第94回 α-シクロデキストリン摂取による腸管バリア・免疫機能の向上
概要
腸内細菌が食物繊維や難消化性オリゴ糖を分解した際に産生される短鎖脂肪酸(SCFAs)は宿主に様々な健康増進効果をもたらすことが明らかにされています(図1)1)。
ヒト腸内では様々な種類の細菌が生息しており、それらの細菌から腸管組織を保護するためにヒトの腸内にはその防御機構が備わっています。その中で、ムチンは粘性糖タンパク質の一つで、腸管上皮にある粘膜層の主要成分であり、腸管バリア機能を担っています。また、IgAは腸管内に分泌される抗体で、腸管免疫として、病原菌と直接戦うだけでなく、腸内細菌の構成を調節も行う重要な成分です。そしてこれらムチンやIgAの産生にSCFAsが関わっていることが知られています。
α-シクロデキストリン(α-CD)は難消化性かつ腸内細菌のエサとなる性質を持っています。実際に、当社ではこれまでにラットやマウスにおいて、α-CDの摂取が腸内細菌層を改善し、盲腸内のSCFAs量を増加させることを報告しています。(詳しくは、当社ホームページの研究成果「第85回」および「第92回」を参照して下さい。)
本研究ではα-CD摂取による腸管免疫の増強を目的として、無繊維食と供にα-CDを摂取させたラットにおける腸管内のムチンやIgA量について、ラクトスクロース(LS)2)を比較対照として検討を行いました。
実験
4週齢の雄性SDラットを無繊維食(NF)群、5.5%α‐CD(α-CD)群、5.5%ラクトスクロース(LS)群、3群に分け、8週間飼育した。飼育終了後、イソフルラン麻酔下で解剖を行い、盲腸内容物を採取した。採取した盲腸内容物100mgに1mlのエリックス水を加え攪拌した後、遠心分離して上清中のIgAをRat IgA ELISA Kit(Bethyl Laboratories, Inc)を用いて測定した。また盲腸内容物中のムチン量はFecal Mucin assay kit(コスモバイオ)を用いて測定した。
結果と考察
盲腸内容物中のムチン量はNF群で0.55mgであったのに対し、α-CD群では2.29mg、LS群は0.73mgであり(図2)、腸管バリア機能の向上においてα-CDの摂取は無繊維食もしくはラクトスクロースの摂取と比較して高い効果を示すことが示唆された。また盲腸内容物中のIgAはNF群で11.6μgであったのに対し、α-CD群では29.0μg、LS群は29.5μgであったことから(図3)、腸管免疫の向上においてもα-CDの摂取が効果的であることが示唆された。
まとめ
本研究から、α-CDの摂取により腸管バリアおよび免疫機能の向上が期待されます。加えてこれまでにもα-CDの摂取によるSCFAsの産生を介した肥満予防効果3)や骨強度の向上などが知られていることから※、α-CDは新たな健康食品の開発において非常に有用な素材であることが示されました。
(※詳しくは、当社ホームページの研究成果「第85回」および「第92回」を参照して下さい。)
参考文献
1) Koh A., et al., Cell, 165:1332-1345 (2016).
2) Hino K., et al., J. Appl. Glycosci, 54:169-172 (2007).
3) Nihei N., et al., BioFactors, 44:336-347 (2018).