脳機能改善のための栄養素について(4)アルツハイマー型認知症予防とその栄養素
このシリーズの、(1)総論からn-3不飽和脂肪酸の有効性序論でも認知症とその予防にn-3不飽和脂肪酸が有効であることについては述べていますが、ここでは、その中でもアルツハイマー型認知症に焦点をあて、最近見出された知見をもう少し詳しくみていきましょう。
世界の認知症患者は、約4,000万人でその約半数がアルツハイマー型認知症と推定されています。このアルツハイマー型認知症は脳の広い範囲で神経細胞が死滅し、その結果、脳が委縮して記憶障害や認知障害が徐々に進行し、寝たきりとなって、やがて死亡していくという、本人とともにその家族にとっても不幸な疾患です。たとえば、ごく最近のニュースでも認知症患者が列車にはねられる鉄道事故の報道がありました。2012年度までの8年間で149件あり、事故後、鉄道会社がダイヤの乱れなどで生じた損害を遺族に賠償請求していたことも判明しています。当事者に責任能力がないとみられる事故で、どう安全対策を図り、誰が損害について負担すべきか、超高齢社会に新たな課題が浮上しています。このような背景からこの疾患に対する有効な治療法や予防法の開発が緊急課題となっています。
現在、アルツハイマー型認知症発症メカニズムに関しては、脳のアミロイドβ蛋白(Aβ)を主成分とするアミロイド斑(老人斑)の蓄積によるアミロイド仮説が最も多くの研究者によって支持されています。(コラム参照)この老人斑は40歳前後から脳に少しずつ蓄積し、加齢とともに蓄積量は増加していき、80歳以上の高齢者の70%以上に老人斑は認められるようになります。最近、この老人斑で評価できるアルツハイマー病モデルマウスが開発され、そのモデル動物による研究が行われています。その結果、カロリー制限、運動、そして、幾つかの栄養素の摂取による疾患の改善がみられています。
先ずは、カロリー制限です。Patelらによる報告(Neurobiology of Aging, 2005)があります。4ヶ月齢のアルツハイマー病モデルマウスを6週間、通常食の40%カロリーを制限して飼育したところ、モデルマウス脳皮質における老人斑面積は3分の1に減少していました。一方で、カロリー制限とは反対に通常食に対するカロリー比110%の高脂肪食を与えたところ老人斑は2倍に増加していることが判明しています。
次に、運動です。Adlardらによる報告(J. Neurosci., 2005)があります。ランニングホイールを摂り付けたケージでアルツハイマー病モデルマウスを5ヶ月間飼育したところ、大脳皮質の老人斑は52%減少していたことが判明しています。
そして、特に紹介したいのが栄養素摂取による老人斑の減少効果です。魚油やクリルオイルに含まれるn-3不飽和脂肪酸DHAの効果については、前々回と前回で詳しく説明していきますので、ここでは、もう一つ注目されているクルクミンの効果について紹介します。Yangらによる報告(J. Neurosci., 2005)によると、17ヶ月齢のアルツハイマー病モデルマウスにクルクミン500ppmを混ぜた餌を与え5ヶ月間飼育したところ、22ヶ月齢時のマウスの老人斑面積は17ヶ月齢時のマウスの老人斑面積に比べ、何と30%も減少していました。
この他、米糠から抽出されるフェルラ酸、ワインに含まれるレスベラトロール、アントシアニン、カテキン、そして、トコトリエノールなど幾つかの抗酸化物質にも老人斑減少効果が確認されたとの報告があります。
コラム
アミロイド仮説とは・・・・神経細胞でアミロイド前駆体タンパク質(APP)からセクレターゼ(切断酵素)によってアミロイドβ(Aβ)が作られます。長い年月を経て、Aβは凝集し、老人斑となります。老人斑の神経毒性によって神経細胞は神経伝達機能に障害を生じ、やがて死滅していきます。そして、アルツハイマー病が発生します。
コラム
アミロイド仮説とは・・・・神経細胞でアミロイド前駆体タンパク質(APP)からセクレターゼ(切断酵素)によってアミロイドβ(Aβ)が作られます。長い年月を経て、Aβは凝集し、老人斑となります。老人斑の神経毒性によって神経細胞は神経伝達機能に障害を生じ、やがて死滅していきます。そして、アルツハイマー病が発生します。