ヒトケミカルによるAMPK活性化と非アルコール性肝炎の予防|株式会社シクロケムバイオ
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2020.07.29 掲載

ヒトケミカルによるAMPK活性化と非アルコール性肝炎の予防

今回は三大ヒトケミカルの一成分であるコエンザイムQ10(CoQ10)を摂取するとヒトの体は運動するのと同じ刺激を受けてミトコンドリアではAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)が活性化し、ヤセホルモンと呼ばれるアディポネクチンが作られ、脂肪が燃焼(脂肪のβ酸化という)、その結果、脂肪肝から健全な肝臓が取り戻すことができる可能性を示した論文を紹介します。

図1. ヒトケミカル摂取でAMPKを活性化し健康な肝臓を手に入れる
図1. ヒトケミカル摂取でAMPKを活性化し健康な肝臓を手に入れる

以下の記事では、CoQ10と同じヒトケミカルであるR-αリポ酸には脂肪肝の予防・改善効果があることを紹介しています。
R-αリポ酸γ-CD包接体による非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の予防・改善効果

また、AMPK活性化が脂肪肝の予防・改善効果をもたらすのですが、R-αリポ酸にはAMPKの活性化作用もあることを以下の記事で紹介しています。
ひえ症や低体温症に効く?R-αリポ酸によるAMPK活性化

では、まず、ここでもAMPKについて少し復習しておきます。ATPとはアデノシン3リン酸というアデノシンに3つのリン酸がついた体を動かすために必要な物質です。ATPからリン酸が1つ外れてADP(アデノシン2リン酸)になる(ATPを消化するプロセスの)ときにエネルギーが生まれます。そして、そのADPをATPに戻す作用を異化作用といい、バッテリーを充電することを意味しています。細胞がストレスによって異化作用の速度がATP消費の速度に追いつかなくなるとADPレベルが上昇し、ATPレベルは低下します。そうするとADPはアデニル酸キナーゼによってAMP(アデノシン1リン酸)に変換されてAMP/ATP比が上昇するとAMPKは活性化します。活性化したAMPKは異化反応を刺激してATP消費プロセスを阻害することでエネルギーバランスの回復を促進するのです。

図2. AMPK活性化によるADPからATPへの変換
図2. AMPK活性化によるADPからATPへの変換

このようにAMPKはエネルギー代謝をコントロールする因子であり、AMPKが活性化すると、脂肪酸酸化(ベータ酸化)が増加することが知られています。また、AMPKの活性化により、脂肪酸合成低下、糖新生抑制、コレステロール合成低下が起こることも知られています。つまり、AMPKは糖及び脂質の代謝をコントロールして生体のエネルギー代謝に重要な役割を果たしているのです。よって、AMPKが活性化することで、脂肪酸酸化増加、脂肪肝抑制、血糖上昇抑制、抗糖尿病、抗高コレステロール血症、動脈硬化抑制などの効果が期待できますので、AMPK活性化剤の開発が望まれているのです。(B. Xue et al., J. Physiol., 574, 73-83 (2006), D.G. Hardie et al., J. Physiol., 574, 7-15 (2006), B.B. Kahn et al., Cell Metabolism, 1, 15-26 (2005))

では、ヒトケミカルのCoQ10のAMPK活性化による脂肪肝の改善に関する論文紹介に入ります。

Coenzyme Q10 attenuates high-fat diet-induced non-alcoholic fatty liver disease through activation of the AMPK pathway(コエンザイムQ10はAMPK経路の活性化を介して高脂肪食が誘発する非アルコール性脂肪性肝疾患を軽減する)
Ke Chen et al., Food Function, 10, 814 (2019)

肥満、メタボリックシンドローム、心血管疾患に関連する非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)には、非アルコール性単純脂肪肝(NAFL)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝線維症などの一連の複雑な病理学的プロセスが含まれ、肝硬変や肝細胞癌などの肝臓関連の合併症を引き起こしやすくなります。

これまでに、動物研究でNASHラットにおけるCoQ10の肝保護的役割が示されています。しかしながら、CoQ10がNAFLDに作用するかどうかはよく分かっていませんでした。そこで、この論文では、CoQ10が脂質代謝障害を改善してNAFLDの進行を防ぐ可能性があるものとして、マウスによる試験とヒト肝癌由来細胞株のHepG2細胞を用いた試験で検討しています。

細胞試験でメカニズムの解明に大変有効な興味深い結果も出ているのですが、説明があまりにも長くなりすぎますので、ここでは、AMPK活性化に関わる部分のみを最後に紹介し、マウスによる試験をメインに紹介することとします。

