ミトコンドリアとヒトケミカル(7) ヒトケミカルはミトコンドリア病治療薬|株式会社シクロケムバイオ
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ミトコンドリアとヒトケミカル(7) ヒトケミカルはミトコンドリア病治療薬

ミトコンドリアはヒトの生命活動に不可欠であることはこれまでの内容で良く分かっていただけたものと思います。ひとたびミトコンドリアの機能が低下すると、様々な病気となって私たちの生命活動を妨げます。このミトコンドリア機能低下に伴い、細胞におけるエネルギー生産が困難になってあらわれる病気は「ミトコンドリア病」と呼ばれています。

ミトコンドリア病は生体内におけるどの細胞でミトコンドリア機能が低下するかによって様々な症状としてあらわれます。たとえば、中枢神経細胞(わかりやすくいうと脳)の場合には記憶力や認知機能の低下といった症状があらわれ、骨格筋細胞であれば筋力低下や疲労しやすくなる症状があらわれます。そして、カラダの複数の部位で症状があらわれる場合と単一部位であらわれる場合がありますが、単一部位であらわれた場合はミトコンドリア病との診断は困難になります。ミトコンドリア病は、完治する治療法がいまだに見出されておらず、厚生労働省は難病に指定しています。

ミトコンドリア病の症状
ミトコンドリア病の症状

「活性酸素を多く排出するミトコンドリアをもつマウスは糖尿病やがんを誘発しやすい」との研究結果が2012年6月に筑波大学の林らのグループによって報告されました。そして、抗酸化物質を投与すると糖尿病やがんの発症が抑えられたそうです。このように、ヒトを対象とした臨床試験は行われていませんが、活性酸素による糖尿病やがんの発症は事前に抗酸化物質を摂取することで予防できる可能性が示唆されました。

糖尿病やがんなどの疾患だけでなく、最近では、アルツハイマー病やパーキンソン病といった認知症へのミトコンドリアの関与が明らかとなっています。厚生労働省の平成20年度の調べによりますと、日本には約24万人もの認知症患者がいます。

アルツハイマー病はアミロイドβというタンパク質の蓄積で脳内神経細胞が機能低下して発症するとされていますが、最近では、このアミロイドβがミトコンドリア機能を阻害し、ミトコンドリアから排出される活性酸素を増やし、アポトーシス(細胞死)を引き起こすという説が出てきています。すなわち、ミトコンドリアの活性酸素がアルツハイマー病を引き起こしていることになります。

また、パーキンソン病は脳の神経細胞の細胞死(アポトーシス)によって、手が震えたり、歩行が困難になる病気ですが、この病気も2008年にミトコンドリアとの関与が明らかとなっています。パーキンソン病はパーキンというタンパク質を作るための遺伝子に異常があると発生します。このパーキンに異常がある場合に機能低下したミトコンドリアをオートファジーによって除去できなくなるそうです。(オートファジーに関しては前章をご確認ください。)そうすると、エネルギー産生できない、活性酸素を大量に発生するといった機能低下したミトコンドリアが増加し、やがて細胞は機能を失っていくわけです。したがって、パーキンソン病は『ミトコンドリア除去不全症』ともいえます。

ミトコンドリアはエネルギー産生を担う細胞内の小器官です。当然、酸素を使ったエネルギー産生反応の過程では活性酸素は発生します。そして、発生源のミトコンドリアは活性酸素の攻撃を受けやすく、傷つきやすいわけです。実際にミトコンドリアDNAは核DNAよりも損傷している比率は高いとされています。しかし、その一方で、ミトコンドリアは一つの細胞に数百~数千個存在していますので、同じ細胞内でミトコンドリアは融合と分裂を繰り返し、ミトコンドリア内部のタンパク質やRNAを交換し、たとえ、DNAが傷ついてタンパク質が作られなくなっても、他のミトコンドリアで作られたタンパク質を利用できるのです。細胞内で数千個のミトコンドリアはお互い助け合って機能しています。

また、エネルギー産生で発生する活性酸素の攻撃をできる限り、防御するシステムも作られています。それがヒトケミカルの一つの大きな役割です。第一章でも説明しましたが、ミトコンドリア内においてヒトケミカルであるR-αリポ酸とコエンザイムQ10はエネルギー産生反応において補酵素として働いています。この反応は酸化反応ですので、いずれの補酵素も酸化型から還元型に変換されます。この還元型のR-αリポ酸とコエンザイムQ10は抗酸化物質として酸化反応の際に発生した活性酸素をミトコンドリア内で除去してくれる、つまり、酸素と水に変換してくれるのです。つまり、これらのヒトケミカルがヒトの生体内で十分に作られていれば、ミトコンドリアからの活性酸素の排出量は抑えられるわけです。

図1. ミトコンドリアにおけるヒトケミカルの役割
図1. ミトコンドリアにおけるヒトケミカルの役割

ミトコンドリア同士の連携やエネルギー産生と活性酸素除去を担うヒトケミカルといった活性酸素の攻撃から身を守るための防御システムは、46億年前にミトコンドリアを細胞内に取り入れた真核細胞が生まれ、ヒトを含む複雑な生命体へ進化する際に構築されたものと考えられます。(「(2)シンギュラリティ:真核細胞の出現」参照)

また、「(5)細胞の死をコントロールする」でも述べましたが、ヒトケミカルのR-αリポ酸とコエンザイムQ10は抗酸化物質として利用されて抗酸化機能を失ったビタミンCやビタミンEの再生にも関与して体内にある活性酸素の消去に働いています。

図2. 生体内抗酸化物質ネットワーク
図2. 生体内抗酸化物質ネットワーク

現在のところ、ミトコンドリア病を根治させるための治療薬はありません。症状を抑制し、進行を遅らせるためにヒトケミカルのコエンザイムQ10やビタミンCやビタミンEが処方されており、これらの服用で症状が軽くなったといった報告はあります。

ミトコンドリア内で活性酸素を除去する物質としてはコエンザイムQ10のみの処方です。そこで、ヒトケミカルのR-αリポ酸とコエンザイムQ10の併用処方に対する期待が高まっています。

ただ、まだまだ多くの有識者がαリポ酸の使用に対して危険なラセミ体の問題に気付いていないのも現状です。