HMBとR-αリポ酸の組合せによる筋肉強化|株式会社シクロケムバイオ
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2021.07.26 掲載

HMBとR-αリポ酸の組合せによる筋肉強化

2021年6月に発売された『最新科学で証明された超効率的に筋肉をつける最高の食事術』(宝島社)の本では150ページにアスリートのための栄養素として「筋肉の合成を助けるHMBとは?」というタイトルでパーソナル化サプリのトッピング栄養素の一つとしてHMBを取り上げています。

アスリートや筋トレを行う人の間で話題となっているHMBとは3-ヒドロキシイソ吉草酸の略称で分岐鎖アミノ酸のロイシンから変換された物質です。HMBは筋肉の合成を助ける働きと筋肉の分解を抑制する働きがあり、体内に吸収されたロイシンの約5%がHMBに変換されています。

筋肉はmTORと呼ばれるシグナル伝達経路に働きかけることで合成されます。筋肉を使った時に発生する乳酸が筋肉に蓄積されると疲労を感じるようになります。すると、mTORが破損した筋肉を修復しようと反応し、筋タンパク質の合成が促進されます。HMBはmTORに働きかけ筋肉合成を促進します。

一方、私たちの体にはユビキチンプロテアソームシステムという古くなり不要になったタンパク質を分解・排出させる回路があります。このシステムにより、筋トレで発達した筋肉の必要性が低いと判断されると、この回路で分解され、筋肉量は減少します。HMBはこのシステムをブロックして筋肉減少を抑える働きをします。

HMBは、この二つの働きで筋肉を強化する物質なのです。

図1. 筋肉の合成を助けるHMB
図1. 筋肉の合成を助けるHMB

HMBのように筋肉強化の働きを持つ物質を摂取することは、アスリートや筋トレを行っているボディビルダーだけではなく、筋肉が衰え(サルコペニア)、運動器が衰え(ロコモ)、さらには、心身が衰えて(フレイル)介護が必要になるような可能性のある高齢者にとっても大変重要です。

ここでは、サルコペニアを防ぐ方法としてHMBと同様に筋肉の損傷・消耗を減衰させる効果も知られているR-αリポ酸とHMBの併用効果を検証した論文を紹介します。

Effects of the Combination of β-Hydroxy-β-Methyl Butyrate and R(+)Lipoic Acid in a Cellular Model of Sarcopenia(サルコペニア細胞モデルにおけるβ-ヒドロキシ-β-メチルブチレート(HMB)とR-リポ酸の併用効果)
L. Di Cesare Mannelli et al., Molecules 2020,25,2117; doi: 10.3390/molecules25092117

まず、この研究で使用した細胞について簡単に説明しておきます。マウスの骨格筋由来の筋芽細胞株でC2C12筋芽細胞を用いています。この筋芽細胞とはどういうもので、筋肉はどのようにしてできるのでしょうか?

筋肉の分化過程では、未分化な単核細胞である筋芽細胞が融合して、多核細胞である筋管細胞に分化します。この時にミオシンという筋原繊維の主要タンパク質が作られます。さらに、成熟した筋管細胞から収縮能を持つ筋繊維が形成され、筋肉は完成します。

図2. 筋芽細胞から筋繊維の生成
図2. 筋芽細胞から筋繊維の生成

C2C12筋芽細胞を37℃で増殖培養した後、ステロイド系抗炎症薬の一つであるデキサメタゾン(DEX)を1μM濃度になるように加え、48時間インキュベーションすると細胞生存率は50%以下に低下することを確認しています。そこで、DEXを1μM濃度で処理した筋芽細胞をDEX誘導による筋委縮したサルコペニア細胞モデルをHMBとR-αリポ酸の効果の検証に使用しています。尚、DEXは炎症の原因に関係なく炎症反応・免疫反応を抑制するのですが、副作用として、長期使用時には筋力低下が発生する薬です。

DEXを1μM濃度になるように加えたC2C12筋芽細胞(サルコペニア細胞モデル)にR-αリポ酸を100mM濃度になるように加えるとDEXによる細胞損傷を防ぎ、細胞生存率は増加しました。また、HMBを1mM濃度になるように加えた場合も同様に細胞死が抑制されました。さらに、R-αリポ酸(100μM)とHMB(1mM)の併用で細胞生存率の完全な回復が観察され、相乗効果が示唆されています。

図3. C2C12筋芽細胞の生存率
図3. C2C12筋芽細胞の生存率

C2C12筋芽細胞へのDEX処理は、酸化的損傷を引き起こし、活性酸素(ROS)のスーパーオキシドアニオン(O2-)レベルを濃度依存的に増加させましたが、R-αリポ酸(100μM)とHMB(1mM)の併用で、DEXによって促進される活性酸素の増加を有意に抑制しました。

図4. C2C12筋芽細胞の酸化ストレス
図4. C2C12筋芽細胞の酸化ストレス

筋芽細胞から、多核細胞であるC2C12筋管細胞の完全な成熟は、7日間の分化後に観察されました。そのC2C12筋管細胞をDEX処理するとタンパク質の酸化ストレスマーカーであるカルボニル化タンパク質の発現はコントロールに比べて2倍増加すること、つまり、筋管細胞がDEXによって酸化的損傷を受けることを確認しました。

この筋管細胞のDEXによる酸化的損傷に対して、R-αリポ酸(100μM)とHMB(1mM)を併用するとタンパク質の酸化によるカルボニル化タンパク質の生成は完全に防止できることがわかりました。

図5. C2C12筋芽細胞のカルボニル化タンパク質
図5. C2C12筋芽細胞のカルボニル化タンパク質

このように筋肉を強化してサルコペニアを防ぐためにはロイシンの代謝物質であるHMBとR-αリポ酸の組合せによる相乗的な効果が期待できる結果が得られています。