運動と腸管バリア機能障害、リーキーガットの関係について|株式会社シクロケムバイオ
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2020.12.24 掲載

運動と腸管バリア機能障害、リーキーガットの関係について

腸は、栄養の吸収のみならず、腸内細菌叢によって免疫細胞を活性化し、病原菌から身体を守るなど様々な役割を担っています。最近では、リポ多糖(LPS)などの細菌成分が体循環に移行するのを防ぐ腸管バリア機能にも関心が高まっています。

腸管バリアは緊密に接着結合された上皮細胞で構成されていてLPSの移行を防いでいます。しかし、腸内細菌のバランスが崩れたときには、腸管バリア機能が低下してリーキーガット状態となり、腸内細菌やLPSが体内に入ることによって炎症反応が生じます。

このような腸管バリア機能の障害であるリーキーガットはクローン病、潰瘍性大腸炎、結腸直腸癌などの胃腸の疾患や2型糖尿病、非アルコール性脂肪性肝疾患、心血管疾患などの代謝性疾患などの慢性炎症に関連しています。

運動は、2型糖尿病、肥満、結腸癌などの腸管バリア機能障害が関与する慢性疾患のリスクを低下させることから推奨されています。そこで、今回は一過性の運動を行った際と持続的な運動を行った際の腸管バリア機能の変化についての2つの報告を紹介します。

その1つ目はアイオワ大学のグループの一過性の運動が腸の透過性に及ぼす影響に関する2020年の報告です。

まず、腸の透過性の評価法を説明します。二糖類のラクツロースと単糖類のラムノースを摂取して、それらの吸収量の比を調べる方法です。ラクツロースとラムノースは、ヒトの生体内に存在していなく、酵素分解も受けない糖であり、ラクツロースは、ほとんど腸管から吸収されず、細胞と細胞の間、つまり、傍細胞経路から吸収されます。腸管の粘膜に障害があればその吸収量は増加します。一方、ラムノースは、細胞内、つまり、経細胞経路を通って吸収されます。腸管の粘膜に障害があれば、その吸収量は減少します。したがって、ラクツロース(L)とラムノース(R)の比、L/R比を調べれば腸の透過性を知ることが出来ることになり、ヒトの腸透過性を測定する際に、一般的に使用されている方法です。

図1. 膜透過性の指標:ラクツロース/ラムノース(L/R)比
図1. 膜透過性の指標:ラクツロース/ラムノース(L/R)比

仰臥位で休憩した安静時と比較して、サイクリング時にはラクツロースの吸収量の増加が確認されました(**P < 0.001)。

図2. 運動時の血漿中L/R比の変化
図2. 運動時の血漿中L/R比の変化

また、ランニングを40、60、80% Peak VO2で60分間実施した後に、尿中L/R比を測定しています。尚、このPeak VO2とは最大酸素摂取量のことで、体の中で使える酸素の最大量を表した数値です。数値が高いほど体力(持久力)が高く、強い負荷に耐えることができることを示しています。

その結果、80% Peak VO2において、安静時と比較して腸の透過性が顕著に亢進することが明らかとなっています(*P < 0.05)。このように一過性の運動をすると腸管バリア機能は低下する可能性があります。

図3. 80%最大酸素摂取量における腸透過性の亢進
図3. 80%最大酸素摂取量における腸透過性の亢進

その一方で、持続的に体を動かしている女性とほとんど体を動かさない女性の腸内細菌の違いを調べ、運動をしている人の方が高い腸管バリア機能を有していることを示したスペインのヨーロピアン大学の研究報告があります。

体を動かしている女性と動かしていない女性のビフィズス菌に違いはなかったのですが、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツイ、ローズブリア・ホミニス、アッカーマンシア・ムシニフィラに顕著な(有意な)違いがありました。フィーカリバクテリウム・プラウスニッツイとローズブリア・ホミニスは酪酸を産生する腸内細菌であり、アッカーマンシア・ムシニフィラの低値は、炎症性腸疾患(IBD)患者の代謝障害(肥満、メタボリックシンドローム、2型糖尿病)に関与しており、アスリート等の腸内には豊富に存在していることが知られています。

図4. 体を動かしている女性と動かしていない女性の腸内細菌の違い
図4. 体を動かしている女性と動かしていない女性の腸内細菌の違い

このように持続的な運動をすると腸内細菌のアッカーマンシア・ムシニフィラが増加し、ムチン分泌量が増加して、制御性T(Treg)細胞によるタイトジャンクションの修復でリーキーガットを改善する可能性があることが示されています。

これら2つの報告を総括すると、一過性の運動は腸管バリア機能を低下させ、持続的な運動は腸管バリア機能を改善する、つまり、毎日の運動が体に良いことになります。