唾液分泌量を改善するCoQ10|株式会社シクロケムバイオ
株式会社シクロケムバイオ
日本語|English
研究情報
今、注目していること

唾液分泌量を改善するCoQ10

以前、以下の記事でドライマウス対策にコエンザイムQ10(CoQ10)が有効であることをご紹介いたしました。
冬場の乾燥とドライマウス

しかしながら、その科学的根拠(エビデンス)として実際にどのような検討が行われているかについてはまだ述べていません。そこで、今回はそのエビデンスになる論文を紹介します。とその前に、「ドライマウス」のおさらい(前述のURLもご参考に)にもなりますが、最近分かってきた「ドライマウス、歯周病そして糖尿病の関係」について少し詳しく触れておきます。(図1)では、ドライマウスの原因に糖尿病があり、歯周病がドライマウスに起因する病態とされていますが、一方で、学術的にドライマウスが歯周病と糖尿病の原因との見方もされています。

図1. ドライマウスの原因とドライマウスに起因する病態
図1. ドライマウスの原因とドライマウスに起因する病態

口腔で年齢とともに発症する代表的な病気が歯周病です。30歳以上の成人の約80%が歯周病に罹っており、歯の喪失原因の第1位です。歯周病とは、歯と歯ぐき(歯肉)のすきまに侵入した歯周病菌が、歯肉に炎症を引き起こし、さらには歯を支える骨を溶かしてグラグラにさせてしまう病気です。歯周病は、痛みなどの自覚症状がほとんどないため放っておきがちですが、歯周病の慢性的な炎症が糖尿病を悪化させることが知られています。(コラム参照)そして、唾液の分泌が慢性的に低下するドライマウスはこの歯周病を引き起こす大きな原因となっています。つまり、ドライマウスによって歯周病が引き起こされ、その歯周病が悪化すると、糖尿病も悪化するという「ドライマウス→歯周病→糖尿病」といった関係も明らかとなっています。

そこで、今回紹介する論文は鶴見大学のRyoらのグループの研究報告です。なお、この論文は2011年に『Clinical Biochemistry』という学術雑誌に「Effects of coenzyme Q10 on salivary secretion(唾液分泌におけるコエンザイムQ10の効果)」というタイトルで発表されたものです。

ドライマウスは唾液分泌の減少に関連した症状ですが、加齢とも関連があるとされています。そこで、この研究では、ドライマウス患者(31名)と健常者(33名)を対象に、プラセボ群(24名)とCoQ10摂取群(42名)に分け、1ヶ月間、還元型CoQ10(ユビキノール)と酸化型CoQ10(ユビキノン)を100mg/日投与による唾液分泌量と唾液中CoQ10量への影響を検討しています。(図2)のグループ分けと唾液分泌量をみていただくと明らかなようにドライマウス患者の唾液分泌量は平均0.7g/2minと健常者に比べて随分と少ないことが分かります。

図2. グループ分けとそれぞれの平均年齢と唾液分泌量
図2. グループ分けとそれぞれの平均年齢と唾液分泌量

先ず、ドライマウス患者に対する唾液流量と唾液中CoQ10量の変化を(図3)に示しました。

図3. ドライマウス患者の唾液分泌量と唾液中CoQ10の変化
図3. ドライマウス患者の唾液分泌量と唾液中CoQ10の変化

ユビキノール摂取群、ユビキノン摂取群の何れの場合でも唾液流量が有意に改善し、唾液中のCoQ10量も有意に増加していました。ところが、健常者に対するCoQ10摂取の影響を確認したところ、興味深いことに、(図4)に示していますように、還元型CoQ10であるユビキノール摂取では唾液流量に変化がなく、ユビキノンの場合にのみ有意に唾液流量は増加することが判明しています。

図4. 健常者の唾液分泌量と唾液中CoQ10の変化
図4. 健常者の唾液分泌量と唾液中CoQ10の変化

このように経口摂取したCoQ10は、唾液腺において減少したATPの産生を向上させ、エネルギー代謝を活発にし、酸化ストレスによって損傷した唾液腺における抗酸化能を発揮することによって、唾液分泌機能を改善すると考えられます。

米国歯科協会によると、米国人のおよそ87%が歯周病を患っていると報告されています。そして、歯周病の患者の歯茎組織の60%~96%がCoQ10の不足を示した研究があり、歯周病の原因にCoQ10量が関係していると考えられています。

図5. CoQ10と歯周病の関係(米国歯科協会調べ)
図5. CoQ10と歯周病の関係(米国歯科協会調べ)

CoQ10の細胞・組織の強化は歯茎を丈夫にすることにつながり、歯周病の治癒の際に必要な大量のエネルギー生産にもCoQ10が必要なのです。

しかしながら、CoQ10は摂取しても吸収性の悪い物質です。サプリメントでCoQ10を補うのであれば、「シクロデキストリン」とか「包接体」とか袋に書かれているものを選びましょう。

コラム:歯周病による糖尿病悪化の理由

歯周病による歯茎の炎症で、TNF-αという炎症性サイトカインが分泌されるからです。炎症性サイトカインとは細胞から出てくるタンパクで、それに対する受容体を持つ細胞に働きかけて細胞を増やしたり、機能させたりします。TNF-αはもともと腫瘍を壊死させる働きのあるタンパクですが、歯周病による歯茎の炎症で血液中のTNF-αが増えすぎると、インスリンの働きを妨げられ、その結果、高血糖になり、糖尿病が悪化するのです。