R-αリポ酸の効能とS-αリポ酸の毒性に関する論文の要約と考察(11)
R-αリポ酸の効能について紹介しています。今回は、αリポ酸(R体:S体=50:50)やS-αリポ酸ではなく、R-αリポ酸のNO(一酸化窒素)産生作用による心血管疾患予防のための論文を取り上げます。
そもそも、NOは空気中の窒素や石炭や石油などの燃料中の窒素が高温燃焼時に酸素によって酸化されて発生する化合物です。発生時はNOですが、大気中でさらに酸化され二酸化窒素(NO2)となり、それらの混合物をNOx(窒素酸化物)と呼び、酸性雨の原因となっています。NOは高温条件下でないと発生しないはずですが、不思議に微生物から高等動物、ヒトは生体内でL-アルギニンとL-シトルリンというアミノ酸を用いて高温条件を必要としないでNOを発生させ、生体機能を維持するために利用しています。
NOには、血管を拡張し血流を促進する作用、動脈硬化の抑制作用、免疫の向上作用、さらには、アンモニアを除去して乳酸の消費促進によるスポーツパフォーマンス向上作用、抗疲労作用など、様々な効果のあることがこれまでに確認されています。
NOの機能性解明に関して最も注目された最初の研究はカリフォルニア大学医学部のイグナロ教授の心血管分野の研究論文でした。イグナロ教授は、NOの血管の平滑筋に対する弛緩作用をはじめ、生体内のNOのさまざまな機能を解明し、1998年にノーベル医学・生理学賞を授与されています。
R-αリポ酸やCoQ10などのヒトケミカルの生産量が減少する20歳を過ぎる頃からNO産生量は減少していきます。また、糖尿病などの生活習慣病によってもNO生産量は減少すると同時に生活習慣によって体内に活性酸素が多い状態になると活性酸素を消去するためにNOは消費され、体内のNO量は減少します。
この『今、注目していること』では、以前、Erectile Dysfunction:勃起障害(以下、ED)に対するR-αリポ酸の効果について取り上げました。EDは『脳の病』が原因と思いがちですが、『脳の病』とともに『血管の病』である血管障害もその原因のひとつで、糖尿病によるNOの生産量低下が原因であることを説明し、R-αリポ酸のNO生産量の改善効果について紹介しました。
精力維持と増強のための機能性素材(1) R-αリポ酸
今回、紹介する研究報告は、HagenらによるMolecular Mechanisms of Signalingへ投稿した論文で、その題目は、Vascular endothelial dysfunction in aging: loss of Akt-dependent endothelial nitric oxide synthase phosphorylation and partial restoration by R-α-lipoic acid(加齢による血管内皮機能不全:Akt依存性内皮NO産生酵素(eNOS)リン酸化の欠如とR-αリポ酸による部分的回復)です。
まず、この題目に出てくるeNOSについて、簡単に説明しておきます。NOSとは一酸化窒素を合成する酵素(Nitric Oxide Synthase)のことです。NOSは、常時細胞内に一定量存在する構成型cNOSと炎症やストレスによって誘導されるiNOSに分類されます。さらにcNOSは神経型のnNOSと血管内皮型のeNOSが存在していて、今回は、この血管拡張作用のある血管内皮型のeNOSについて注目しています。NOの生産に関するメカニズムを図1に示しました。内皮細胞では、Aktの活性化によってNO合成酵素のeNOSがリン酸化されL-アルギニンと酸素からNOが発生することが知られています。
加齢によってeNOS活性は低下し、NO産生量も減少することから加齢は心血管疾患の原因に一つと考えられます。そこで、この研究では加齢によるラット内皮細胞中のリン酸化されたeNOS量を調べています。
若齢ラットと老齢ラットから内皮細胞を分離して、リン酸化されたeNOS量を測定しています。この検討結果より、加齢によってリン酸化したeNOS量が半減し、総eNOS量に対してリン酸化した割合も減少することが判明しました。
さらに、老齢ラットにR-αリポ酸(40mg/kg b.w.)を腹腔内投与し、12時間後に測定しましたところ、R-αリポ酸を投与することでAkt量が回復し、リン酸化したeNOS量が増加することが明らかとなっています。そして、その活性は12時間後でも維持されていることが判りました。これらの結果から、加齢によるリン酸化eNOS量の減少が血管機能の低下の大きな要因である可能性が示唆され、R-αリポ酸によってその血管機能の低下は抑制できることが明らかとなっています。