脳機能改善のための栄養素について(8)CoQ10
脳機能改善に有効な栄養素として、これまでにDHAやEPAなどのn-3不飽和脂肪酸が、リン酸と結合したリン脂質を含有するクリルオイル、クルクミン、δトコトリエノール、R-αリポ酸、L-カルニチンを紹介してきました。これらの栄養素とともに脳機能改善のためには忘れてならない重要な栄養素があります。コエンザイムQ10(CoQ10)です。CoQ10は、アミロイドβが関与するアルツハイマー病にも神経変性疾患のパーキンソン病にもその予防効果が最近の研究から知られています。
先ずは、アルツハイマー病の予防効果に関する報告です。2011年にアルツハイマー病研究の専門学術誌に米国のグループの研究が報告されています。(Dumontら、J. Alzheimers Dis. 2011; 27(1): 211-223)
神経細胞で、アミロイド前駆体タンパク質(APP)からセクレターゼ(切断酵素)によってアミロイドβ(Aβ)が作られます。長い年月を経て、Aβは蓄積していきます。Aβ蓄積に先立って、酸化ストレスによるミトコンドリア異常が起こってきます。CoQ10は、ミトコンドリアに存在し、ATP産生のための補酵素として作用していますが、同時に、抗酸化による活性酸素の消去といった機能性も有しています。そこで、この研究では、アルツハイマー病に対する作用が調べられています。
アルツハイマー病のモデルマウス(Tg19959マウス)にCoQ10を投与したところ、脳内の酸化ストレスマーカー(タンパク質のカルボニル修飾)の抑制作用(図1参照)、脳内におけるAβ42(コラム参照)の低減作用(図2参照)が認められました。また、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の減少も確認されています。・・・・・・尚、(図1)と(図2)はかなり専門的になっていますので、専門でない方は、酸化ストレスが減って、Aβの蓄積も減って、アルツハイマー病の予防効果が示されたとご理解ください。
A | 6%SDS脳ホモゲネートのタンパク質カルボニルのウエスタンブロッティング法による酸化ストレスの評価 |
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B | 総カルボニル濃度の評価 the mean ± SEM for these ratios. *P = 0.0017, two-tailed t-test. N = 11 pairs were run. |
CoQ10による酸化ストレスマーカー(脳タンパク質カルボニル)の抑制作用
A | 免疫組織化学:脳梁膨大後部皮質と海馬における代表的な環状断面 |
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B~E | プラークによって占められる面積%(B, D)とプラーク数(C, E) 大脳皮質(B, C)、海馬(D, E) N = 12(雄6匹、雌6匹) *P < 0.05 by two-tailed unpaiered t-test |
CoQ10によるアミロイドβ42プラークの低減作用
さらには、CoQ10を投与したマウスを用いたMorris水迷路試験による評価において、認知機能の改善も認められています。この結果からも、CoQ10の抗酸化作用を介したアルツハイマー病の予防効果が示唆されました。
次の報告は神経科学専門誌に投稿された『パーキンソン病患者のCoQ10欠乏』に関するものです。(Mischleyら、J Neurol Sci. 2012 Jul 15; 318(1-2): 72-5)
神経変性疾患であるパーキンソン病の場合もアルツハイマー病と同様に、活性酸素による酸化ストレス障害の関与が示唆されており、抗酸化物質による疾患予防効果が注目され、抗酸化物質による臨床試験も試みられています。
この研究報告では、22名のパーキンソン病患者群と88名の対照群の2群で2004年から2008年にかけて内在性CoQ10値を他の抗酸化物質(グルタチオン、セレン、ビタミンE、αリポ酸)とともに調べています。
その解析の結果、(図3)に示すようにパーキンソン病患者群では対照群に比べてCoQ10が有意に低値(P = 0.003-0.009)であり、CoQ10の欠乏の割合がパーキンソン病患者群で対照群に比べ、有意に高値(P = 0.0012-0.006)であることが判明しました。その一方で、他の抗酸化物質については両群間に有意差は認められませんでした。(P > 0.05)
以上の結果から、パーキンソン病ではCoQ10欠乏が顕著であり、臨床研究においてもCoQ10のパーキンソン病患者への投与による予防改善効果が示されています。
コラム:アミロイドβ42(Aβ42)とは
通常多く見られるAβはアミノ酸が40個つながったAβ40。ところが、東大の岩坪教授らは、患者の脳にアミノ酸が42個つながったAβ42が蓄積しているのを発見しました。Aβ42は脳内で固まりやすく、タウタンパク質の蓄積を促しアルツハイマー病発症に重要な役割を果たしていたのでした。
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通常多く見られるAβはアミノ酸が40個つながったAβ40。ところが、東大の岩坪教授らは、患者の脳にアミノ酸が42個つながったAβ42が蓄積しているのを発見しました。Aβ42は脳内で固まりやすく、タウタンパク質の蓄積を促しアルツハイマー病発症に重要な役割を果たしていたのでした。