難消化性αオリゴ糖のちから(5)難消化性オリゴ糖による糖と脂肪の吸収抑制|株式会社シクロケムバイオ
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難消化性αオリゴ糖のちから(5)難消化性オリゴ糖による糖と脂肪の吸収抑制

このシリーズの最終章です。難消化性オリゴ糖が腸の中で食物繊維として働く作用を大きく部位別に分けると小腸と大腸(盲腸を含む)です。そして、『腸活』とは主に大腸内の腸内フローラの改善を意味しています。

このシリーズの(1)から(4)まではその『腸活』の大腸における腸内フローラの改善について難消化性αオリゴ糖とその他の難消化性オリゴ糖の作用を比較し、なぜ、難消化性αオリゴ糖が『スーパー難消化性デキストリン』あるいは『スーパー食物繊維』と言われるか、その所以について解説してきました。

ここでは、小腸における糖と脂肪(中性脂肪とコレステロール)の吸収抑制について難消化性αオリゴ糖とその他の難消化性オリゴ糖の作用を比較し、難消化性αオリゴ糖が多くの難消化性オリゴ糖の中で最も優れた作用を持っている理由について簡単に解説しておきます。

まず、難消化性αオリゴ糖による糖の吸収抑制作用に関しては下記にて紹介しております。
研究成果:第42回 α-シクロデキストリンのスクロースによる血糖値上昇抑制効果

通常のさまざまな難消化性オリゴ糖と難消化性αオリゴ糖の血糖値上昇抑制作用の違いを報告しています。松谷化学工業の難消化性デキストリンであるファイバーゾル2などの通常の難消化性オリゴ糖がご飯やパンなどのデンプンを含む食事を食べた時にデンプン分解酵素の活性を阻害して血糖値の上昇を抑制するのに対して、難消化性αオリゴ糖の場合はデンプン分解酵素だけでなく砂糖分解酵素の活性も阻害しますので、ご飯やパンを食べた時だけではなく、砂糖を含むスイーツを食べた時にも血糖値の上昇を抑制することができるといった内容です。

図1. 難消化性αオリゴ糖による糖質の消化吸収の抑制
図1. 難消化性αオリゴ糖による糖質の消化吸収の抑制

この知見をもとにファイバーシュガーというグラニュー糖に難消化性αオリゴ糖が10%含む製品が開発されています。難消化性αオリゴ糖を含有するファイバーシュガーを用いて経口糖負荷試験を行ったところ、同量のグラニュー糖を摂ったのにもにもかかわらず、ファイバーシュガーの方が、グラニュー糖投与群に比べ、血糖値の上昇が抑制され、投与後45分と100分においては、顕著な(統計学的に有意な)差が認められました。

図2. ファイバーシュガーによる血糖値上昇抑制
図2. ファイバーシュガーによる血糖値上昇抑制

尚、難消化性αオリゴ糖を機能性関与成分とした商品「難消化性α(アルファ)オリゴ糖」の機能性表示(食後の血糖値の上昇をゆるやかにする)の届け出が糖質として初めて消費者庁に受理されています。

次に、難消化性αオリゴ糖による脂肪の吸収抑制に関しては下記にて紹介しています。
見事に“脂肪の吸収を抑える”スーパー難消化性デキストリン

ここでは、松谷化学工業のファイバーゾル2や太陽化学のサンファイバー(原料名:グアーガム加水分解物)と難消化性αオリゴ糖を比較して、難消化性αオリゴ糖の方が、なぜ脂肪吸収の抑制効果がはるかに高いのかを概説しています。

現在、ファイバーゾル2は脂肪の吸収を抑える機能性関与成分として特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品に広くしようされていますが、ファイバーゾル2の場合、その効果が得られるための必要摂取量は1日に5gであるのに対して、難消化性αオリゴ糖であれば1日にわずか2gでいいことが分かっています。なんと食べてしまった中性脂肪9gを、わずか1gの難消化性αオリゴ糖で体外へ排泄できるのです。以下、そのヒト試験の概要です。中性脂肪含有食と難消化性αオリゴ糖を2g摂取した後、経時的に血中の中性脂肪値を分析し、一方、対照群として難消化性αオリゴ糖の代わりに不溶性食物繊維であるセルロースを摂取し、同様に血中の中性脂肪値を分析したところ、難消化性αオリゴ糖に顕著な中性脂肪排泄作用のあることが判りました。(*P < 0.05)

図3. 難消化性αオリゴ糖の中性脂肪吸収抑制作用
図3. 難消化性αオリゴ糖の中性脂肪吸収抑制作用

なぜ、このように低摂取量で済むのかをシクロケムバイオではvitro試験によって明らかにしています。

コレステロールや体に良くない悪玉の飽和脂肪酸であるパルミチン酸は水に殆ど溶けません。しかし、小腸液の中には胆汁酸やレシチンといった乳化のための成分が入っているために、それぞれ、コレステロールは0.27mg/mLで、パルミチン酸は0.45mg/mLという溶解度で小腸液に溶解します。(図4のコントロール)このように脂肪は小腸液で溶解されて体内に吸収されているわけです。難消化性オリゴ糖はこの溶解度を下げることで、体内への吸収を抑制しています。たとえば、医薬品であるコレスチラミンは胆汁酸と結合することで小腸液に含まれる胆汁酸濃度を下げ、その結果、コレステロールや脂肪の溶解度を下げ、吸収を抑制しています。(図4のコレスチラミン)この検討で、難消化性αオリゴ糖は他の難消化性オリゴ糖(ファイバーゾル2とサンファイバー)に比べ、顕著にコレステロールや脂肪の溶解度を下げること、それが難消化性αオリゴ糖の高い脂肪吸収阻害作用であることが判りました。そして、その効果は医薬品より高いものでした。

