ミトコンドリアとヒトケミカル(4) カロリー制限と長寿
『カロリー摂取量を30%制限したサルは老化の症状が抑えられ長生きする。』との論文がColmanらの研究グループによって2009年にUSの権威ある学術雑誌【Science】に発表されました。(Caloric restriction delays disease onset and mortality in rhesus monkeys, Science 325: 201 (2009))その論文にあったアカゲザルの写真はとても印象的でした。アカゲザルの平均寿命は27歳で最長寿命は40歳です。写真の2匹のアカゲザルはともに27歳ですが、自由摂食のアカゲザル(左側)に比べてカロリー制限をしているアカゲザル(右側)の方が元気で若々しそうです。
このカロリー制限と長寿の関係においてミトコンドリアは重要な鍵を握っています。ミトコンドリアは、通常、食事で摂取したブドウ糖を代謝してエネルギー通貨であるATPを生産しています。
食事をお腹いっぱいに食べますと、食べ物の中の糖質は胃腸で消化酵素によってブドウ糖に分解され、体内に吸収され、血液にのって細胞へと運ばれます。やがてブドウ糖はミトコンドリアの中に入りATPが作られますが、そのATP合成の際に多くの活性酸素も発生し、ミトコンドリアから漏れ出ていきます。そして、その活性酸素はタンパク質やDNAを傷つけます。その結果、細胞の機能は低下し、臓器の機能も低下し、いわゆる、老化が進むことになり、寿命が短くなる可能性があるのです。
しかし、食事を3割減らして、腹七分目、つまり、カロリー制限すると、体内に取り込まれるブドウ糖の量が少なくなります。そうすると、三大ヒトケミカルの一つであるL-カルニチンのサポートによって体内の脂肪はミトコンドリアに運び込まれます。そして、ミトコンドリア内では、その脂肪を原料に使ってTCA回路で三大ヒトケミカルのR-αリポ酸が、電子伝達系でCoQ10がそれぞれ働き、ATPを生産し始めます。そのATP生産過程ではNADという物質が作られます。NADがたくさん作られると長寿遺伝子である『サーチュイン』が働きはじめます。そして、ミトコンドリアの合成に必要な遺伝子が働き始め、新しいミトコンドリアが次々に作られていくのです。
新生のミトコンドリアは活性酸素に傷つけられていないので活発にATPを作り、活性酸素の発生量も少ない効率的なミトコンドリアなのです。したがって、それぞれの細胞の働きは維持され、老化しにくいカラダが作られると考えられています。
長寿遺伝子のスイッチを入れるのはカロリー制限だけではありません。赤ワインに含まれるポリフェノールの一種であるレスベラトロールにも長寿遺伝子のスイッチを入れ、効率的にミトコンドリアを作らせる作用のあることが最近分かってきました。レスベラトロールがサーチュインを活性化することが2006年にネイチャーに発表されたのです。高カロリー食で育てられた中年マウスにレスベラトロールを与えたところ、インスリン感受性が高まり、AMPKやPGC-1αの活性が上がり、新しくミトコンドリアを作り出したということです。また、このレスベラトロールを肥満男性に摂取させると高血圧が下がったという報告もあり、最近、レスベラトロールと老化の関係が大変注目されています。
しかしながら、このレスベラトロールは脂溶性物質であるために吸収性が低く、動物実験で用いた量は人に対しては毎日20g(ワイン200l)摂取しなければなりません。そこで、シクロケムバイオでは、最近、環状オリゴ糖であるαオリゴ糖を用いることでレスベラトロールの溶解度を劇的に改善することに成功しています。
今回の内容に関連している研究成果
第58回 α-シクロデキストリンによるレスベラトロールの水溶化