ミトコンドリアとヒトケミカル(2) シンギュラリティ:真核細胞の出現
ミトコンドリアは外膜と内膜の二枚の膜で覆われています。そして、その内膜にミトコンドリアの遺伝子情報を伝えるデオキシリボ核酸(DNA)が結合しています。私たちの遺伝子情報は細胞内の核に存在しているのですが、不思議にミトコンドリアはその核遺伝子とは別に独自のDNAを持っているのです。そして、そのDNA(mtDNA)の数はミトコンドリア一つ当たり、数10個も存在しています。
そのようにミトコンドリアは独自のDNAを持っていることから、太古の昔、細菌であったと考えられています。46億年前の地球において、酸素と糖を使ってエネルギーを作る好気性の細菌がいました。そのエネルギーを作る好気性細菌を別の細菌が飲み込んでしまったのです。その好気性細菌はもう一つの宿主細菌にエネルギーを与える代わりに安全な場所とエネルギー産生に必要な糖を提供してもらうこととなりました。このようにして飲み込まれた細菌はミトコンドリアとなって宿主細菌は真核生物に生まれ変わったのです。
真核細胞は、エネルギー生産工場であるミトコンドリアを手に入れたことで、その後、ヒトを含む複雑な生命体へと飛躍的に進化することになりました。
この真核生物が生まれた点は、明らかに生命体がヒトに進化するためのシンギュラリティ(技術的特異点)でした。尚、シンギュラリティという言葉は、今では、2045年に到達するといわれている人間の脳を超える人工知能(AI)についてよく使われていますが、このヒトが生まれることとなった真核細胞の出現点もシンギュラリティなのです。
ミトコンドリアを構成するほとんどのタンパク質は核内DNAで合成されています。ミトコンドリアの祖先の細菌が持っていたDNAは宿主細胞の核内に移動したと考えられています。DNAを宿主細胞に移動させた理由は活性酸素による障害のリスクを減らすためであったと考えられます。ミトコンドリアは核内DNAが作るタンパク質とmtDNAが作るタンパク質で複合体を形成すること(ATP合成酵素を作ること)でATPというエネルギーの産生のために働いているのです。
エネルギーを生産する仕組みは水力発電に似ています。ダムにためた水が流れ落ちるエネルギーを利用して水車(タービン)を回転させて発電するように、ミトコンドリアは、食物に由来するエネルギーで水素イオンをミトコンドリアの外側に運び出し、外側に水素イオンを貯めます。貯めた水素イオンがATP合成酵素の中を通ってミトコンドリア内部に流れる勢いで、ATP酵素内のタービンが回転し、ATPを作っています。
しかし、一方で、エネルギー生産工場であるミトコンドリアは、進入した宿主細胞の健康の鍵を握ることになりました。エネルギー生産の過程で必ず活性酸素が発生します。そして、この活性酸素がミトコンドリアから漏れると宿主細胞内の核遺伝子や他の小器官を形成しているタンパク質を損傷してしまいます。そこで、その損傷を防ぐ大事な役割を果たしているのがエネルギー産生反応の補酵素でもあり、ミトコンドリア内の抗酸化物質であるヒトケミカルのR-αリポ酸とコエンザイムQ10なのです。