図4. コレステロールと飽和脂肪酸の小腸液中の溶解度
図4. コレステロールと飽和脂肪酸の小腸液中の溶解度

もう一つ、多くの難消化性オリゴ糖の中で難消化性αオリゴ糖だけが持つ脂肪吸収抑制の作用機序があります。それは、難消化性αオリゴ糖の中性脂肪乳化作用です。難消化性αオリゴ糖水溶液に中性脂肪を加え、ホモジナイザーで撹拌して、得られたO/Wエマルジョンをデジタルマイクロスコープで観察したところ、中性脂肪の量が増えるにしたがって、油滴の輪が大きくなることが確認されました。

図5. 難消化性αオリゴ糖による中性脂肪乳化作用
図5. 難消化性αオリゴ糖による中性脂肪乳化作用

この現象は、中性脂肪の3つの脂肪鎖の一つが難消化性αオリゴ糖に包接された界面活性作用を持つ包接体によって水の中で油滴の輪が形成され、その結果、未包接の中性脂肪を大量に取り込むことが出来るようになったため起こったと考えられます。その結果、わずか1gの難消化性αオリゴ糖で9gの中性脂肪を取り込むことができ、脂肪分解酵素であるリパーゼの攻撃を受けずに、中性脂肪の形で排泄できるものと考えられます。

図6. 1gの難消化性αオリゴ糖で9gの脂肪を排泄できる推定機構
図6. 1gの難消化性αオリゴ糖で9gの脂肪を排泄できる推定機構

さらに、難消化性αオリゴ糖はカラダに良くない飽和脂肪酸を選択的に排出し、逆にカラダに必要とされる不飽和脂肪酸を選択的に吸収する作用があります。ラット試験によって飽和脂肪酸TG(トリパルミチン)、及び、不飽和脂肪酸TG(トリオレイン)を同量含有した食餌と食物繊維であるキトサンと難消化性αオリゴ糖を摂取させた際の糞便に含まれる油脂を分析しました。その結果、キトサンの場合は飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸が同じ量だけ糞便中に含まれていましたが、難消化性αオリゴ糖の場合は16倍量の飽和脂肪酸が糞便中に含まれていて選択的に飽和脂肪酸が排泄されていることが分かりました。

図7. 難消化性αオリゴ糖の飽和脂肪酸選択的排泄作用
図7. 難消化性αオリゴ糖の飽和脂肪酸選択的排泄作用

この選択性に関しても他の難消化性オリゴ糖には観られない難消化性αオリゴ糖の効果です。尚、この特別な選択性は難消化性αオリゴ糖が、環状のオリゴ糖であるために飽和脂肪酸の包接複合体の形成が関与して得られるものです。

以上、さまざまな難消化性オリゴ糖の効能効果を比較して難消化性αオリゴ糖の“スーパー難消化性デキストリン”あるいは“スーパー食物繊維”と呼ばれる所以について説明してきました。もう一度、以下に、箇条書きでまとめておきます。尚、難消化性αオリゴ糖と比較した難消化性オリゴ糖は赤い太字で示しておきます。

1. 小腸での作用

1.1. 血糖値上昇抑制作用(デンプン分解酵素阻害と砂糖分解酵素阻害)
難消化性デキストリン(ファイバーゾル2)など他の難消化性オリゴ糖は分解酵素阻害のみ

1.2. 脂肪吸収抑制作用(必要摂取量2g/日)
松谷化学工業の難消化性デキストリンの必要摂取量は5g/日
ファイバーゾル2やサンファイバーのコレステロールや飽和脂肪酸の小腸液溶解度の低減作用は低く、難消化性αオリゴ糖が最も高い

1.3. 飽和脂肪酸選択的排泄作用
不溶性食物繊維キトサンに選択性はなくカラダに必要なDHAやEPAなど必須不飽和脂肪酸も排泄

2. 大腸での作用

2.1. 難消化性αオリゴ糖の腸活に有効なエネルギー換算係数(カロリー)は2kcal/g
一方、松谷化学工業の難消化性デキストリンのカロリーは1kcal/g

2.2. 難消化性αオリゴ糖は乳果オリゴ糖よりミネラル吸収に有効な短鎖脂肪酸の産生作用は大きい

2.3. 難消化性αオリゴ糖は乳果オリゴ糖よりも制御性T細胞分化に有効な酪酸産生量が大きく、大腸炎などに対する抗炎症作用や高アレルギー作用を持つ

2.4. 難消化性αオリゴ糖に超悪玉である小型LDLの低減効果があるため、中性脂肪低減効果で注目されているイヌリンよりも高い動脈硬化抑制作用がある