第102回 α-シクロデキストリンによる食品由来成分の腸管傷害に対する保護作用① ~合成乳化剤~|株式会社シクロケムバイオ
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研究成果

第102回 α-シクロデキストリンによる食品由来成分の腸管傷害に対する保護作用① ~合成乳化剤~

概要

合成乳化剤はその乳化作用の強さから、食品の保存性の向上や、パンの品質向上などを目的として、多くの加工食品に利用されています。しかし、一部の合成乳化剤は消化酵素によって分解されにくく、消化管内に長く滞在し、その乳化作用によって腸管バリアを破壊して、腸管膜の透過性を亢進させることが報告されています1), 2)
α-CDは、脂肪酸を選択的に包接する性質を有するため(詳しくは、当社ホームページの最新研究成果「第40回」を参照してください)、合成乳化剤の脂肪酸部位を包接することで、乳化作用を低減し、合成乳化剤による腸管バリアの破壊を抑える効果が期待されます。
そこで、合成乳化剤のひとつであるスクロース脂肪酸エステル(SE、図1)が引き起こす細胞傷害性に対して、α-CDによる抑制効果について検討を行いました。

図1. スクロースパルミチン酸モノエステルの構造
図1. スクロースパルミチン酸モノエステルの構造

実験

腸管膜細胞モデルとして広く利用されている、ヒト結腸癌由来のCaco-2細胞を用いて検討を行った。SEとα-CDをCaco-2細胞に1時間処置し、細胞傷害性を評価した。また、SEとα-CDをCaco-2細胞単層膜に2時間処置し、膜抵抗値を用いて膜透過性を評価した。さらに、α-CD以外の水溶性食物繊維を用いて同様の検討を行った。

結果と考察

はじめに、SEの細胞傷害性とα-CDの添加効果を検討した結果、SEは処置濃度依存的に細胞傷害性を示した(図2 A)。さらに、α-CDは375μg/mL以上の濃度(SEに対して1.5倍量)で濃度依存的にSE(250μg/mL)の細胞傷害性を有意に抑制した(図2 B)。

図2. SEによる腸管膜細胞傷害性とα-CDの添加効果
図2. SEによる腸管膜細胞傷害性とα-CDの添加効果

次に、SEによる腸管膜細胞傷害性の抑制効果についてα-CDと他の水溶性食物繊維との比較検討を行った。水溶性食物繊維は、α-CDと等量を処置した。その結果、α-CD処置の場合のみSEの細胞傷害性を抑制した。このことから、α-CDによるSEの腸管膜細胞障害性の抑制のメカニズムとしてα-CDがSEを包接していることが示唆された。

図3. 細胞傷害性に対するα-CDの効果と他の水溶性食物繊維との比較
図3. 細胞傷害性に対するα-CDの効果と他の水溶性食物繊維との比較

最後に、Caco-2細胞単層膜を作成し、SE(62.5μg/mL)の細胞単層膜傷害に対するα-CDの効果を他の水溶性食物繊維と比較した。その結果、SEは処置時間依存的に膜抵抗値を低下させたことから、SEによる腸管膜の透過性の亢進が示唆された。また、α-CDは処置濃度依存的にSEの膜抵抗値の低下を改善したことから、α-CDはSEによる腸管膜の透過性の亢進を抑制できることが示唆された。さらに他の水溶性食物繊維の場合ではSEによる膜抵抗値の低下の改善は確認されなかった。

図4. 細胞単層膜傷害に対するα-CDの効果と他の水溶性食物繊維との比較
図4. 細胞単層膜傷害に対するα-CDの効果と他の水溶性食物繊維との比較

まとめ

合成乳化剤を含む食品は非常に身近であり、それらを配合しない食品を選ぶことは非常に難しいと思われます。本研究から、合成乳化剤を含む食品を摂取する際にはα-CDを同時に摂取することで、腸管膜保護作用が期待できます。
この他に、α-CD自体にも腸内バリア機能を向上させる効果があることが分かっており(詳しくは、当社ホームページの最新研究成果「第94回」を参照してください)、α-CDは食品由来の毒性成分から腸管を保護する素材として期待されています。

参考文献

1) Kiss L. et al., J. Pharm. Sci., 103 3107-3119 (2014).
2) 石束哲男ら、栄養と食糧 Vol.27 No.2 71-75 (1974).