高吸収クルクミン製剤の新型コロナ感染患者への効果|株式会社シクロケムバイオ
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研究情報
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2021.02.25 掲載

高吸収クルクミン製剤の新型コロナ感染患者への効果

クルクミンはウコンに含まれるポリフェノールの一種であり、古代インド医学(アーユルヴェーダ)で使用されたアジアの国々の伝統的な治療薬としても知られています。その効能効果は飲酒前に悪酔いや二日酔いを防止する目的で飲む肝機能向上作用のみならず、美肌効果やスポーツパフォーマンス向上作用など多くの効能を有することから、これまでに何度となく取り上げてきました。

図1. クルクミンの様々な効能効果
図1. クルクミンの様々な効能効果

今回は高吸収クルクミン製剤(シナクルクミン)を摂取すると新型コロナ感染の重症患者の臨床試験を行い、死亡率が大きく低下するという結果が得られたという‟驚くべき“イランで行われた検討結果を紹介します。この“驚くべき”というのは、死亡率が低下した結果もそうですが、クルクミンを摂取した重症患者群とプラセボ群に分けて、その死亡率を比較する試験そのものに対する“驚くべき”ことでもあります。

この研究報告ではシナクルクミンという高吸収クルクミン製剤が用いられたのですが、クルクミンは本来、脂溶性物質であることから体内吸収率が低いことが問題の成分でもあります。そこで、クルクミンの生体利用率を高めるために、様々な高吸収クルクミン製剤が開発されています。そこで、まず、世界的にも良く知られている5つの製剤の吸収性について学術論文3報から比較してみます。なぜ、この比較ができたかというと、幸いにも、いずれの学術論文にも高吸収クルクミン製剤であるメリーバが比較対象に用いられているからです。

それぞれ5つの高吸収性クルクミン製剤の特徴を示しておきます。まず、メリーバはクルクミンと大豆レシチンを1:2の重量比に調整し、流動性向上のためにMCCを添加したものです。製剤のクルクミン含量は20%です。次に、BCM-95はクルクミノイド類とターメリックから抽出した揮発性精油を一定の割合で配合したもので、精油成分にはar-tumerone、α-tumerone、β-tumeroneといったものが含まれています。メリーバBCM-95も一般の製剤と吸収性をAUCで比較すると、約10倍高いことが分かっています。尚、AUCとはArea Under the Curveの略で、今回のAUCはクルクミンを摂取した後の血漿中クルクミンレベルをグラフ化し、グラフの曲線より下の部分の面積のことをいいます。

図2. メリーバとBCM-95の吸収性(AUCの比較)
図2. メリーバとBCM-95の吸収性(AUCの比較)

残りの3つの高吸収クルクミン製剤であるセラクルミンシナクルクミンカバクルミンはそれぞれ学術論文があり、メリーバを比較対象としていますので、同じ条件で比較したものではないので正確性には少し欠けますが、3つの製剤の比較が可能となっています。

セラクルミンは、クルクミンにデキストリン55%、マルトース30%、ガティガム3.2%、クエン酸0.3%を加え製剤化したものです。クルクミンの含有量は13%です。通常のクルクミンに比べ、水分散性が高く、耐光性、耐熱性に優れているのが特徴です。尚、ガティガムは粘度の高い多糖で乳化剤として利用されているものです。

シナクルクミンは平均粒子径10nmのナノミセル化されたクルクミンのソフトゲルです。胃の酸性条件下では完全に溶解し、ナノミセルが放出され、この条件下では6時間までは安定であり、ナノミセルは腸に運ばれ、腸内で胆汁酸により吸収されるのが特徴です。

カバクルミンはγオリゴ糖包接体であり、これまでに何度となく紹介しておりますので、その詳細は省きます。

3つの学術論文は何れもメリーバと比較していますので、AUCからこれら3種の製剤を摂取した後の血漿中クルクミンレベルについてそのイメージを作成しました。

図3. 各種吸収型クルクミン製剤の吸収性比較の曲線グラフイメージ(3つの学術論文のメリーバの吸収性をベースに算出)
図3. 各種吸収型クルクミン製剤の吸収性比較の曲線グラフイメージ
(3つの学術論文のメリーバの吸収性をベースに算出)