マウスを用いた試験方法としては4週齢のC57BL/6Jマウス(24匹→N = 8 x 3群)に対して餌と水を自由摂取させ、対照群(Control):10%のエネルギーを脂肪として含む通常の食餌(低脂肪食)、高脂肪食群(HF):60%のエネルギーを脂肪として含む食餌(高脂肪食)、CoQ10群(HF + CoQ10):CoQ10 + 高脂肪食(1800mg CoQ10/食餌1kg)に分けています。

そして、24週間後の体重と肝臓重量の変化、皮下脂肪と内臓脂肪の変化、血清中のHDLコレステロールとLDLコレステロールの変化、血清中の中性脂肪と総コレステロールと変化、そして、肝臓切片をヘマトキシリン&エオシン(H&E)染色し、NAFLD activity score(NAS)を組織病理学的分析(脂肪変性, 炎症, バルーニング(風船状腫大・膨化変性))に基づいて測定しています。

まず、体重の変化です。高脂肪食(HF)を摂取したマウスは、著しく体重が増加していますが、CoQ10の摂取により、HF群と比較して体重増加が36.5%減少しています。

図3. 高脂肪食とCoQ10摂取による体重変化
図3. 高脂肪食とCoQ10摂取による体重変化

同様に肝臓重量もCoQ10摂取により減少しています。

図4. 高脂肪食とCoQ10摂取による肝臓重量変化
図4. 高脂肪食とCoQ10摂取による肝臓重量変化

高脂肪食で誘発された皮下脂肪および内臓脂肪がCoQ10の摂取よって減少することが分かりました。

図5. 高脂肪食とCoQ10摂取による皮下脂肪と内臓脂肪の変化
図5. 高脂肪食とCoQ10摂取による皮下脂肪と内臓脂肪の変化

高脂肪食で減少した血清中のHDL-CはCoQ10の摂取によって増加し、その一方、高脂肪食で増加した血清中のLDL-CはCoQ10の摂取によって顕著に減少することが分かりました。

図6. 高脂肪食とCoQ10摂取による血清中HDL-CとLDL-Cの変化
図6. 高脂肪食とCoQ10摂取による血清中HDL-CとLDL-Cの変化

高脂肪食で増加した血清中の総コレステロールとトリグリセリドはCoQ10の摂取によって顕著に減少することが分かりました。

図7. 高脂肪食とCoQ10摂取による血清中中性脂肪と総コレステロールの変化
図7. 高脂肪食とCoQ10摂取による血清中中性脂肪と総コレステロールの変化

肝臓切片のヘマトキシリン&エオシン(H&E)染色によって高脂肪食群では肝細胞脂肪変性とバルーニングが認められています。ところが、高脂肪食とCoQ10を摂取した(HF + CoQ10)群のマウスでは、脂肪滴が大幅に減少しています。また、NAFLD活性スコア(NAS)によってH&E染色した肝臓切片を評価したところ、CoQ10を摂取した群のNASが高脂肪食群に比較して顕著に減少しています。

図8. 肝臓切片のヘマトキシリン&エオシン(H&E)染色およびNAFLD活性スコア(NAS)
図8. 肝臓切片のヘマトキシリン&エオシン(H&E)染色およびNAFLD活性スコア(NAS)

このことから、CoQ10の摂取は高脂肪食によって誘発される肥満と脂質異常症を改善し、さらに、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の進行を防ぐことが示唆されました。

そして、この『CoQ10摂取⇒肥満と脂質異常症改善⇒NAFLD抑制』のメカニズムにはAMPK活性化が関与することをHepG2細胞の検討で明らかとしています。

HepG2細胞にパルミチン酸ナトリウム(PA)を添加すると細胞中の脂肪量は増加するのですが、マウスの結果と同様に、CoQ10の添加によって、脂質生成の阻害および脂肪酸酸化(β酸化)が促進され、細胞中の脂肪量は減少することを確認しています。これは、メカニズム的にはCoQ10のAMPK活性化によるものと考えられました。尚、AMPK活性化はAMPKのリン酸化(p-AMPK)を指標にできますのでp-AMPK/AMPK比で評価できます。予想通り、PA添加によって減少したp-AMPK/AMPK比はCoQ10添加によって上昇することが示されました。一方、PA添加とともにAMPK阻害剤として知られているドルソモルフィン(Compound C)を加えた状態ではCoQ10を添加してもp-AMPK/AMPK比は上昇しませんでした。これらの結果はCoQ10がAMPK活性化因子であることを示していると考えられます。

図9. HepG2細胞へのCoQ10添加によるAMPK活性化
図9. HepG2細胞へのCoQ10添加によるAMPK活性化

このように、細胞試験と動物試験によってCoQ10はAMPK活性化因子として機能し、肝臓の脂質代謝を調節して、肝臓の脂質の異常な蓄積を抑制し、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の進行を防ぐことができることが明かとなっています。