存在しており、保存料として利用される食品添加物の1つなのですが、ソルビン酸の抗菌作用は、細菌・真菌の細胞膜を通過し、細胞内のpHを低下させることにより発揮されるものです。この抗菌機序から、一般的に、ソルビン酸は酸性条件下で強い抗菌作用を発揮します。しかし、ソルビン酸は水溶性が低いために思った抗菌活性が得られず、その代わりとしてソルビン酸カリウムが用いられているのが現状なのです。

そこで、当社ではαオリゴ糖を用いることでソルビン酸の溶解性を高め、ソルビン酸の抗菌活性を高めることに成功しています。この検討は、2016年に開催された第33回シクロデキストリンシンポジウムで発表しています。このようにαオリゴ糖を用いると保存料として使用するソルビン酸量を減らすことが可能となり、ソルビン酸カリウムの代わりにソルビン酸αオリゴ糖包接体を用いることで腸内環境を健全に保つことが示唆されています。

図3.