さらに、分かりやすくするために棒グラフで示しました。

図4. 各種吸収型クルクミン製剤の吸収性比較の棒グラフイメージ(3つの学術論文のメリーバの吸収性をベースに算出)
図4. 各種吸収型クルクミン製剤の吸収性比較の棒グラフイメージ
(3つの学術論文のメリーバの吸収性をベースに算出)

このように3つのクルクミンの吸収性に関する学術論文からγオリゴ糖包接体のカバクルミンが最も高い吸収性を有する製剤であることが分かりました。

では、今回の論文の紹介です。2020年にJ. Cell. Physiol.2020;p1-14に報告された論文です。

ヘルパーT細胞の Th17細胞は、炎症性サイトカインの分泌を介して炎症性疾患や自己免疫疾患の発症に関与する重要な免疫細胞と考えられています。軽度と重度の新型コロナウイルス感染者が高吸収クルクミン製剤であるシナクルクミンを摂取した際のこのTh17細胞に対する効果、さらには死亡率の低下について検討し、シナクルクミンの有効性を確認しています。尚、この結果より、シナクルクミンよりも吸収性の高いセラクルミンカバクルミンにも同様の効果が期待できると考えられます。

まず、なぜクルクミンが新型コロナウイルス(COVID-19)感染対策に有効であるか、の仮説があります。クルクミンはコロナウイルスがヒトの細胞に侵入することを防御するだけではなく、侵入した際の増殖を抑制する作用もあることが示唆されているようです。

図5. COVID-19に対するクルクミンの有効性の仮説
図5. COVID-19に対するクルクミンの有効性の仮説

では、試験デザインです。被験者は感染症病棟に入院した軽度のCOVID-19患者が40名と、人工呼吸器を必要とせずに集中治療室(ICU)に入院した重度のCOVID-19患者が40名でした。それぞれ40名を、シナクルクミン群20名とプラセボ群20名に分け、シナクルクミン投与群は80mgカプセルを、1日2回(12時間ごと)、3週間服用しました。一方、プラセボ群はプラセボカプセルを、1日2回(12時間ごと)、3週間投与しました。そして、各カプセルの投与前後で採血し、PCR、ELISA、ヘルパーT細胞17(Th17)およびその関連因子の測定を行っています。

ここでは、論文に示されている結果の中でも最も注目したいTh17細胞の変化と死亡率と退院率に関して紹介します。

炎症性疾患や自己免疫疾患の発症に関与するTh17細胞は、シナクルクミン投与群で、軽度、重度共に服用後に顕著に低下することが明らかとなりました。また、シナクルクミン投与群とプラセボ投与群を比較しても、軽度、重度共に、 シナクルクミン投与群の方が顕著に低下することが分かりました。その一方で、プラセボ投与群では、服用前後で有意差はありませんでした。

図6. 個々の患者におけるカプセル服用前後でのTh17細胞数の変化
図6. 個々の患者におけるカプセル服用前後でのTh17細胞数の変化

また、死亡率において、プラセボ投与群は、 シナクルクミン投与群と比較して軽症、重症患者ともに、死亡率が顕著に高いことが示されました(P < 0.0001)。さらに、退院率においてもシナクルクミン投与群は、プラセボ投与群と比較して軽症、重症患者ともに、退院率が顕著に高いことが示されています(P < 0.0001)。

表1. COVID-19感染患者のシナクルミン服用による死亡率と退院率の低減

死亡率

軽度の感染患者 重度の感染患者
シナクルクミン投与群 プラセボ投与群 シナクルクミン投与群 プラセボ投与群
0% 5% 5% 25%

退院率

軽度の感染患者 重度の感染患者
シナクルクミン投与群 プラセボ投与群 シナクルクミン投与群 プラセボ投与群
100% 70% 80% 45%

このように高吸収クルクミン製剤であるシナクルクミンを用いて、クルクミンは、Th17細胞応答をダウンレギュレートして、炎症を改善、COVID-19患者の治療を促すのに有用な免疫調節剤であることが示唆されました。また、日本ではなくイランだからできたのか、ヒト臨床試験において、コロナ感染患者の死亡率と退院率はクルクミンを摂取することによって低下させることが出来るという驚くべき結果も得られています。

高吸収クルクミン製剤は、患者の治療に効果的に貢献し、世界的なウイルスパンデミックをコントロールできる可能性があります。