腎臓のろ過障害を起こす原因:血液中の糖化蛋白と不溶物質とは|株式会社シクロケムバイオ
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2014.12.01 掲載

腎臓のろ過障害を起こす原因:血液中の糖化蛋白と不溶物質とは

先ずは、腎臓の血液のろ過機能について…

腎臓の血液のろ過は、毛細血管からなる糸球体によって行われているのですが、この糸球体は左右の腎臓に約100万個ずつ存在しています。糸球体とは、多くの小さな穴があいた毛細血管で、微小の塊となったもので、血液に含まれる水分はこの毛細血管からその周辺部に位置する尿細管に漏れ出すようになっていて尿が作られているのです。

死にいたる可能性のある恐ろしいネフローゼ症候群…

尿中に大量のタンパクが出て、体内のタンパクが減ることにより体にさまざまな不具合が生じる状態をネフローゼ症候群といいます。腎臓が正常であると、糸球体のろ過機能によって水分と小さな分子のみが尿細管に移動し、アルブミンなどのタンパクや血液細胞が漏れ出すことはありません。タンパクが尿に漏れ出す腎機能障害には糸球体が炎症を起こした糸球体腎炎(腎炎症候群)と糸球体の毛細血管損傷を受けるネフローゼ症候群があります。いずれの場合も糸球体が損傷を受け、その傷ついた糸球体の細胞が蓄積すると、毛細血管は圧迫され、血液のろ過が妨げられて、結果、腎機能は低下していきます。糖化タンパクや薬剤が原因の腎障害として特に注意が必要なネフローゼ症候群は重症化すると糸球体が線維化して腎不全へと発展し、死に至ることもあるのです。

では、どのような物質が糸球体損傷の原因となるのでしょうか…

図. 糸球体損傷を引き起こす可能性のある食事成分から形成する血液中の不溶性物質と粘性を上昇させる物質
図. 糸球体損傷を引き起こす可能性のある食事成分から形成する血液中の不溶性物質と粘性を上昇させる物質

大きく関与している原因の1つに血管内の糖化タンパク(AGE)の増加があります。糖尿病状態では、体内のタンパクが過剰なブドウ糖による非酵素的な非選択糖化反応によってAGEが生成します。(難しい表現ですが、つまりは、タンパクにブドウ糖が見境なく、くっ付いたものをAGEといいます。)AGEが増えると糸球体は硬化(糸球体硬化症といいます)、損傷していきます。その結果、腎機能は低下することになります。

もう1つの原因、それは、血管内に進入した水溶性異物の不溶性物質への変化…

脂溶性物質(脂質)とタンパクによる非酵素的非選択的な反応による不溶性の血液の粘性を上昇させる物質の形成、そして、糖質と脂質による不溶性物質の形成が腎機能障害の糸球体損傷の原因となっていると考えられます。(図の赤色丸点線内)

以下に、それぞれの例を挙げます…

最近、腎機能障害をもたらすと考えられている脂質と蛋白質の非酵素的な反応で生成する不溶性物質が確認されました。糖の代謝を促進してエネルギー産生を補助する機能性物質として知られるαリポ酸と血液中のアルブミンの反応生成物です。生体内のαリポ酸は、光学活性体のR体が糖の代謝に関与しているのですが、サプリメントで知られるαリポ酸は天然のR体とその鏡像異性体(鏡にうつしたもう一方の非天然体)のS体が50%ずつから成っています。(ラセミ体といいます。)その非天然のS体は、もともと体に存在しないのですが、血液中に入るとアルブミンと不溶性物質を形成することが判明しました。αリポ酸のラセミ体を摂取すると腎機能に障害がでることは既に知られていましたが、このS体が原因だったようです。

もう1つの腎機能障害をもたらす物質、糖質と脂質の複合体の例を紹介します。血液内に存在するコレステロールの糖質であるβ-シクロデキストリン(以下、CD)による包接複合体です。グルコースの数がそれぞれ6個、7個、8個で環状になったオリゴ糖(CD)をα、β、γ-CDと呼んでいます。その中で、γ-CDは腸管内で消化酵素のアミラーゼによって分解されるので生体内に入ることはありません。α-CDとβ-CDは難消化性のデキストリンです。しかし、α-CDは腸管内で胆汁成分であるレシチンと包接複合体を形成しますので生体内に入ることはありません。一方、β-CDは僅かですが生体内に入ってしまいます。そして、β-CDは血液中でコレステロールと出会うと不溶性の包接複合体を形成してしまうのです。これが、大量にβ-CDを摂取した時に発症するネフローゼの原因であり、イヌを使った動物実験で実証されているのです。

日本ではαリポ酸ラセミ体は食品機能性素材として認められており、β-CDも食品添加物として認められていますが、そのような物質の大量摂取は腎機能障害を起こす危険性のあることを知っておきましょう。そして、αリポ酸を摂取する際にはR体を、そして、CDを食品添加物として利用したいときにはβ-CDではなくα-CD、あるいは、γ-CDを選択するようにしましょう。