腸内でαオリゴ糖から作られる短鎖脂肪酸の酪酸が善玉菌を増やす理由
2019年に行われた第36回シクロデキストリンシンポジウムにおいて当社の研究発表の中に『α-シクロデキストリン摂取による盲腸内の各種短鎖脂肪酸の増加』という演題の発表があります。この研究は短鎖脂肪酸量を増加させビフィズス菌を増加させることで知られる乳果オリゴ糖(日本栄養・食糧学会誌, 45:109-115(1992))を比較対照としてαオリゴ糖摂取による腸内細菌叢や盲腸内SCFAs量への影響を明らかにすることが目的です。この研究によって、乳果オリゴ糖よりもαオリゴ糖の方が各種短鎖脂肪酸は増加し、善玉菌も増加することが明らかとしています。
そこで、ここではその短鎖脂肪酸の中でもαオリゴ糖の摂取によって特に顕著な増加が確認された酪酸について腸内での作用を解説します。
まず、腸内細菌の中の通性嫌気性細菌と偏性嫌気性細菌の違いについての説明です。
これらの細菌の大きな違いは酸素を必要とする程度の差です。善玉菌のビフィズス菌や酪酸菌は生育に酸素を必要としない細菌で偏性嫌気性細菌です。また、日和見菌でヤセ菌とも呼ばれて動脈硬化予防などに最近注目されているバクテロイデス菌も偏性嫌気性細菌です。その一方で、悪玉菌のブドウ球菌や大腸菌は酸素があっても生育できる通性嫌気性細菌です。また、乳酸菌も通性嫌気性細菌です。
酪酸は大腸の上皮細胞のエネルギー源であり、代謝を促して酸素を消費しますので、血管から腸管内に酸素は通過できない状態になります。その結果、酸素が苦手である善玉菌の偏性嫌気性細菌であるビフィズス菌や酪酸菌、バクテロイデス菌は活動しやすくなります。
つまり、酪酸が増えるとこれらの善玉菌は増殖できて、腸内環境は改善されることが明らかとなっているのです。逆に、慢性的な炎症の起こるクローン病や潰瘍性大腸炎などの疾患患者の消化管を調べると、酪酸の産生量が低下していて、これらの善玉菌が減少していることも報告されています。
腸内で食物繊維から作られた同じ短鎖脂肪酸の酢酸やプロピオン酸は体内に吸収されやすいのですが、このように酪酸は大腸の上皮細胞が正常な働きをするためのエネルギー源として利用されています。大腸の上皮細胞はエネルギーの60%~80%を酪酸から得ていて、大腸の恒常性を保っています。
科学の進歩に伴って腸内環境の研究が進む中、酪酸の働きが注目されていて、酪酸が腸内に増加すれば、この『今、注目していること』で紹介したリーキーガットの問題も解決してくれるのです。そして、酪酸のリーキーガットの修復作用によってアレルギー疾患の予防治癒効果、ウイルス感染症、さらには、糖尿病やガンの予防にもなるわけです。健康維持に対して、腸内の酪酸を増やすことの重要さが分かってきています。
そこで、シクロデキストリンシンポジウムで発表された酪酸産生に対するαオリゴ糖と乳果オリゴ糖との比較データを示しておきます。αオリゴ糖のチカラを理解していただけると思います。
また、αオリゴ糖だけでなく食物繊維のペクチンを多く含むフルーツの王様であるキウイフルーツも腸内の酪酸産生に有効であることを以下の記事で紹介していますのでこちらもご参照ください。
フルーツの王様と呼ばれるキウイフルーツとは