腎機能に対照的な影響を及ぼす善玉リポ酸(R-αリポ酸)と悪玉リポ酸(S-αリポ酸)|株式会社シクロケムバイオ
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2019.12.4 掲載

腎機能に対照的な影響を及ぼす善玉リポ酸(R-αリポ酸)と悪玉リポ酸(S-αリポ酸)

タイトルの内容に入る前に少しだけ腎臓の話です。昔から物事の要の意味で『肝腎』という言葉が使用されてきましたが、肝臓と腎臓は体内の恒常性維持に大変重要な臓器です。肝臓に比べ腎臓は、単に『おしっこ』をつくる臓器と思われがちですが、実は、人体ネットワークの要として、血液中の酸素量や血圧と密接に関係しています。

腎臓は老廃物を含む血液をろ過して、きれいな血液にしています。そして、不要な老廃物を体外に排出するために『おしっこ』を作っています。腎臓では、この血液精製の際に、血液の成分調整を行っていて、本当の腎臓の役割は、おしっこを作ることではなく、血液の成分を適正に維持するための“血液の管理”なのです。なので、腎臓に異常が起きると全身の他の臓器に悪影響をもたらしますし、その一方で、他の臓器での異常が起きると腎臓に影響が出てくるほど、各種臓器の中でも腎臓は重要な臓器と言えます。

健康維持を目的として、また、治療を目的として、摂取する医薬品やサプリメントの中には、とんでもなく腎臓に負担をかけているものがあるのです。医薬品成分でもあり、機能性食品素材でもあるαリポ酸はそのいい例です。

『命を守るために腎臓を守る』、今回は、そのための記事です。

では、本題です。ここでは以前、悪玉リポ酸であるS-αリポ酸(SALA)を含むサプリメントの危険性を指摘した記事を載せています。
αリポ酸ラセミ体サプリメントに含まれているS体による死亡率上昇メカニズムを解明!
~糖尿病・脂質異常症の方にαリポ酸ラセミ体摂取は危険!~

その内容は、血液中にはアルブミンというタンパクが存在していて、血圧調整や脂溶性成分の運搬の働きを担っているのですが、このアルブミンと悪玉リポ酸の非天然のSALAが血液中で不溶性の凝集物を作ってしまい、腎機能に悪影響を与えるが、善玉リポ酸である天然型のR-αリポ酸(RALA)は凝集物を作らず影響は与えない、といったことでした。もう少し、具体的には……

透明なアルブミン水溶液にRALAとSALAを添加したところ、RALAは完全に溶解しましたが、SALAの場合は大きな不溶物を形成することが判明しました。そして、その不溶物を分析したところSALAはほとんど検出できませんでした。そして、RALAとSALAは同じ量を添加したにもかかわらず、SALA濃度はRALA濃度よりも有意に低いことが明らかとなりました。この結果は、SALAとアルブミンが反応して(非選択的不可逆反応を起こして)、不溶性の重合物が生成することを意味しています。

このような反応が血液中で起これば、プラークや血栓で血流の悪くなっている血管では、特に動脈硬化の危険性のある患者には、当然のこと、悪影響を与えると考えられるのです。また、これまでの学術的な報告の中にも、この結果を支持する報告があります。ALAラセミ体をマウスに混餌摂取させた試験の血液性化学検査値において、尿酸やカリウムが有意に上昇したという報告ですが、その考察として“何らかの要因で腎臓に不溶物質が沈着・蓄積し、糸球体の濾過機能に異常がみられる”といったALAラセミ体の腎機能障害の可能性が指摘されています。

このように悪玉リポ酸であるSALAを含むαリポ酸ラセミ体の危険性に対して、まったく反対に、善玉リポ酸のRALAには腎機能の維持に好影響を与えるという神戸女子大学の吉川教授らの研究報告があります。

習慣的に運動させているマウスにγ-オリゴ糖で包接し、安定性と吸収性を高めたRALA(RALA-CD)を投与し、運動による腎臓負荷にどのように影響するかを検討しています。その結果、RALAは運動によって腎臓にかかる酸化ストレスを見事に減少させることを明らかとしています。

8週齢の雄のマウスを10日間の飼育期間、運動として毎日30分間水泳させ、水泳群にはCMCのみを経口投与、RALA群にはRALA-CDをCMCにて懸濁し、運動開始15分前にゾンデを用いて経口投与し、水泳をしないコントロール群と比較しています。その結果、腎臓中の活性酸素量は水泳群で有意に高く、RALAを摂取することで活性酸素量は有意に上昇が抑制されていました。

図1. RALAによる腎中活性酸素量の低減
図1. RALAによる腎中活性酸素量の低減

腎臓は血中の尿素窒素、クレアチニン、尿酸等の老廃物を濾過し、尿を生成する働きがあります。激しい運動を行った場合、筋疲労が起こり、これらの老廃物が血液中に蓄積され、腎臓で濾過されます。本実験で行った自由水泳運動は運動量が多く、水泳群のマウスにおいて筋疲労が起こって老廃物が蓄積し、腎臓に負担がかかったため、腎臓での酸化ストレスが上昇したと考えられます。

鉄(Fe)も運動と深い関わりがあります。運動によってFeの損失量が増大し、必要量も増大するため、運動によって引き起こされるスポーツ貧血の多くは鉄欠乏性貧血であるとされています。腎臓においてFeの濃度は水泳群と比較して、RALA群で高い傾向が示されました。この結果から、自由水泳運動によって鉄欠乏性貧血が生じますが、RALAの摂取によってその貧血は改善されたと考えられます。

図2. 水泳による腎臓中Fe濃度の低減とRALAによる低減抑制
図2. 水泳による腎臓中Fe濃度の低減とRALAによる低減抑制

以上のように、悪玉リポ酸SALAは腎機能を悪化させ、善玉リポ酸RALAは腎機能を改善することが明らかとなっています。