ミトコンドリアとヒトケミカル(1) ミトコンドリアはエネルギー生産工場
私たちの体は60兆個の細胞から成り立っています。細胞の中には遺伝情報を持つ核をはじめ、特定機能を持つ様々な小器官があります。その細胞内の小器官の中で、私たちの健康に大きく関わり、細胞を常に元気な状態で維持するために極めて重要な小器官にミトコンドリアがあります。そして、そのミトコンドリアを正常に保つために必要な成分がコエンザイムQ10、R-αリポ酸(市販のサプリメントに使用しているαリポ酸ではありません)、L-カルニチンなどのヒトケミカルなのです。つまり、言い換えれば、ヒトケミカルを細胞内に必要量維持することが私たちの体を元気で健康に保つ秘訣なのです。
具体的には、フィギュアスケートなどの激しいスポーツ競技では20歳を超えた段階で多くのトップアスリートが引退する中、スポーツパフォーマンスを維持し続ける、30歳を超えて肌のシワやシミが気になり始めた女性が多い中、10歳代から20歳代の美しい肌を保ち続ける、40歳代から50歳代の多くの中年男性が内臓脂肪蓄積によるメタボを気にする中、筋肉質でスリムな体を維持する、そして、60歳代から70歳代以上の多くの高齢者が筋肉や骨の衰えによるロコモや認知症によって介護を受けなければならない身体になっていく中、元気に健康な体でいられる、そのためには正常なミトコンドリアを保つ十分な量のヒトケミカルが必要なのです。
そこで、今回のシリーズ「ミトコンドリアとヒトケミカル」は、ミトコンドリアをできるだけ分かりやすく解説し、ヒトの健康維持に対するヒトケミカルの重要性を理解していただくのが目的です。
私たちが走る時、考える時、心臓を動かしている時、そして、寝ている時にも体内の細胞はエネルギーを消費しています。その殆どのエネルギーを作り出す細胞内にある生産工場がミトコンドリアです。
エネルギーにはいろんな形がありますが、ほとんどすべての地球上のエネルギーは太陽エネルギーから変換されたものです。たとえば、蒸気機関車の場合、太陽エネルギーから変化した石炭の化学エネルギーを熱エネルギーに変え、水を沸騰させ、蒸気で運動エネルギーを作り出しています。電気機関車は、電気エネルギーを運動エネルギーへ、電熱器は電気エネルギーを熱エネルギーへ、火力発電は化学エネルギーから熱エネルギーを経由して電気エネルギーへ、原子力発電は原子力エネルギーを電気エネルギーへ、電卓は太陽エネルギーを直接に電気エネルギーへ変換しています。
そして、ミトコンドリアにおいては、ATP合成反応である酸化的リン酸化反応(有機化学分野の知識なので専門でない方には少し難しいのですが……)によって三大栄養素である炭水化物や脂質、たんぱく質などを原料に電気エネルギーを経由して化学エネルギーへ変換されているのです。このエネルギー変換に必要な成分がヒトケミカルです。
炭水化物はブドウ糖の形で消化管から体内に吸収されますが、そのブドウ糖はミトコンドリアにおいて酸素との反応で二酸化炭素と水に変換されます。その際に1個のブドウ糖から生体のエネルギー通貨と呼ばれているATP(アデノシン三リン酸、Adenosine Triphoshate)が38個も作り出されます。
このブドウ糖が二酸化炭素に変換されるエネルギー産生の化学反応は酸化反応です。ブドウ糖という有機化学物質を酸化するためには還元される有機化学物質が必要となります。それがヒトケミカルである補酵素のR-αリポ酸とコエンザイムQ10なのです。つまり、このエネルギー産生反応によって、酸化型のR-αリポ酸は還元型のジヒドロR-αリポ酸に変換され、酸化型のコエンザイムQ10(ユビキノン)は還元型のコエンザイムQ10(ユビキノール)に変換されます。これがミトコンドリアにおいてヒトケミカルがエネルギー産生に必要な理由です。そして、このエネルギー産生反応によって大量の活性酸素が発生しますが、還元型に変換されたR-αリポ酸とコエンザイムQ10が抗酸化物質として働き、ミトコンドリア内で活性酸素を消去してくれるのです。したがって、原理的にはヒトケミカルのR-αリポ酸もコエンザイムQ10も還元型で摂取する必要はなく、酸化型でエネルギー産生作用と抗酸化作用を持ち合わせていることになります。
ミトコンドリアは60兆個のほぼすべての細胞の一つ一つが持っており、その各細胞には100個から3000個、平均で2000個のミトコンドリアが含まれていますので、人間は12万兆個のミトコンドリアを持っており、ミトコンドリア総量で体重の1割にもなります。つまり、60kgの成人は6kgのミトコンドリアを持っていることになります。
ミトコンドリアの名前はギリシャ語で糸を意味する「ミト」と粒子を意味する「コンドリア」に由来しています。平均的なミトコンドリアの直径は1μm以下で実際に糸状や粒状をしていて、細胞の中で頻繁に融合、分裂を繰り返しています。そして、エネルギーを必要とする細胞ほどミトコンドリアの数は多く、ヒトでは心筋細胞、骨格筋細胞、肝細胞、そして、脳の神経細胞などでその数は多いことが分かっています。