小型LDLコレステロールについて(3)小型LDLが冠動脈疾患の真のリスクマーカー
このシリーズでは、小型LDLコレステロールとは、いったいどのようなものか、そのリスクマーカーとしての鋭敏さはこれまでの研究からどこまで分かっているのか、小型LDLコレステロールが多いとどれほど危険なのか、小型LDLコレステロールが多いために冠動脈疾患(CHD)を患った際の医薬品による対処法にはどのようなものがあるか、そして、小型LDLコレステロールが多いことが健康診断で判明した際の未病患者に対する機能性食品による対処方法にはどのようなものがあるかなどについて、医師や薬剤師等の専門家に向けてではなく一般の方々に分かりやすく概説しています。(1)では小型LDLコレステロールとはどのようなものかについて説明しました。(2)では小型LDLコレステロールはどのようにして作られているかについて説明しました。そこで、今回は、真の悪玉コレステロールはLDLではなく、小型LDLコレステロールであることを示すため、小型LDLコレステロールのCHD発症に及ぼす影響を紹介します。
1万人近くの健常者とCHD患者のLDLコレステロールの値を比較しますとCHD患者の方が少し高いのですが有意差はついていません。しかし、小型LDLコレステロールを比較しますと明確な有意差(P < 0.0001)が出ています。健常者の小型LDLコレステロール値は約20mg/dLでCHD患者は40mg/dL以上でした。一方、大型LDLコレステロールを比較した場合はむしろ健常者の方が値は高く出ています。このことから小型LDLコレステロールがCHDのリスクマーカーであることが分ります。
このようにLDLコレステロールをCHDのリスクマーカーとすることは出来ません。たとえば、LDLコレステロールが130mg/dLであったとしてもCHDを発症する人もいれば発症しない人もいます。その理由は小型LDLコレステロール値にあるのです。LDLコレスレロール値が130mg/dLを示す健常人の小型LDLコレステロールは20mg/dLであり、同じくLDLコレステロール値は130mg/dLのCHD患者の小型LDLコレステロール値は50mg/dLです。よって、小型LDLコレステロールで明確なリスク評価ができるのです。
次に、CHD患者を重症度別に軽度から重症度が増す順にQ1(N = 29)、Q2(N = 21)、Q3 (N = 14)、Q4(N = 16)に分け、健常男性(N = 95)と健常女性(N = 47)のLDLコレステロール、小型LDLコレステロール、大型LDLコレステロールの測定を行ったデータを紹介します。(ここでは、見やすくするためにエラーバーを外しています。)この結果から、重症度と大型LDLコレステロール値に相関はないのですが、重症度が増すとともに小型LDLコレステロール値が上昇することが分ります。つまり、小型LDLコレステロールの測定でCHDの発症を予測できることが判ります。
さらに、一度CHDを起こした人が、もう一度心血管疾患を再発する割合を昭和大学病院で調べています。小型LDLコレステロールが35mg/dL以上の人とそれ未満の人でイベントの発症率に大きな差があります。よって、この指標(35mg/dL以上か未満か)は心血管イベント発症の二次予防に役立つと思われます。一方、LDLコレステロールが100mg/dL以上の人とそれ未満の人では全く差がみられません。したがって、LDLコレステロールが100mg/dL未満でも安心できなく、LDLコレステロールは心血管イベントの指標にならないことがわかります。