植物色素アントシアニンについて(2)ナスニンγオリゴ糖粉末の製造と効果効能|株式会社シクロケムバイオ
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植物色素アントシアニンについて(2)ナスニンγオリゴ糖粉末の製造と効果効能

今回はナスの皮に含まれる紫色素のアントシアニンであるナスニンについてその粉末化に関わる研究を解説します。

その前に、ナスの栄養成分について紹介しておきます。ナスは他の野菜類に比べて特別な成分は少なく、カルシウムや鉄分が比較的多いものの、ミネラル全体としても一般的な含量です。その一方で廃棄の対象にあるナスの皮には特徴的な機能性成分としてアントシアニン色素のナスニンとクロロゲン酸が含まれています。ナスニンは抗酸化物質としてさまざまなアントシアニン類の中でも特に高い活性酸素消去能を有しています。また、最近では、総コレステロール低減作用、抗アレルギー作用、脂質過酸化に対する防御作用、例えば、パラコート酸化障害に対する防御作用、抗血管新生作用等を有することも明らかとなっており、機能性食品への応用開発が期待されています。さらに、ナスニンとともに含まれているクロロゲン酸にも血糖値上昇抑制作用、血圧改善作用、抗がん作用、抗酸化作用が知られています。

このようにナスの皮には素晴らしい効能があるのですが、ナスの食品加工への活用例は他の野菜類に比べて少なく、殆どが漬物の原料として利用されているのが現状です。

ナスの漬物を作るには、ナスを入れた水溶液に食塩・アルミニウムミョウバンを加え、撹拌して皮に少し傷をつけることによりナス果実に染み込ませ、さらに、3日間5℃にて漬け込みます。その後、ナス果実を取り出して調味漬けにしていますが、この工程で使用済みのナス下漬液が発生します。下漬液にはナスの皮に含まれる水溶性のナスニンやクロロゲン酸が抽出されているのですが、残念ながら、これらの有用成分が含まれているナス下漬液は廃棄されているのです。

図1. ナスの食品加工への活用はほとんどが漬物
図1. ナスの食品加工への活用はほとんどが漬物
図2. ナス下漬液中の機能性成分
図2. ナス下漬液中の機能性成分

そこで、伊藤らは廃棄されているナスニンとクロロゲン酸を有効に利用することを目的として、ナス下漬液からの‟ナスニン含有粉末“の効果的な調整法を報告しています。

『ナス下漬液からナスニンおよびクロロゲン酸を含む抗酸化性粉末の調整』
伊藤ら、日本食品科学工学会誌 第60巻 第1号 30~37(2013)

この研究報告では、ナスニンとクロロゲン酸を吸着できる吸着剤(HP-20)を充填したカラムを用いて、まず、下漬液を通し、ナスニンとクロロゲン酸を吸着させます。次に、水で洗浄して食塩とアルミニウムミョウバンを除去します。そして、酢酸水溶液を用いてナスニンとクロロゲン酸を溶出させて真空凍結乾燥させると、下漬液30リッターから13.37gの粉末が得られます。その粉末にはナスニンが2.02g(15%)、クロロゲン酸が1.03g(8%)含まれているというもので、ナスニンは87%回収されたことになるそうです。

しかしながら、得られた粉末の製品化への問題点として、水への溶解性が低いことと酢酸臭が強いことが挙げられました。そこで、伊藤らはシクロデキストリン(CD)を用いてこれらの問題点を解決しています。

『シクロデキストリン包接によるナス下漬液由来ナスニン含有粉末の品質改善および機能性評価』
伊藤ら、日本食品科学工学会誌 第62巻 第4号 201~206(2015)

ナスニンとクロロゲン酸の合計モル数に対してβ-CDまたはγ-CDのモル数を変化させて添加し、2時間撹拌後、凍結乾燥しています。そして、得られた粉末の水への溶解性を586nmにおける吸光度で水溶性を評価して最適比率を求めています。その結果、β-CDではモル比が2倍および3倍のとき、γ-CDでは1倍のときに粉末の水溶性が最大になることが示されています。

図3. ナスニンとクロロゲン酸の合計モル数に対するシクロデキストリンの添加比率と吸光度の関係
図3. ナスニンとクロロゲン酸の合計モル数に対するシクロデキストリンの添加比率と吸光度の関係

また、紫色の色調も食品、化粧品において利用価値があると考えられています。

図4. ナスニンγ-CD包接体の色調
図4. ナスニンγ-CD包接体の色調

包接体から発散される酢酸臭は、ヘッドスペースによるGC-MS分析によってγ-CDで包接する前の粉末の19%まで減少したことが確認されています。

さらに、抗酸化性成分はヒスタミン放出を抑制することでI型アレルギー反応を直接阻害することが知られていますので、ナスニンγ-CD包接粉末の抗アレルギー活性をヒアルロニダーゼ阻害活性によって測定しています。その結果、抗アレルギー製剤として使用されている柴朴湯とほぼ同等の阻害率を示しています。

表. ナスニンγ-CD包接体の抗アレルギー活性

  ヒアルロニダーゼ阻害率(%)
ナスニンγ-CD包接体 91.2±1.3
柴朴湯 91.2±1.3

3回測定の平均標準偏差

このように、ナス下漬液からナスニン含有粉末を調製し、γ-CDを用いることで水への溶解性改善と酢酸臭をマスキングできることが明かとなり、そのナスニンγ-CD包接粉末は柴朴湯と同等の抗アレルギー作用も有することが分かっています。