難消化性αオリゴ糖のちから(3)酪酸産生、制御性T細胞増殖、抗アレルギー作用|株式会社シクロケムバイオ
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難消化性αオリゴ糖のちから(3)酪酸産生、制御性T細胞増殖、抗アレルギー作用

前回、カロリー(エネルギー換算係数)が2kcalの難消化性オリゴ糖である乳果オリゴ糖と難消化性αオリゴ糖をラット動物試験によって短鎖脂肪酸を含むトータル有機酸産生量や盲腸内pHを比較し、難消化性αオリゴ糖の方が有機酸産生量は増加し、盲腸内pHも下がることを明らかとし、ミネラル吸収促進も期待できることから、難消化性αオリゴ糖は『腸活』で有名な乳果オリゴ糖よりも、さらに、高度な『腸活』の可能性を示唆しました。

今回は、難消化性オリゴ糖の抗アレルギー作用について、最近の知見をもとに紹介します。

ここでは以前に「アレルギー疾患に対する難消化性デキストリンの効果」というタイトルで難消化性オリゴ糖(難消化性デキストリンと同じ意味)であるフルクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ラフィノース、メリビオースなどによるアトピー性皮膚炎の予防効果に関する論文を紹介し、これらの難消化性オリゴ糖がビフィズス菌や乳酸菌を増殖することがアレルギー疾患の予防策になると考察しています。
アレルギー疾患に対する難消化性デキストリンの効果

一方、難消化性αオリゴ糖に関しても抗アレルギー作用のあることが示されており、シクロケムバイオでは学会発表や論文発表しており、研究成果として、ホームページにも記載しております。
研究成果:第50回 α-シクロデキストリンの抗アレルギー作用

抗アレルギーに関する作用機序については、2013年に理化学研究所、東京大学、および、慶應義塾大学先端生命科学研究所の共同研究が発表され、腸内細菌が作る酪酸が制御性T細胞へ分化誘導し、炎症性腸疾患やアレルギー疾患を改善しているのではないか、との見解が発表されました。

腸内細菌の一種であるクロストリジウム目という細菌群が、大腸の制御性T細胞を増やすという研究成果に着目し、その細菌群を定着させたマウスを用いて、細胞群の腸内発酵による制御性T細胞の増減を調べたところ、食物繊維を多く含む食事を摂取したマウスに制御性T細胞の増加がみられたそうです。そして、その食物繊維を多く含む食事を摂取したマウスの腸内には代謝産物として短鎖脂肪酸の一つである酪酸の産生量が増えていたことも分かりました。さらに、その酪酸が制御性T細胞への分化誘導に重要なFoxp3という遺伝子の発現を高めて、未成熟なT細胞を制御性T細胞へと分化誘導していることも突き止めています。つまり、食物繊維の多い食事は腸内細菌による食物繊維の代謝によって作られる酪酸で抗炎症作用のある制御性T細胞を増やし、大腸炎やアレルギー疾患を抑えることが明かとなったのでした。

前回は、難消化性オリゴ糖として乳果オリゴ糖と難消化性αオリゴ糖摂取による短鎖脂肪酸を含むトータル有機酸産生量の増加とそれに伴う腸内pHの低下とミネラル吸収についてのラット動物試験結果を述べていますが、その同じ試験において短鎖脂肪酸でも酪酸の変化を調べた結果があります。

図1. 難消化性オリゴ糖摂取による盲腸内酪酸量変化
図1. 難消化性オリゴ糖摂取による盲腸内酪酸量変化

このように『腸活』に有効な難消化性オリゴ糖の中でも難消化性αオリゴ糖の摂取は酪酸産生量を大きく高めるようです。そして、この結果は難消化性αオリゴ糖に大腸炎やアレルギー疾患の抑制効果や予防効果のあることが期待できます。

そこで、実際に、難消化性αオリゴ糖摂取によるアトピー性皮膚炎患者を対象とした試験が行われています。試験方法は以下のようでした。

試験期間中、アトピー性皮膚炎患者である被験者15名に難消化性αオリゴ糖を1回2.5g、1日2回、朝夜の食事と共に摂取してもらいました。そして、一定期間ごと(摂取前、1ヶ月後、2ヶ月後、3ヶ月後)に、医師により観察部位の診断を行ってもらいました。観察部位は摂取前の診断時に医師によって決定し、デジタルカメラにて診断時ごとに撮影を行いました。アトピー性皮膚炎症状は、「紅斑」「腫脹」「丘疹」「乾燥」「落屑」「掻痒」「掻破痕」に分類し、各症状について(-)、(±)、(+)、(++)、(+++)の5段階で評価しています。

表1. 難消化性αオリゴ糖摂取によるアトピー性皮膚炎症状の改善
表1. 難消化性αオリゴ糖摂取によるアトピー性皮膚炎症状の改善
写真1. 難消化性αオリゴ糖摂取によるアトピー性皮膚炎症状の改善例
写真1. 難消化性αオリゴ糖摂取によるアトピー性皮膚炎症状の改善例

このように、難消化性αオリゴ糖を摂取することで摂取12週間後にアトピー性皮膚炎症状の改善が確認されました。

また、アレルギー性喘息は、ホコリ、ハウスダストや花粉などのアレルゲンの刺激が引き金となり、慢性的に気道に炎症が起こり発作的に呼吸困難や咳などの呼吸器症状を示す疾患なのですが、難消化性αオリゴ糖摂取によるアレルギー性喘息症状の改善に関する検討も行われています。試験方法は以下のようでした。

アレルギー性喘息症状を有する20歳以上60歳以下の男女17名に難消化性αオリゴ糖を1日2回朝、夕食中に水またはぬるま湯で摂取してもらいました。摂取2週間前から摂取後12週間の計14週間毎日アンケート調査を実施しました。 アンケート調査では、被験者本人が喘息症状を有した日、 症状を記入してもらいました。 症状は発作の程度を「全くない」: 0、「咳発作」:1、「小発作」:2、「中発作」:3、「大発作」:4として期間ごとの平均値を算出しました。試験前、摂取4週間後、摂取8週間後及び摂取12週間後の血液サンプルでは、ヒノキの特異的IgEも測定した。図2に毎日アンケート調査の結果を示しています。摂取前では発作の頻度が0.4±0.09であったのに対し、摂取1-4週目は発作の頻度が0.20±0.07であり、摂取前と比較すると顕著に低下していました(P = 0.007)。そして、5週目以降も摂取前と比較して発作の程度が顕著に低下していました。

図2. 難消化性αオリゴ糖摂取によるアレルギー性喘息の発作の変化
図2. 難消化性αオリゴ糖摂取によるアレルギー性喘息の発作の変化

また、難消化性αオリゴ糖を12週間摂取することでヒノキIgE濃度も顕著に低下することが同時に分かりました。

図3. 難消化性αオリゴ糖摂取による血中ヒノキIgE濃度変化
図3. 難消化性αオリゴ糖摂取による血中ヒノキIgE濃度変化

このように、難消化性αオリゴ糖を摂取することで摂取12週間後にアレルギー性喘息の症状の改善が確認されました。

難消化性αオリゴ糖の摂取は腸内における酪酸産生量を増加させ、制御性T細胞を分化誘導して、大腸炎やアレルギー疾患の改善効果のあることが明らかとなっています。