ヒトケミカルとヒトケミカルの組み合わせ(2) R-αリポ酸とL-カルニチンによる生活習慣病予防|株式会社シクロケムバイオ
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ヒトケミカルとヒトケミカルの組み合わせ(2) R-αリポ酸とL-カルニチンによる生活習慣病予防

このシリーズでは三大ヒトケミカルの組み合わせによる様々な機能の相乗作用に関する報告を紹介していきます。今回はL-カルニチン(LC)とR-αリポ酸(RALA)による脂質異常症や高血圧など生活習慣病に対する相乗作用です。

前回、LCが脂質代謝においてミトコンドリアへの脂肪酸の運搬に関与し、脂肪燃焼促進作用の他に疲労回復作用を有することを述べています。今回はそのLCの作用とRALAの抗酸化作用を組み合わせた効果の検証です。

抗酸化物質として良く知られている物質には、ビタミンCやビタミンEなどのビタミン類、アスタキサンチンやセサミンなどのフィトケミカル、そして、CoQ10、RALA、グルタチオンなど人の生体内で生合成されているものもあります。その中でも、RALAの抗酸化作用はビタミンEの数百倍という検討結果があります。ビタミンE以外の様々な抗酸化物質と比較してもその抗酸化能は傑出しています。また、生体内ですでに活性酸素を消去して酸化された(抗酸化能を失った)ビタミンCやE、CoQ10を再生させる能力も持っています。

また、ビタミンCやグルタチオンは水溶性抗酸化物質、ビタミンEやCoQ10は脂溶性抗酸化物質ですが、RALAは水溶性と脂溶性双方を持った両親媒性の抗酸化物質であることが他の抗酸化物質と異なる特長です。私達、ヒトのカラダは水と脂肪とタンパクから成り立っています。そして、細胞の内外は水で覆われ、細胞の内外の境である細胞膜は脂質で出来ています。よって、細胞内外はビタミンCやグルタチオン、細胞膜はビタミンEやCoQ10が存在して、それぞれ、抗酸化作用を発揮しています。RALAは水と脂肪の双方に溶解するので、私たちのカラダのあらゆる箇所で抗酸化作用を発揮しています。抗酸化物質の権威である南カリフォルニア大学のレスター・パッカー教授はRALAのことを万能抗酸化物質と言っています。

余談ですが、私は数年前、パッカー教授とお会いし、不安定なRALAがγ-CDで包接すると安定化して体内吸収性が高まるという私の研究を話したところ、画期的な発明だと絶賛してくれました。

では、LCとRALAによる過酸化脂質の減少と脂質代謝に関する相乗作用に関するカリフォルニア大学の2002年の研究報告を紹介します。

ちなみに、また余談ですが、この研究報告の著者の一人はブルース・エイムズといって簡単に物質の変異原性を評価するエイムズ試験の考案者で有名で、最近、私の友人のゲーハートと私と共同研究したいとのことで、ゲーハートが私を紹介した人です。今でも元気なのですが今年90歳となります。エイムズの最近の研究はミトコンドリアの老化を起す物質を同定する、特に、脳の老化におけるミトコンドリアの役割と栄養素摂取の効果の検討です。

では、この研究の内容です。若齢ラットと老齢ラットを用い、加齢に伴って脳細胞や肝細胞など様々な細胞のミトコンドリアの機能が衰えるところをLCとRALAを併用して投与すると改善されることがこの研究によって明らかとした論文です。

ご存知のようにミトコンドリアはエネルギー生産工場とよく言われますが、このミトコンドリアの膜電位が高ければミトコンドリアへエネルギー源を輸送しやすくエネルギー産生(ATP合成)も進みやすくなります。図1に示しますように、老齢ラットは若齢ラットに比べこのミトコンドリア膜電位が50%も低い(a: P < 0.05)のですが、この老齢ラットにLCとRALAを併用して与えるとそのミトコンドリア膜電位は50%上昇する(b: P < 0.05)ことが判明しました。(図1)

図1. LCとRALAの併用投与によるミトコンドリア膜電位の変化
図1. LCとRALAの併用投与によるミトコンドリア膜電位の変化

マロンジアルデヒド(MDA)は脂質過酸化の評価にバイオマーカーとして利用されていますが、このMDAの GC-MS測定によって肝細胞における脂質過酸化物量を調べています。まず、老齢ラットは若齢ラットに比べて脂質過酸化物の蓄積量が多いことが分ります。(P < 0.05)LC投与群では老齢ラット、若齢ラット問わず脂質過酸化物の量は上昇するのですが、RALA単独、或いは、RALAとLCを併用投与した群では無投与群に比べ脂質過酸化物量が有意(P < 0.05)に減少することが確認されています。(図2)

図2. LCとRALAの併用投与による脂質過酸化物の低減作用
図2. LCとRALAの併用投与による脂質過酸化物の低減作用

また、この論文では、ラットの歩行活動も測定しています。LCとRALA投与群では、若齢ラットおよび老齢ラットの両方で歩行距離及び歩行時間の増加が確認できています。このことは、LCとRALAの併用投与が加齢に伴う酸化を改善するだけでなく、一般的な代謝に伴う生理活性の改善を引き起こすことを示しています。

以上のように、脂質代謝に関与するLCと高い抗酸化作用を持つRALAにより過酸化脂質の発生抑制が行なわれていて、LCとRALAが、高齢動物の加齢によるミトコンドリア機能と代謝機能の回復に相乗的に寄与することが判明しました。LDLを減らして糖尿病や癌などの生活習慣病を予防するためにもLCとRALAの併用摂取がお奨めです。