R-αリポ酸の効能とS-αリポ酸の毒性に関する論文の要約と考察(9)|株式会社シクロケムバイオ
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2018.10.11 掲載

R-αリポ酸の効能とS-αリポ酸の毒性に関する論文の要約と考察(9)

R-αリポ酸の効能について紹介しています。今回は、糖尿病網膜症に対するR-αリポ酸の治癒効果です。

糖尿病網膜症は、眼に入る光を信号に変え、視覚にとって重要な役割を果たしている網膜に障害の出る病気です。失明や視覚障害を起こす病気であり、日本では緑内障に次いでその原因の第2位となっています。

血糖コントロールが不良な状態が続くと糖尿病網膜症を発症するのですが、糖尿病合併症の中でもこの発症率は高く、生活の質を著しく低下させ、場合によっては生命に危険をさらすなど、大きなダメージをもたらす病気です。特に、この病気による症状の一つである失明は深刻で、生活のすべてを変えてしまうことになります。

ここでは、J. Linらの研究グループの2006年の研究報告を紹介します。

Effect of R-(+)-α-lipoic acid on experimental diabetic retinophathy
(糖尿病性網膜症に対するR-αリポ酸の効果)
J. Lin et al., Diabetologia 49, 1089-1096 (2006)

高血糖によって引き起こされるミトコンドリア内の活性酸素の過剰発生は、糖尿病において内皮障害の原因となっています。R-αリポ酸はミトコンドリア内に分布する抗酸化物質ですので、糖尿病性網膜症に対するR-αリポ酸の効果を検証したものです。

健常なラット群(N)(5匹)と糖尿病モデルラット群(D)(8匹)、そして、糖尿病モデルラットにR-αリポ酸を60 mg/kg bwを投与した群(D+Dex)の3群に分け30週間飼育しています。

まず、周皮細胞と無細胞毛細血管の数を調べています。

R-αリポ酸を投与した糖尿病群(D+Dex)の周皮細胞数は健常群(N)とほぼ同様の数で、糖尿病群(D)より顕著に多いことが確認されました。(図1)尚、周皮細胞とは、毛細血管と小静脈において内皮細胞を囲むように存在する細胞で、血管形成や毛細血管の維持、血流の調節に関与していて、脳においては神経血管単位を成して血液脳関門の維持に働いている大変重要な細胞です。

図1. 周皮細胞数の変化
図1. 周皮細胞数の変化

無細胞毛細血管の数については糖尿病群(D)の方が健常群(N)よりも顕著に上昇し、R-αリポ酸で処理することで、88%減少することが確認されました。

図2. 無細胞毛細血管数の変化
図2. 無細胞毛細血管数の変化

また、糖化タンパク(CML)、NF-κB活性、そして、アンジオポエチン-2の増減も確認しています。尚、CMLは酸化ストレスの指標であり、NF-κBは活性化するとインスリンシグナル伝達障害を引き起こすことが知られており、アンジオポエチン-2は脈管形成と血管新生を促進する糖タンパクとして知られております。そして、糖尿病を発症するといずれもその発現量は増加します。

R-αリポ酸を投与した糖尿病群(D+Dex)の糖化タンパク(CML)、NF-κB活性、そして、アンジオポエチン-2のいずれの発現量も糖尿病群(D)に比べて顕著に減少していることが確認されました。

無細胞毛細血管の数については糖尿病群(D)の方が健常群(N)よりも顕著に上昇し、R-αリポ酸で処理することで、88%減少することが確認されました。

図3. 糖化タンパク(CML)の発現量の変化
図3. 糖化タンパク(CML)の発現量の変化
図4. NF-κBの発現量の変化
図4. NF-κBの発現量の変化
図5. アンジオポエチン-2の発現量の変化
図5. アンジオポエチン-2の発現量の変化

このようにR-αリポ酸には、ミトコンドリアでの活性酸素の過剰産生によって生じる反応系の下流を正常化させることによって微小血管の損傷を防ぎ、内皮保護作用のあることが確認されました。

糖尿病網膜症の予防のためにもR-αリポ酸を日頃から摂取しましょう。