シトルリンを含むスイカの効能(3)大腸炎と大腸がんの予防効果|株式会社シクロケムバイオ
株式会社シクロケムバイオ
日本語|English
研究情報
今、注目していること
2020.7.7 掲載

シトルリンを含むスイカの効能(3)大腸炎と大腸がんの予防効果

今回は「大腸炎と大腸がんの予防効果」に関する論文を取り上げます。

Effects of watermelon powder supplementation on colitis in high-fat diet-fed and dextran sodium sulfate-treated rats(高脂肪食給餌およびデキストラン硫酸ナトリウム処理ラットの大腸炎に対するスイカ粉末補給の影響)
M. Young Hong et al., Journal of Functional Foods 54 (2019) 520–528

日本における死因の第一位は言うまでもなく「がん」です。その中でも「大腸がん」は、日本のがん死亡数の上位に入る疾患なのです。厚労省の『人口動態統計月報年報』(2015)では、がんの中で死亡数の多い部位で「大腸」は女性が1位、男性でも3位でした。このように多くの方の命にかかわる大腸がんの問題は、症状がわかりにくく、気づいた時には既に進行してしまっていたということもよくあることです。

大腸がんの症状の現れ方は大腸の部位によって異なります。(図1)に示しますように大腸の区分の中で小腸に近い部位、たとえば、上行結腸などにできたがんは症状が現れにくいケースが多いのです。なぜなら肛門から遠いために出血があっても血便となり辛いからです。そこで、大事なのは定期的な大腸がん検査と大腸がんにならないための食生活を含む環境の改善です。

図1. 大腸の区分
図1. 大腸の区分

大腸がんリスクを増大させる最も重要な要因の一つに潰瘍性大腸炎があります。潰瘍性大腸炎は大腸細胞によるアルギニン取込み低下に起因する内皮機能障害を特徴としており、最近の研究では、潰瘍性大腸炎患者の大腸組織は正常者よりアルギニンが低濃度であることが判っています。また、潰瘍性大腸炎予防のためのアプローチとして、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発大腸炎マウスにアルギニンを摂取させると、抗酸化活性の上昇・炎症性サイトカインレベルの低下・生存率や体重などの臨床パラメーターが改善されることは既に明かとなっていました。

一方、スイカに含まれるシトルリンはアルギニンの前駆体であり、ラットとヒトの両方の試験において循環アルギニンレベルを効果的に上昇させることが分かっています。さらに、スイカ粉末摂取ラットで、コントロール群と比較して、炎症と酸化ストレスレベルの低下が観察されています。炎症と酸化ストレスは潰瘍性大腸炎に深く関与しておりますので、スイカが疾患の重症度を軽減する可能性があります。

スイカは、高コレステロール血症、高血圧、スポーツパフォーマンス向上などの効能は知られていますが、炎症性腸疾患への影響は調査されていませんでした。このような理由から、今回紹介する報告では、DSS誘発性潰瘍性大腸炎ラットを用いてスイカ摂取の効果を評価しており、特にガンの見つけにくい大腸の部位の結腸における細胞増殖とアポトーシスの恒常性を調節し、大腸炎を改善することを明らかとしています。

実験方法としては、雄のSDラット(21日齢、40匹)すべてに高脂肪食(33%糖、21%脂肪)を与え、高脂肪食のみ与えたコントロール(C)群、DSS処理をしたDSS(C + DSS)群、高脂肪食に対して0.33%のスイカ粉末を与えたスイカ粉末(WM)群、そして、DSS処理をして0.33%のスイカ粉末を与えた(WM + DSS)群の4群に分けて、各種パラメーターの変化を確認しています。尚、与えたスイカ粉末の成分はタンパク質2.09 g(L-シトルリン1.35g、L-アルギニン0.65g)、炭水化物1.2g(グルコース、フルクトース、スクロース)、繊維0.01g/3.3gであり、すべての群の摂取カロリーは同じで13.2kcalです。30日間自由摂取(水も)に続いて、DSS処理なしには飲料水、DSS処理ありには3%DSS(w/v、40kDa)飲料水を48時間摂取させています。

論文では、各種パラメーターとして、体重・食物と水分摂取量・無傷の陰窩、8-OHdG濃度、NO濃度、サイクリンD1発現、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPAR-γ)発現、細胞増殖と分化とアポトーシスなどを見ていますが、ここでは、注目すべき項目のみを選択して、以下に紹介します。

まず、腸の陰窩の傷の具合にスイカの効能が見えています。この陰窩とは、小腸と大腸の上皮で見つかっている腺で細かい毛のような突起なのですが、この線は消化酵素を分泌しており、この部分を通過する食物によって上皮が摩耗されるため新しい上皮が生成されています。この陰窩に傷がついた時に補修が間に合わない場合が大腸がんの原因となりますので、無傷の陰窩の数が多い方が大腸がんのリスクが低いことになります。

無傷の陰窩は、C群よりC+DSS群の方が顕著に少ないことが分かります。また、C + DSS群に比べてWM + DSS群の方が無傷の陰窩が顕著に多くなっていることが分かります。つまり、DSS処理によって傷ついた陰窩が増えるもののスイカの摂取で無傷の陰窩が増えて大腸がんリスクが減ることが分かります。

図2. スイカ粉末による陰窩数の変化
図2. スイカ粉末による陰窩数の変化

8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OHdG)はDNAが活性酸素によって損傷を受けた時に体のパトロール役である修復酵素が傷ついた部分を切り取った際に発生する物質ですので尿中や血漿中の8-OHdG濃度を確認することでがんリスクを調べることができます。つまり、8-OHdG濃度が高いとがんリスクがあることになります。この8-OHdG評価でもDSS処理によって8-OHdG濃度は高まり、スイカ粉末を摂取することで8-OHdG濃度は減少すること、がんリスクが低減することが明かとなっています。

図3. スイカ粉末による8-OHdGの変化
図3. スイカ粉末による8-OHdGの変化

一酸化窒素(NO)産生においてもスイカ摂取の効果が観られています。

図4. スイカ粉末摂取による一酸化窒素(NO)の増加
図4. スイカ粉末摂取による一酸化窒素(NO)の増加

DNAが損傷を受けると発現するサイクリンD1においても、DSS処理で増加しましたが、WM群で改善しています。

図5. スイカ粉末摂取によるサイクリンD1の減少
図5. スイカ粉末摂取によるサイクリンD1の減少

PPAR-γは脂肪細胞の分化や蓄積の調節、インスリン作用等に関与する物質ですが、DSS処理で減少し、スイカ摂取で上昇する傾向にありました。

図6. スイカ粉末摂取によるPPARγの増加
図6. スイカ粉末摂取によるPPARγの増加

また、結腸における細胞増殖、細胞分化、そして、アポトーシス(細胞死)の変化も調べており、DSS処理によって結腸の陰窩形態は悪化しますが、スイカの補充が正常な結腸陰窩形態を維持し、細胞増殖とアポトーシスの恒常性を調節することにより、大腸炎を改善することを明らかとしています。(図7)は結腸におけるアポトーシスですが、DSS処理によって、陰窩切片で高いアポトーシス指数(AI)が高いことが分かります。ここでは、その詳細は省きますが、スイカを摂取することでこのAIが低下することがこの研究で確認されています。

図7. 結腸におけるDSSによるアポトーシス(細胞死)の増加
図7. 結腸におけるDSSによるアポトーシス(細胞死)の増加

このように、スイカは大腸炎を改善し大腸がんリスクを低減できる効果のあることが分かってきました。