難消化性αオリゴ糖のちから(4)悪玉LDL減少による動脈硬化予防
最近、キクイモに含まれている成分、難消化性オリゴ糖のイヌリンが「林先生の初耳学」(TBS系)や「名医とつながる!たけしの家庭の医学」(テレビ朝日系)などで取り上げられ、ダイエット効果、糖尿病予防効果、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患につながる中性脂肪低減効果があるとして話題となっています。
一方、同じ難消化性オリゴ糖の難消化性αオリゴ糖にも脂質代謝や糖代謝に関わる様々な効果があることが、肥満で血中脂質が軽症域を含む健常人、II型糖尿病患者、動物試験で明らかにされています。血中脂質が軽症域を含み、肥満者でもある健常人に対する難消化性αオリゴ糖の摂取効果(1日6g摂取(各食事ごとに2g))を調べた結果、体重やLDLコレステロール値などの低減効果のあることが明らかとされています。
このように難消化性オリゴ糖のイヌリンと難消化性αオリゴ糖にはどちらにも中性脂肪を低減して動脈硬化を防ぐ効果があるとされていますが、この二つの難消化性オリゴ糖の効果を比較した報告もあります。実は既に、ここでは「αオリゴ糖は腸内フローラを良い状態に変えて動脈硬化を防ぐ」というタイトルで紹介しています。難消化性αオリゴ糖には腸内フローラを改善してアテローム性動脈硬化を抑制する作用のあるといった内容で、イヌリンとの比較結果が示されています。
そこで、確認の意味で、もう一度、アテローム性動脈硬化を抑制する作用について、イヌリンとの比較の部分のみを紹介しておきます。
試験方法は8週齢のApoE欠損マウスを5群にわけ、11週間、図3に示す飼料を与えています。各成分の投与量は1.5%です。マウスの摂餌量が1日あたり2-3gとしたときに30mgから45mg摂取することになります。
まず、大動脈の病変部位を観察しています。解剖時に大動脈を取り出し、オイルレッドで脂質溜まりを染色しています。図4のAが染色した時の写真でBがその面積を示した結果です。低脂肪餌(LFD)群にくらべ、高脂肪餌(ウエスタンダイエット、WD)群では病変部位が多く、αオリゴ糖を1.5%含有する高脂肪餌(WDA)群はWD群に比べて65%抑制し、LFD群と同程度まで抑えられていることがわかります。イヌリン摂取によってアテローム性動脈硬化の進行を抑制できると報告されているイヌリンを1,5%含有する高脂肪餌(WDI)群はWD群と病変部位の面積は殆ど大きな違いはありませんでした。
このように、アテローム性動脈硬化を抑制する作用はイヌリンよりも難消化性αオリゴ糖の方がはるかに大きいことが分かっています。
ではなぜ、難消化性αオリゴ糖にはイヌリンなどの他の難消化性オリゴ糖には観られないようなここまで高い動脈硬化抑制作用があるのでしょうか?
実は、そのヒントとなるような研究があります。Amarらの研究グループは、2016年、難消化性αオリゴ糖に超悪玉コレステロールとされる小型LDLの低減効果のあることを下記論文で明らかとしました。
Randomized double blind clinical trial on the effect of oral α-cyclodextrin on serum lipids
(Marcelo J. A. Amar et al, Lipids in Health and Disease (2016) 15: 115)
この報告の内容に入る前に、まず、小型LDLについて概説しておきます。
LDLコレステロールは、血中での量が過剰になると動脈硬化の要因となるため、生活習慣病の指標として健康診断でも検査が行われています。しかし、近年、ひと口にLDLコレステロールと言っても、実は「正常LDL」と「悪玉LDL」とに分別できることが解明されてきました。
そもそも「LDLコレステロール」とは、コレステロールを運ぶために形成された粒子の集合体「リポタンパク質」を、密度と粒子サイズなどから種類分けしたものの1つです。コレステロールは、体の中で合成されると、それ単体ではなく、脂質やリン脂質とともに集合体となり、リンパ管や血液を介して抹消組織まで運ばれます。その運搬機能を果たすために形成されるのがリポタンパク質なのです。リポタンパク質は、集合したコレステロールやリン脂質、中性脂肪の割合によって密度や粒子サイズが異なり、大きい順に「カイロミクロン(CM」、「超低比重リポタンパク(VLDL)」、いわゆる悪玉コレステロールと呼ばれる「低比重リポタンパク(LDL)」、善玉コレステロールと呼ばれる「高比重リポタンパク(HDL)」に分けられます。このうち“低比重リポタンパク(LDL)”として分けられたリポタンパク質が、「LDLコレステロール」と呼ばれているのです。
国立衛生研究所(NIH)の研究報告で、同じ値を示すLDLコレステロールであっても、その内容、つまり構成している粒子によって性質が異なり、「正常LDL」や「悪玉LDL」に分別できることが明らかになりました。研究では、同値のLDLコレステロールでも、組成している粒子の大きさが異なり、冠動脈疾患患者においては、粒子サイズの小さい「小型LDL」が多い傾向にあることが発見されたのです。このことから、LDLコレステロールの中でも、さらに小型のLDL粒子数の多いものが“超悪玉”のコレステロールであると分かり、生活習慣病の予防の観点からも注目されるようになってきました。
小型LDLが内皮細胞による血管内壁を通過して酸化体となります。その酸化された小型LDLはマクロファージとともに泡沫細胞となり、やがて、アテロームを形成し、その結果、アテローム性動脈硬化は発生するのです。
実際に心臓病を患っていない人と心臓病患者の小型LDLを持っている人の割合は明らかに心臓病患者の方に高いことが明かとなっています。
また、表1に示しますように、心疾患(CAD)の有無による脂質プロファイルを比較すると、心疾患患者において、小型LDLや小型VLDLが顕著に増加すると同時に、大型HDLの割合も顕著に減少することが分かりました。
では、超悪玉としての性質が明らかとなってきた小型のLDLコレステロールに対し、難消化性αオリゴ糖によるその低減作用に関する研究について紹介します。
これまでの研究では、血中脂質が高い肥満の健常人、II型糖尿病患者、動物試験の実施により、難消化性αオリゴ糖が脂質代謝および糖代謝に関して様々な有用性を持つことは突き止められています。しかし、糖尿病や肥満病でなく、血中脂質が正常域にある健康な人への作用に関しては調べられていなかったため、NIHの研究グループは脂質および糖質パラメーターが正常域な健常人を対象に検討を実施しました。二重盲検クロスオーバー試験で、難消化性αオリゴ糖を食事ごとに2g、1日6g摂取し、脂質パラメーターと糖質パラメーターを調査しました。その結果、12~14週間、難消化性αオリゴ糖を摂取することで、プラセボと比べて小型LDLが10%低減され、顕著に低値を示すことが認められました。
また、空腹時のグルコース値がプラセボと比較して約1.6%減の低値を示し、インスリン抵抗性指数においては約11%減と有意な低値を示すことも確認されています。